【レビュー】ピーターラビットの世界がギュッと凝縮「出版120周年 ピーターラビット™展」世田谷美術館で6月19日まで  

「出版120周年 ピーターラビット™展」が世田谷美術館で6月19日まで開催中です。絵本「ピーターラビット™」シリーズの1作目『ピーターラビットのおはなし』は、1902年に初版が刊行されてから、今年で120周年を迎えます。そんな節目を記念して開催される本展のコンセプトは「ハッピーバースデイ!ピーターラビット」。物語の原点である絵手紙や彩色原画など約170点で「ピーターラビット」のこれまでの歩みを振り返り、出版120周年を盛大にお祝いします。では、いざ、パーティー会場へ!

 ウサギへの愛情あふれるまなざし

 展示は、『ピーターラビットのおはなし』が誕生するまでの前日譚から始まります。 

作者のビアトリクス・ポター™(1866年~1943年)は、ロンドンの裕福な家庭に生まれ、小さい頃から絵が上手だったそうです。特に小動物の絵を描くことが好きで、弟と一緒にハツカネズミやカエルなどの小さな生き物を子ども部屋に持ち込み、「秘密の動物園」をつくっていたというエピソードも。

小さな生き物への愛は大人になっても変わらず、ビアトリクスは22歳の時にウサギを飼い始めます。最初のウサギにはベンジャミン・バウンサーと名付け、ベンジャミンが病気で亡くなると、ピーター・パイパーと名付けたウサギを飼って可愛がりました。

ビアトリクスがベンジャミンとピーターをモデルに描いたウサギのスケッチや水彩画は、ウサギの毛並みや表情、仕草が丁寧に描かれており、彼女のウサギへの愛情がひしひしと伝わってきます。

ベンジャミン・バウンサーをモデルに描いた《ウサギの頭部習作》2点(ともにヴィクトリア・アンド・アルバート博物館蔵/リンダー・コレクションからの寄贈)

 ウサギを擬人化して描いたグリーティングカードのデザインや、『不思議の国のアリス』『シンデレラ』などのお気に入りの物語のワンシーンを描いたイラストの数々も並び、ビアトリクスの細やかな観察力と豊かな想像力がピーターラビット誕生へとつながっていったのだとうかがい知ることができます。

左:《街角ですれ違う2匹のウサギの下絵》《街角ですれ違う2匹のウサギ》(ともに1890年、ヴィクトリア・アンド・アルバート博物館蔵/リンダー・コレクションからの寄贈)、右:《グリーティングカード》(1890年、ビアトリクス・ポター協会蔵)

絵本の原点となった絵手紙を日本初公開

 ビアトリクスの元家庭教師であるアニー・ムーアの息子、ノエル君が病気になった際に、お見舞いとして送った絵手紙が絵本「ピーターラビット」シリーズの原点でした。本展では、その直筆の絵手紙が日本初公開!
絵手紙のあらすじは、やんちゃなウサギのピーターがマグレガーさんの畑に入り、野菜を食べては追いかけられるという、まさに私たちが知る『ピーターラビットのおはなし』です。

《ノエル・ムーア宛ての絵手紙》(1893年9月4日付、ピアーソン PLC蔵)
《ノエル・ムーア宛ての絵手紙》(1893年9月4日付、ピアーソン PLC蔵)

ビアトリクスはアニーのすすめで絵手紙をもとに絵本の出版を模索しますが、なかなかうまくいかず、190112月に自費で私家版を出します。私家版とはいえ好評で、翌年には2刷も出版。私家版の購入者には、『シャーロック・ホームズ』シリーズで知られるコナン・ドイルもいたんだとか。 

その後、すべての挿絵に彩色すること、物語の分量を減らすことを条件に、ロンドンのフレデリック・ウォーン社から出版の話が舞い込んできます。こうして、1902102日に『ピーターラビットのおはなし』は世に出ていったのでした。

左:《『ピーターラビットのおはなし』初版(濃茶色厚紙装丁版)》、右:《『ピーターラビットのおはなし』初版(黄色布装丁デラックス版)》(いずれも1902年、ウォーン・アーカイブ/フレデリック・ウォーン社蔵)

シリーズ1作目の彩色画が勢ぞろい

続く展示室は、ひと部屋まるごと『ピーターラビットのおはなし』の世界。絵本の挿絵や表紙などになった彩色画34点があらすじとともに順番にたどれるようになっており、『ピーターラビットのおはなし』を読んだことがなくても物語を楽しめます。

 

初版出版時や版を重ねた際にカットされた計6点の挿絵も含め、ビアトリクスが当初思い描いた形で見ることができるのがポイントです。

原画が現存しない数点は再制作されたものですが、ほとんどはビアトリクスによる彩色原画。これらが一堂に会するのも日本初とのことなので、この貴重な機会をどうぞお見逃しなく!

世界に広がるピーターラビット

「ピーターラビット」シリーズはベストセラーとなり、世界各国で翻訳されています。日本では、石井桃子訳で1971年に福音館書店から出版されたものが初の正式な翻訳版ですが、実はその刊行以前から「悪戯な小兎」(1906年『日本農業雑誌』第2巻第3号掲載)や「ピータロー兎」(1915年『幼年の友』第7巻第2〜4号掲載)などとしてお話自体は日本でも紹介され、親しまれていたのだそうです。著作権意識がまだ強くなかった時代、いち早く紹介したいという思いに駆られるほど『ピーターラビットのおはなし』が魅力的な物語だったということでしょう。

左:《児童雑誌『幼年の友』第7巻第2号(1915年2月)より「ピータロー兎」》、右:《『日本農業雑誌』第2巻第3号(1906年11月)より「お伽小説:悪戯な小兎」》(ともに大東文化大学ビアトリクス・ポター資料館蔵)

絵本の世界を守るために

『ピーターラビットのおはなし』出版後、アメリカで多くの海賊版が出回ったことやピーターの粗悪なぬいぐるみが百貨店に並んだ経験から、ビアトリクスは特許を取得し、自作の世界観を守ろうとします。絵本のキャラクターを商品化するための特許を取得したのは、ビアトリクスが最初の人物だと言われているんだとか。

左が《ピーターラビットのぬいぐるみ特許証》(1903年、ウォーン・アーカイブ/フレデリック・ウォーン社蔵)

関連商品が出続けることで、絵本も続いていくという考えがビアトリクスにはあったそうで、商品化には意欲的でした。ボードゲームに可動式木製玩具、ルームシューズなど自ら監修したアイテムも多々あります。

《ピーターラビットの追いかけっこゲーム》(1919年頃、ウォーン・アーカイブ/フレデリック・ウォーン社蔵)
ビアトリクスが監修したアイテムの数々

また、緑豊かな田園風景を舞台にした自分の絵本を残していくには、自然も守っていかなければならないという意識も強くあったとのこと。ビアトリクスは、絵本やグッズの収益でイングランド北西部に位置する湖水地方の土地を少しずつ購入し、農場経営をしながら環境保護にも力を注ぎました。
死後、この広大な土地は歴史的建造物や自然景勝地を保護するナショナル・トラストに寄贈され、ユネスコの世界遺産にも登録されています。いまでも絵本で見たことがあるような風景を目の当たりにすることができるのは、ビアトリクスのおかげといっても過言ではありません。

 かわいいグッズが目白押し

 絵本の世界を飛び出して、さまざまなグッズにもなったピーターラビット。もちろん、本展のグッズ売場もすごいことになっています! 展覧会オリジナルグッズだけでなく、輸入雑貨や書籍も並び、目移りしてしまうこと間違いなしです。

数あるグッズの中でも、個人的に心ときめいたのがトートバッグ。ですが、ざっと売場を見渡しても、トートバッグだけでこんなにも種類があるんです。

迷いに迷った挙句、こちらのリバティプリントのトートバッグに決めました。ピーターがさりげなくいる粋な柄と、内ポケット付きという点が決め手に。早速、ヘビロテしています。

柄違いはもちろん、このリバティプリントのグッズだけでもノートやフォトスタンド、エプロンなどなど、さまざまなグッズがありました。

みなさん、本展のグッズ売場には覚悟して向かってください……!

※商品のデザインや価格は、予告なく変更する場合がございます。
※グッズは数量限定のため、品切れとなる場合がございます。

 記念撮影したくなるフォトスポットも

 鑑賞の記念に、グッズとあわせてチェックしたいのが、会場内に点在するフォトスポットです。ピーターがマグレガーさんに追いかけられていたり、美味しそうにラディッシュを食べていたり。物語の世界に入り込んだような気分が味わえます。

なかでも、注目のフォトスポットは、本展のためにイギリス湖水地方の「ザ・ワールド・オブ・ビアトリクス・ポター ・アトラクション」から贈られた、高さ180cmの特大バースデイケーキ。ピーターラビットの世界をギュッと凝縮したかのようなデザインは、見ているだけでも楽しいです。

フォトスポットの数々

 2022年は、本展だけでなく、作家の川上未映子さんによる新訳絵本の刊行やピーターラビットの世界観が楽しめる英国式庭園が山梨県にオープンするなど、まさに“ピーターラビットイヤー”という年です。この機会に、改めてピーターラビットの世界を味わい尽くしてみては?(ライター・岩本恵美)

出版120周年 ピーターラビット™展
会場:世田谷美術館
会期:2022年3月26日(土)~6月19日(日)
休館日:毎週月曜日(ただし5月2日(月)は開館)
開館時間:10時~18時(入場は17時30分まで)
入場料:一般1600円、65歳以上1300円、大高生800円、中小生500円
詳しくは展覧会公式サイト

 

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