【レビュー】「イスラエル博物館所蔵 ピカソ― ひらめきの原点 ―」版画作品中心の130点でピカソの画業をたどる

「イスラエル博物館所蔵 ピカソ― ひらめきの原点 ―」展が、4月9日に東京・港区のパナソニック汐留美術館で開幕した。6月19日(日)まで行われる本展では、版画を中心に130点の絵画、写真を展示している。
「イスラエル博物館所蔵 ピカソ― ひらめきの原点 ―」 |
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会場:パナソニック汐留美術館(東京都港区東新橋1-5-1 パナソニック東京汐留ビル4階) |
会期:2022年4月9日(土)~6月19日(日) |
休館日:水曜日 ※ただし5月4日と5月18日(国際博物館の日)は開館 |
アクセス:JR新橋駅「烏森口」「汐留口」「銀座口」より徒歩約8分、東京メトロ銀座線新橋駅「2番出口」より徒歩約6分ほか |
入場料:一般:1,200円、65歳以上:1,100円、大学生:700円、高校生:500円、中学生以下:無料 |
※詳しい料金、最新情報は公式サイトを参照 |
中東・エルサレムにあるイスラエル博物館はグラフィック作品を中心に800点以上のピカソ・コレクションを擁している。1972年にピカソの長年の友人だったコレクターのジョルジュ・ブロックから〈ヴォラール連作〉をはじめとする350点近くの版画が寄贈されたことをきっかけに世界的なコレクションが築かれることになった。
130点の作品でピカソの歩みをたどる

油彩、版画、本の挿絵、彫刻、あるいは詩作とさまざまな面で超一流の才能を発揮し、「最も多作な画家」としてギネス記録にもその名を刻んでいるパブロ・ピカソ。その中で版画は初期から晩年まで取り組み続けた領域である。本展は版画を中心に、油彩、素描、写真などを交え、次のような年代順の5章でピカソの創作活動に迫っている。
Ⅰ.1900-1906年 初期 ― 青の時代とバラ色の時代
Ⅱ.1910-1920年 分析的キュビスム、総合的キュビスム
Ⅲ.1920-1936年 新古典主義、シュルレアリスム、〈ヴォラール連作〉
Ⅳ.1937-1953年 戦時期 ―ドラ・マール、フランソワーズ・ジロー
Ⅴ.1952-1970年 晩年 ― ジャクリーヌ・ロック、闘牛、バッカナリア、画家とモデル、〈347シリーズ〉
ピカソほど作風の変遷が激しい画家も珍しい。逆を言えば、これほど時代ごとに関心の違いがはっきり見える画家も少ないだろう。象徴主義や新古典主義などの様式を吸収した一方、91年の生涯の中では複数の女性とパートナーの関係になり、彼女たちをモデルにした作品も数多く残した。興味を持ったことにとことんのめり込み、芸術界に革新を起こしていく。本展では画業全体を通観することにより、“20世紀最高の画家”が芸術に注ぎ込んだ情熱を窺い知ることができる。
重要版画が多数来日

生涯にわたって題材とした闘牛を描いた初期作品《村の闘牛》、パートナーの一人だったフランソワーズ・ジローをモデルにした《座る女》などの6点の油彩画に加えて、青の時代の傑作銅版画〈サルタンバンク・シリーズ〉、1930年代の〈ヴォラール連作〉、スペイン内戦時に製作した《フランコの夢と嘘 Ⅰ、Ⅱ》、86歳で取り組んだ〈347シリーズ〉という各時代を代表する重要な版画が本展の目玉だ。ドライポイント、アクアチント、リノカットなどさまざまな素材や技法を駆使して製作されたそれらからは版画へのピカソの探究心が伝わってくるのとともに、繊細に刻まれた線の中に版画家としても傑出したピカソの天才的な才能が見られる。
なお、130点の展示は同館の展覧会の中では比較的多数。そのため本展では鈍角の壁面を増やして空間を最大限生かし、膨大な展示を心地よい流れで見られるように工夫したという。会場を訪れたら、そうした空間デザインにも少しだけ注目してみてほしい。

関連イベントも開催
4月23日(土)には早稲田大学名誉教授の大高保二郎氏を講師に招いた記念講演会『「わたしは物に差別をしない。対象に階級など存在しない。」ーピカソ芸術の源泉をたずねてー』を開催(要事前予約)。また、4月28日(木)、5月14日(土)、5月17日(火)には同館の学芸員によるスライドトークも開催されるので関心のある方はぜひ。
(ライター・鈴木翔)