【レビュー】江戸と昭和の風景画を堪能――「旅路の風景─北斎、広重、吉田博、川瀬巴水─」 展 東京富士美術館で6月5日まで

旅路の風景─北斎、広重、吉田博、川瀬巴水─ |
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会場:東京富士美術館(東京都八王子市谷野町492-1) |
会期:2022年4月2日(土)~6月5日(日) |
休館日:月曜日、月曜が祝日の場合は開館し、翌火曜日が振替休館 |
アクセス:JR中央線八王子駅からバス(創価大正門東京富士美術館行きか創価大学循環)に乗り、創価大正門東京富士美術館のバス停で下車、京王八王子駅からも同様のバスで行ける |
入館料:大人1000円、高校生・大学生600円、小中学生300円、未就学児無料。 |
※詳細情報は同館HP(https://www.fujibi.or.jp/)で確認を |
江戸時代の葛飾北斎(1760~1849)と歌川広重(1797~1858)。大正から昭和にかけての川瀬巴水(1883~1957)と吉田博(1876~1950)。浮世絵と新版画を代表する4人の画家をフィーチャーした展覧会である。「旅路の風景」というタイトルにある通り、4人とも風景画が得意(まあ、北斎はその他にも色々得意なジャンルはあるが)。それぞれの画風の違いが楽しめる展示になっている。

まず、北斎、広重による「江戸の風景」。ふたりの代表作である《冨嶽三十六景》全46図と《東海道五十三次》全55図、それらがすべて展示されているのが目を引く。どちらもあまりにも有名なのだが、一気に見る機会は意外に少なかったりもするのである。そして、こうやってまとめて鑑賞すると、浮世絵の本に書かれている北斎と広重の違いも手に取るように分かる。

《東海道五拾三次之内 丸子 名物茶店》の夕景、《東海道五拾三次之内 庄野 白雨》の雨の表現・・・・・・、広重はその場の情景を丁寧に描写しながら、独特の俳味を出している。比べて北斎。波の描写があまりにも有名な《冨嶽三十六景 神奈川沖浪裏》、橋の向こうに優雅な冨士の姿が見える《冨嶽三十六景 深川万年橋下》。どの絵をとっても、鋭く理知的な視線が見えてくる。「エッジが利いている」のである。ほぼ同じ時代を生きながら、2人が見ている風景はまったく違うのだ。

後半は「近代の風景」。巴水と吉田博、新版画で共通するのは、何十回も摺りを重ねた色彩の豊かさ、繊細な光のグラデーションだ。こちらの2人は洋画を学んだ人たちだけに、「江戸の風景」とは構図も発想もまったく違う、と実感できる。もう一つ言えば、新版画は実物を見てこそ、その良さが分かると思う。印刷物ではよく分からない微妙な色の重なりが、ホンモノを目の前にすると立体的、重層的に迫ってくるからだ。

巴水の《馬込の月》や《大森海岸》には夜の風景の描写に何とも言えない詩情がある。吉田博の《瀬戸内海集》の《帆船》の連作を一覧すると、ひとつの版木を色を変えて摺っていくことで出来るニュアンスの違いが一目瞭然だ。ここ数年、再評価が進みつつある新版画。なぜそうなのか、という理由が何となく分かった気がする。


北斎、広重、巴水、吉田博――様々な形で様々な風景を描いた名手たち。今回の展覧会は、それぞれの魅力をストレートに見せてくれる。シンプルだからこそ、際だって見える4人の個性。老若男女、幅広い層が楽しめる企画だと言えそうだ。(事業局専門委員 田中聡)
