【プレビュー】「歌枕 あなたの知らない心の風景」サントリー美術館で6月29日から

歌枕 あなたの知らない心の風景 |
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会場:サントリー美術館(東京・六本木) |
会期:2022年6月29日(水)~8月28日(日) |
休館日:火曜日(ただし8月23日は18時まで開館) |
アクセス:都営地下鉄大江戸線六本木駅出口8より直結、東京メトロ日比谷線六本木駅より地下通路にて直結、東京メトロ千代田線乃木坂駅出口3から東京ミッドタウンまで徒歩約3分 |
入館料:一般1,500円(1,300円)、大学・高校生1,000円(800円)、中学生以下無料 *( )は前売り |
※作品保護のため、会期中展示替えあり。詳しくは同館のホームページへ。 |
形のない心を表す手段としての「和歌」
古来、日本人にとって形のない感動や感情を、形のあるものとして表わす手段、それは和歌でした。移り変わる自然やさまざまな物事に自らの思いを託し、日本の美しい風景を詠いました。
次第に、和歌で繰り返し詠まれた土地には特定のイメージが定着し、ついにはその土地のイメージを通して、自らの思いを表わすことができるまでになります。和歌によって特定のイメージが結びつけられた土地、それが今日に言う「歌枕」であり、この展覧会のテーマです。美しい歌枕の世界を数々の美術作品を通して紹介する本展の構成を紹介していきます。
第一章:歌枕の世界


かつての日本では長らく、日本の名所は目に見える実景以上に、和歌の詩的なイメージによって表わされる伝統がありました。第一章では、そのイメージの源泉となった歌枕の世界を大画面の屏風絵によって体感します。
第二章:歌枕の成立

和歌で繰り返し詠まれた地名は、次第に特定のイメージが定着し、平安時代末ごろには「和歌によって特定のイメージが結びつけられた地名」の意味に限定されるようになります。自らの思いを表わすための重要な言葉や技法として、歌人の間で広く共有された歌枕は、心の風景という側面が強く、和歌の中にだけ存在した想像上の名所とも言えるものでした。
第二章ではまさに歌枕が成立していく過程にあった平安時代の古筆を通して、歌枕の歴史を概観します。
第三章:描かれた歌枕
歌枕は早くから美術と深く関わりながら展開し、その歴史の始まりは、平安時代のやまと絵とされています。時代が変わっても、風景ではなく、その土地を象徴する景物で表わされる歌枕と絵画の関係は、何らかの形で意識され続けました。


第四章:旅と歌枕
やがて人々は歌枕として詠まれた土地に憧れを持ち、歌枕への旅を行うようになります。なかでも、西行法師の旅は後世の歌人に大きな影響力を与えました。松尾芭蕉の「奥の細道」も、そうした西行の旅を追体験し、偲ぶ歌枕への旅のひとつだったとみられています。


一方で、実際に旅に出ることが難しい人々は、歌枕のイメージ世界を江戸時代の風俗に置き換えた浮世絵や、歌枕の景観を模した庭園などを通して旅を楽しみました。
第五章:暮らしに息づく歌枕
「書く」という行為で和歌にゆかりの深い硯箱において、歌枕由来のデザインは高度に発達し、数々の名品が伝えられています。

そのほか家具や陶磁器、茶道具といった調度品から身にまとう染織品に至るまで、さまざまな分野の装飾に歌枕のデザインが用いられており、かつては身の回りに歌枕があふれていた様子がうかがえます。



かつては誰もが思い浮かべることのできた日本人の心の風景、歌枕の世界をこの展覧会を通して覗いてみてはいかがでしょうか。
(読売新聞美術展ナビ編集班)