【羽生結弦展2022情報】田中宣明さん×能登直さん対談③ 能登「一瞬の《素》を見守る」、田中「視線の先を見守る」

「羽生結弦展2022」にご出品いただくスポーツフォトグラファーの田中宣明さんと、写真家の能登直さんとの対談の最終回をお届けします。スペースの都合で会場展示できなかった能登さんの作品2点を自らの解説付きでご紹介。さらに会場展示作品から、お2人の「おすすめの1枚」も紹介してもらいました。(司会・「羽生結弦展2022」担当)

能登「振付の休憩中の1枚」

―では、残念ながら展示できなかったなかから、能登さんの2枚をお願いします

能登「まずは、2012年の『花になれ』の振付中の休んでいるところに寄っていって、カメラを構えて撮らせてもらった1枚です」

田中「こういうのって、『今、いいよ』って雰囲気を醸し出してるの?」

能登「この時は、最初スタンドで撮ってたんですけど、後から降りてリンクサイドの扉のところとかで座って撮ってたりして、(結弦君が)休憩で戻ってきた時に近くにいたので、『ちょっと撮っていい』という感じで、寄ってって。これ35ミリ(レンズ)で撮影です」

―上が開放感ありますけど、どんな狙いでしたか?


能登「何に使うか分からなかったんで、とりあえず空間を空けてみたいな頭だったんじゃないですかね()

田中「とはいえ練習撮ってて、なんで(望遠ではない)35ミリ持ってたんですか?」

能登「たぶん下に座って、広めに撮ったんじゃないですかね。ズームレンズも持ってましたけど、たまたま35ミリが付いていたので、寄って撮ったんじゃないですかね」

田中「程よく、後ろが抜けてていいですね。リンクの広告とか、汚い壁とかが写りこんでなくて」

能登「この辺、ごちゃごちゃしてたので、それもあって上とか空けたのかもしれません。

エッジケース付けてるから、練習終わったところかもしれませんね。終わって着替え向かう前かもしれません」

能登「練習中の《素》を見守るような」 

―もう1枚お願いします

能登「こちらはソチ五輪前の2014年1月です。練習しているところを撮らせてほしいとお願いして、許可をもらって行きました。一人で黙々と、ジャンプは一切跳ばずに、滑りこむみたいな感じでした。自分で自分を追い込むような感じで、誰も見ていないなかで、よく自分を追い込めるなぁと。撮ってて、ふと一瞬休んでいるような瞬間を、ちょっと遠めから狙いました。

なんとなく、今も練習中、こういう瞬間ってありますよね」

田中「なんか能登さん、ふとした表情好きですよね。こういうの、ちょっと前まで誰も撮ってなかったんですよ。ふだんの練習中とかも、こういう瞬間があっても誰も撮ってなっかたけど、今はみんな撮ってるからね」

能登「そうですね。逆に連写してたりしますよね」

田中「当時から撮ってたのは、能登さんだけですよ。こういう視点が、どういう意味で撮っていたのかは知りませんが、なかなかないんですよ。ふとした瞬間が好きなんでしょうね」

能登「あと、広告って色を付ける世界じゃないですか。脚色というか。そうでないナチュラルな《素》を撮っている感覚なんでしょうね。今、結弦君の《素》が出てるのかなぁという感じだから、(シャッターを)押してるんでしょうね」

田中「人だね。人を撮る人だからね」

能登「そういう(感覚が)ピピっと動いたときは、ボタン押してるんでしょうね。

今はウエアを脱げばバシャバシャバシャ。しゃがめばバシャバシャバシャ。靴紐結び直せばバシャバシャバシャですからね()

田中「時系列で全部載せちゃう媒体が出てきたから、全部追っちゃう。一言一句漏らさずみたいな。それは能登さんの仕事じゃないよね。今は、意図を感じられない仕事も多いよね」

能登「そうですね」

田中「能登さんの出す写真って、この先の表情に何があるんだろうというのがありますよね。でも、これは使われないんですね(笑)」

能登「そうっすね()

―うっ(汗)

能登「これが貼られていたら、リンクの端から結弦君を見守っているように見えたかもしれませんね。『今、そこで休んでいるのね』と」

田中「おしゃれ! そこにいそうみたいな」

能登「田中さんも言いましたけど、僕も練習着多めですよね。読売新聞社の写真部が撮ってない感覚のものをチョイスしたというはあるかもしれない」

―それでは、今回飾られる写真のお勧めをお願いします

能登「めっちゃいい。はまった1枚」

能登「昨年末のメダリスト・オン・アイスの光が差し込んでいる1枚ですかね。練習で田中さんと田口(有史)さんと3人で3か所に分かれて撮っていました。僕が撮っている位置から見てると、結弦君が僕の方に向かって来てました。ちょうど照明のテストもしていて、暗くなったり、光線が差したりを繰り返していて、たまたま光が結弦君に斜めから差し込んだ瞬間があって、『めっちゃいい』と思って。顔つきも自分の曲かけ前で集中している時だったので、闘志が漲っているように見えそうという感じで、あえて露出は暗めで狙って、はまった1枚でした」

―これは本当に素晴らしい写真です。実際に見る前に、もう一度、ここを読んでほしいですね。では、田中さんは?

田中「見守りたい ゆづの視線」

田中「奇しくも、ゆづが負けちゃった試合なんですけど。2019年のさいたまの世界選手権のフリー後のスモールメダルセレモニーです。普通に正面から撮ろうと思ったんですけど、正面はいっぱいカメラマンがいたし、じゃ横顔狙おうかと思って。結構、横顔好きなんで。

ネイサン(・チェン)が質問を受けた時に、ゆづに対してリスペクトを込めた話をしてくれていたんですよ。それを聞いている時の写真なんですが、目つきがとても良かったんですよ。ネイサンの言葉を聞いて何を感じているんだろうなとか、ゆづはこの先どうなっていくんだろうなとか、自分も想像しながら。それを感じさせる視線だったんですよね。その目つきを、大きいパネルで見ていただければ、その当時のことを皆さんも思い出せるかなと。想像豊かにできる1枚かなと思って選びました」

―良かったですね、飾られて!

田中「ホントですよ!()これ、大きいので見たら、みんな『わー』ってなりますよね。

ゆづの言葉を聞いたりして、『これからどうなるんだろう』とか自分なりの解釈もあるんだろうけど、このゆづの顔を見たら、逆にそういうのを忘れられて、温かくじゃないけど、ゆづがやっていくことを見守っていけばいいんだって思わせる1枚かなと」

能登「深い考察ですね」

田中「ゆづ、どうするんだろう。悲しいのかなと、色々考えちゃうんだけど、そうじゃないと。この人が決めたことを見守っていけばいいんだよ。そこに尽きると思えた1枚でしたね」(完)

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