【レビュー】「サロン!雅と俗-京の大家と知られざる大坂画壇」京都国立近代美術館で5月8日まで 結集した国宝や大英博物館の名品が大坂画壇の謎を解き明かす

「サロン!雅と俗-京の大家と知られざる大坂画壇」が京都国立近代美術館で5月8日(日)まで開催されています。
江戸画壇や京都画壇に対して、「大坂画壇」という言葉は聞き慣れない方も多いかもしれません。30年ほど前までは、研究者の間でも大坂画壇の存在すら疑われていたそうです。
知られざる大坂の画家たちは、どのように活動しどのような作品を残したのでしょうか。その秘密に迫るのが本展です。国宝・重要文化財、大英博物館の名品約20件を含む約240件の作品が、大坂画壇の秘密を解き明かすべく結集しました。
池大雅や円山応挙 大坂の画家の師匠にあたる京の大家

本展では、大坂画壇を紐解く前段階として、大坂の画家たちの師匠にあたる京都の画家たちを紹介します。
18世紀後半の京都では、伊藤若冲や円山応挙、与謝蕪村、池大雅など、個性豊かな画家たちが活躍しました。
第1章「京の大家と弟子たち― 継承か断絶か?」の前半には、そんな京都の画家の代表作が集います。

大英博物館が所蔵する円山応挙の花鳥図は、必見です。牡丹や菊はみずみずしく咲き、小鳥たちは視線を交わしているかのよう。写生を重視した応挙らしい、臨場感溢れる作品です。
池大雅や円山応挙などの京の大家の画風は、大坂へと広まっていきます。大坂で活動した木村蒹葭堂や佐藤魚大などは、京都画壇の作品に学びながらも独自の画風を開拓していきました。

展示順が前後しますが、第2章では木村蒹葭堂が師匠である池大雅の作品を参考に描いた《箕山瀑布図》を見ることができます。
また大坂の画家たちの多くは、町人としての本業の傍らで絵画を描く「文人」でした。
交流する京都と大坂の画家たち
京都と大坂の画家や文化人たちは、実は積極的に交流していたそうです。第2章「京坂のサロン文化―越境するネットワーク」では、日記や作品から京坂の画家たちの交流を紐解きます。
京坂の文化ネットワークの中心人物として挙げられるのが、大坂の木村蒹葭堂と京都の売茶翁です。

木村蒹葭堂は、絵画制作だけではなく書籍や絵画の蒐集にも没頭しました。博物館のような木村蒹葭堂の自宅には、多くの画家や文化人が集ったそうです。
一方で京都では、売茶翁が煎茶道具を担いで簡素な茶席を設け、人々に煎茶を提供しました。売茶翁のもとには、伊藤若冲や池大雅、木村蒹葭堂をはじめとする多くの文化人が集い、活発な議論を交わしました。「売茶翁の煎茶を飲まなければ文化人として失格」と言われるほど、売茶翁は京坂の文化人の尊敬を集めたそうです。
画家たちの交流の証 大英博物館所蔵の貴重な合作
画家たちの積極的な交流の証と言えるのが、「合作」です。


様々な魚が描かれた《魚介図巻(鈴木派)》、画家やその妻、茶道の家元、能楽師など総勢64名によって描かれた《宝珠図》をはじめとするバラエティ豊かな合作を見ることができます。
遊び心溢れる合作からは、当時の画家たちが身分や肩書きと問わずにのびのびと交流していたことがわかります。活発な交流や共同制作は、京坂の画家に少なからず刺激をもたらしたのでないでしょうか。また、そうした交流の証を大英博物館が所蔵していることにも驚きを隠せません。
大坂画壇の代表作が一堂に

クライマックスの第3章「町人たちのアートワールド― 大坂画壇の可能性」では、江戸時代から昭和時代にかけて、大坂で活躍した画家の代表作が一堂に会します。

特に印象的だったのが、佐藤魚大の《閻魔王之図》でした。描かれているのは、死者の罪を裁く閻魔大王の様子。おどろおどろしいイメージの閻魔大王が、なぜかお茶目に見えます。
ちなみに佐藤魚大は、日本ではあまり名が知られていませんが、イギリスではロンドン大学SOASの修士論文のテーマになるほど研究されているそうです。
本展は、大英博物館やロンドン大学SOAS、京都国立近代美術館などが中心となって行ってきた共同研究が基盤になっており、国際的な研究成果の発表の場とも言えます。

大坂を代表する琳派の画家・中村芳中の《四季草花図屏風》も見逃せません。四季の草花がリズミカルに配置されていて、流れるような優美さに惹きつけられました。

第3章終盤では北野恒富や小出楢重など、大坂を代表する画家たちの作品も見ることができます。
大坂画壇はなぜ「知られざる存在」になったのか

そもそも、大坂画壇はなぜ知られざる存在となってしまったのでしょうか。京都国立近代美術館の主任研究員・平井哲修さんのによると、二つの理由があるそうです。
まず、「岡倉天心が評価しなかった」ということ。日本美術史の骨格は、岡倉天心の評価によって作られていると言っても過言ではありません。岡倉天心は文人画を評価しなかったため、文人が多くの割合を占めていた大坂画壇は埋もれてしまったのです。
そして、大坂の画家たちの多くが「評価されること」を嫌い、展覧会に出品しなかったことも今日の大坂画壇の知名度に関係しています。住友家などのパトロンに支えられた大坂の画家にとって、評価されることはそれほど重要ではなかったのです。
今後、大坂画壇の研究がさらに進めば、埋もれてしまった画家たちの素晴らしい作品にお目にかかれる機会が増えていくことでしょう。現時点で判明している大坂画壇の全体像を見渡せる、貴重な展覧会です。ぜひお見逃しなく。
(ライター・三間有紗)
サロン!雅と俗-京の大家と知られざる大坂画壇 |
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会場:京都国立近代美術館 (京都市左京区岡崎円勝寺町26-1) |
会期:2022年3月23日(水)~5月8日(日) ※一部展示替え有。前期:3月23日~4月17日/ 後期:4月19日~5月8日 |
開館時間:午前9時30分~午後5時 金曜日、土曜日は午後8時まで開館 ※入館は閉館の30分前まで |
休館日:月曜日 ※ただし5月2日(月)は開館 |
観覧料:一般:1,200円(1,000円)/大学生:500円(400円) |
アクセス 京都駅前から市バス5番 銀閣寺・岩倉行「岡崎公園 美術館・平安神宮前」下車すぐ |
詳しくは展覧会のホームページへ |
※慣例では江戸時代を大坂画壇、近代以降は大阪画壇と表記しますが、本展では煩雑さを避けるために表記を「大坂」に統一しています。