【レビュー】「オールドノリタケ×若林コレクション 」兵庫陶芸美術館で5月29日まで 輸出用陶磁器の華麗なる世界

特別展「オールドノリタケ×若林コレクション -アールヌーヴォーからアールデコに咲いたデザイン-」
会場:兵庫陶芸美術館(兵庫県丹波篠山市)
会期:2022年3月19日(土)~5月29日(日)
開館時間:10:00~18:00 ※入館は閉館の30分前まで
休館日:月曜日
観覧料:一般:1200円/大学生:900円/ 高校生以下無料
詳しくは美術館の公式サイト

特別展「オールドノリタケ×若林コレクション -アールヌーヴォーからアールデコに咲いたデザイン-」が兵庫陶芸美術館で5月29日まで開催されています。

オールドノリタケとは、名古屋市の陶磁器メーカー・ノリタケカンパニーリミテドの前身である森村組、および日本陶器によって明治中期から第2次世界大戦期にかけて製造された輸出向け陶磁器です。欧米の流行を反映し技巧を凝らしたオールドノリタケは、欧米諸国で人気を博しました。

本展では、30年かけてオールドノリタケを集めた若林氏のコレクションの中から、選りすぐりの約250件を4章構成で紹介。花瓶、ティーカップなどの多様なオールドノリタケやデザイン画を堪能できます。

オールドノリタケのはじまり

色絵金盛薔薇文飾壺 1891~1921年頃

19世紀後半、ヨーロッパやアメリカで開催された万国博覧会を機に、西洋各国の日本に対する関心が高まります。そこで明治政府は、殖産工場政策の一環として陶磁器の生産を強化し、万国博覧会などで世界に紹介しました。

民間の陶磁器業者も輸出陶磁器の生産に乗り出すなかで、オールドノリタケは誕生します。森村組、および日本陶器(後に森村組が設立)は、ニューヨークに設けた販売拠点「モリムラブラザーズ」を通してオールドノリタケを現地に展開していきました。政府の援助を受けることなく、独自に築いた販売網によって海外展開したという点で、森村組は他の民間業者と一線を画しています。

多様なモチーフを紐解く

オールドノリタケの魅力の一つは、パッと目を引く華やかなデザイン。デザインの中心となるモチーフは、豪華絢爛なバラ、可愛らしい鳥、西洋絵画に出てくるような人物像……など、多岐に渡ります。

第1章では、「植物」「動物」「人物」「風景」「異国趣味」の5つのカテゴリーに分けて、オールドノリタケのモチーフを紹介します。

第1章「モチーフ」展示風景
異国への関心や憧れを伺えるモチーフも

多くのモチーフが洋風ですが、絵付けを担ったのは日本の画工たちでした。
アートディレクターの大倉孫兵衛はシカゴ万国博覧会を視察した際、現地で絵筆などの道具や陶磁器を購入して持ち帰り、絵付工房の画工たちに和風から洋風へと画風を転換するよう要請したそうです。

芦刈歩・東京新聞編『オールドノリタケ×若林コレクション -アールヌーヴォーからアールデコに咲いたデザイン-』東京新聞、2021年

当初、反発した画工たちを大倉が説得した結果、森村組は他社に先駆けて洋風の絵柄や構図、色彩などを取り入れ、独自のデザインを開花させていったのです。

アメリカの流行を取り入れる

現地の人々の心を掴むには、移り変わる流行をいち早く察知する必要があります。オールドノリタケがアメリカの流行を取り入れるにあたって、重要な役割を果たしたのがモリムラブラザースの図案部でした。

ニューヨークに設立されたモリムラブラザーズは、オールドノリタケの販売拠点のみならず市場の動向を探る場でもありました。そんなモリムラブラザーズの図案部には、アメリカ在住の日本人画家や日本から派遣された絵師が在籍していたそうです。図案部の人々は、現地の生活スタイルや女性の身なりから流行を感じ取り、デザインに反映させていきました。そのデザインを日本に送り、職人の手で製品化したのです。

第2章「スタイル」では、流行のスタイルを取り入れたオールドノリタケを紹介します。オールドノリタケには様々なスタイルが取り入れられましたが、ここでは「ジェスパーウェア風」「クロワゾニスム風」「アールヌーヴォー風」「アールデコ風」の4スタイルを見ることができます。

アールヌーヴォー風

色絵金彩藤文花瓶 1891~1921年頃

アールヌーヴォー風のオールドノリタケは、思わず見とれてしまうほど流麗。曲線的なフォルムやデザインに沿うように緻密な装飾が施されていて、細部まで美意識が込められているのを感じます。

アールデコ風

第2章「スタイル」アールデコ風のオールドノリタケの展示風景

展示室の中で惹きつけられたのが、「ノリタケ・アールデコ」とも呼ばれるアールデコ風のオールドノリタケです。ポップな色彩と遊び心溢れるデザインが魅力的!当時の人々が夢中になったのも、納得できます。

第4章のラスター彩を施したオールドノリタケ 。ぜひ会場で実物を見て、虹色の輝きを確認していただきたい

こちらは第4章の展示品ですが、アールデコ風のオールドノリタケ「ノリタケ・アールデコ」には、光の反射によって虹色の輝きを生み出す技法である「ラスター彩」が盛んに用いられました。

そのほか、ジェスパーウェアの意匠を意識しつつ、独自の技術「盛上もりあげ」を施したジェスパーウェア風や、くっきりとした輪郭、平面的なデザインが特徴的なクロワゾニスム風のオールドノリタケを展示。

第2章「スタイル」ジェスパーウェア風のオールドノリタケの展示風景

デザイン画とオールドノリタケが合わせて展示されているコーナーもあるので、ぜひ見比べてみてください。 鮮やかな色彩で細部まで描きこまれたデザイン画には、図案部のこだわりが感じられます。同時に、アメリカから送られてきた平面のデザイン画を立体で捉え、陶磁器として再現した職人の想像力にも驚かされました。

第2章「スタイル」 の展示風景。デザイン画(上)とオールドノリタケ(下)

盛上、金盛、際立つ技

オールドノリタケが輝きを放つのは、モチーフやスタイルを際立たせる技法があったからこそとも言えます。そんなオールドノリタケの装飾技法に着目するのが、第3章「テクニック」です。

オールドノリタケの代表的な装飾技法が、 「盛上もりあげ」と「金盛きんもり」。

色絵盛上薊文四耳花瓶 制作年不詳

盛上は液状の粘土などで文様を盛り上がらせる手法を指します。

色絵金盛菊文双耳花瓶 1911~1921年頃

そして、盛上に金彩を施す技法が金盛です。

あらゆる技巧を凝らして生み出されたオールドノリタケからは、流行のデザインをより忠実に、より魅力的に再現したいという意気込みが伺えます。

何に使う?最後までワクワク

中央に見えるのはトーストスタンド。右端の人形型の入れ物は、塩胡椒入

器や皿、蓋物など、幅広い種類のオールドノリタケが次々と目に飛び込んでくるため、最後までワクワクしながら見ることができます。第4章「ファンクション」では、思わず欲しくなってしまうオールドノリタケや、どうやって使うの!?と想像したくなるオールドノリタケに出会えました。

婦人型のドレッサーセットや香水瓶、宝石箱、パフケースなど

オールドノリタケのラインナップは化粧用具にも及びます。婦人型のドレッサーセットや重厚感がある宝石箱は、装いの時間を楽しく演出してくれそうです。

色絵モールドグリフィン型セロリディッシュセット 1918〜1941年頃 大皿にはセロリスティックを、小皿にはディップソースなどを入れる
色絵ラスター金彩孔雀文チョコレートセット 1920〜1931年頃

野菜をのせるセロリディッシュセットや飲むためのチョコレートセットなど、当時のアメリカの食文化を想像させるオールドノリタケも見ることができます。

エピローグでは、オールドノリタケを使用したテーブルコーディネートを紹介

時を経てもなお、オールドノリタケの魅力は色褪せません。多くの人々の工夫や努力、挑戦が結集し生み出されたデザイン・技巧は、見る者の心を鷲掴みにします。ぜひ会場で堪能してみてください。思わず一目惚れしてしまうような、オールドノリタケに出会えるかもしれません。
(ライター・三間有紗)