【レビュー】「エリック・カールとアメリカの絵本画家たち」ちひろ美術館・東京で6月19日まで つながる思い「絵本を美術作品として」

「エリック・カールとアメリカの絵本画家たち」が、ちひろ美術館・東京で始まりました。20215月に91歳で亡くなった絵本作家のエリック・カール。本展の前半では、彼が手がけてきた絵本を通して、その人生、ちひろ美術館との関わりを紹介します。後半では、ちひろ美術館コレクションから、アメリカの絵本賞「コールデコット賞」を受賞したアメリカの画家たちの作品を展示。その多様な表現を見てとることができます。

エリック・カールとアメリカの絵本画家たち
会場:ちひろ美術館・東京  (東京都練馬区下石神井4-7-2)
会期:2022年3月12日(土)~6月19日(日)
休館日:月曜日(祝休日は開館、翌平日休館)
開館時間:10時~16時 ※入館は閉館の30分前まで
入館料:大人1,000円、高校生以下無料
アクセス:西武新宿線上井草駅下車徒歩7分
詳しくは美術館のホームページ

 ️カラフルな表現の根底にあった戦争体験

 エリック・カールといえば、『はらぺこあおむし』に代表されるようなカラフルな絵が魅力です。その色鮮やかな絵は、「ティッシュペーパー」と呼ばれる薄紙をコラージュして作られています。薄紙は筆やスプレー、時には指を使ってと、さまざまな手法でカールが彩色したものなんだそう。紙もの好きとしては、この薄紙だけでも欲しくなってしまうほど素敵です。

 本展では、カール自身の言葉を交えて年代順に17点を展示しています。

 カールの色彩豊かな表現には、彼の戦争体験が大きく影響していました。1929年にアメリカのニューヨーク州でドイツ人の移民である両親のもとに生まれたカールは、1936年にはドイツへ移住し、第二次世界大戦を迎えます。

カールは自身のカラフルな作風について、次のような言葉を残していました。「ファッショナブルな色彩は影をひそめ、社会の雰囲気までもが灰色でした。(中略)あまりにも長いあいだ、色彩から遠ざけられていたため、私は色に対してことさらの情熱を抱いているのだと思います」

戦争中に美術の先生がカールにこっそり見せてくれたピカソやマティスの色鮮やかな絵は、後々まで心に強く残ったとも語っています。

 自由に絵が描けることの喜び、生命力あふれる力強さ――。そういったものをカールの作品から感じられるのは、自身の戦争体験からくる平和への強い思いがあったからなのでしょう。

「カールさんの言葉、人生そのものにもぜひ注目してみてほしい」と、本展を担当した学芸員の松方路子さんは話します。

 ️自分の子ども時代を投影した作品づくり

松方さんにおすすめの作品を尋ねると、こちらの作品を紹介してくれました。

エリック・カール『できるかな?あたまからつまさきまで』習作(1996年)

動物たちのまねをして、いろんな体の動きをしてみようという絵本『できるかな?あたまからつまさきまで』の習作の一つ。

 「年をとって健康のために動物の名前が付いた体操をすることになり、そこからこの絵本のアイディアが生まれたといいます。カールさんは子どもの頃から運動が苦手で、どうしたら子どもたちが楽しく運動できるかを考えて作ったんだそうです。何でもアイディアにしてしまうのもすごいし、自分の子ども時代と読者の子どもたちを重ねてみているのだなと感心しました」(松方さん)

本作は習作なので、絵本に採用された絵とはまたちょっと違うのもポイント。見比べてみるのも一興です。

️エリック・カールとちひろ美術館の関係

 エリック・カールと深い縁があるという、ちひろ美術館。実は、ちひろ美術館の世界の絵本画家コレクションの第1号がカールの「おんどり」なのだそうです。

エリック・カール「おんどり」(1985年)

カールが初来日した当時、ちひろ美術館の収蔵品はいわさきちひろ作品のみでした。同館の松本猛・常任顧問(いわさきちひろの長男)が「将来的には世界の絵本作家の作品を収集して美術作品として展示していきたい」というビジョンをカールに語ったところ、その志に共感して「おんどり」を寄贈してくれたといいます。これが後押しとなって、同館では「世界の絵本画家コレクション」を本格的に収集し始めました。

また、日本でちひろ美術館を含む絵本美術館をいくつか見たことで、カール自身も絵本美術館をつくりたいと考えるようになったといいます。こうして2002年に生まれたのが、アメリカのマサチューセッツ州にある「エリック・カール絵本美術館」です。

絵本の絵画を美術作品として、子どもから大人まで、さまざまな人たちに見てほしい。そんな共通の思いがカールとちひろ美術館をつないでくれたのでしょう。

 

エリック・カールがちひろ美術館・東京に来館した折に書いたゲストブック

️アメリカ最古の絵本賞「コールデコット賞」

 展示後半では、カールの「おんどり」をきっかけに収集を加速させた同館の「世界の絵本画家コレクション」から、アメリカ最古の絵本賞であるコールデコット賞受賞作家13人の作品が並びます。

 コールデコット賞とは、1938年にアメリカ図書館協会によって創設された絵本賞。1年に1回、アメリカで前年に出版された絵本の中で最もすぐれた作品に贈られます。賞の名前は、19世紀に活躍したイギリスの挿絵画家ランドルフ・コールデコットにちなんで名付けられました。当時のアメリカの子どもたちの多くが彼の描いたマザーグースの絵本で育ったことや、彼のように優れた絵本画家が後に続くことを願って付けられたそうです。

ランドルフ・コールデコット「自画像」(1886年ごろ)
コールデコット賞を受賞した絵本の数々

 「こうして改めて並べてみると、移民としてアメリカに来てさまざまな文化的背景のある画家たちが多いなと気付かされます。色々な人たちを受け入れ、活躍できる場があるアメリカならでは」と松方さんは言います。

 モノクロームの世界やカラフルでオリエンタルな版画、舞台美術のような絵などなど、多様な表現は見ていて飽きません。

マーク・シモント『はなをくんくん』より(1949年)
マーシャ・ブラウン『もとはねずみ…』(習作)(1961年)
モーリス・センダック『かいじゅうたちのいるところ』のイメージ(1988年)
ベニ・モントレソール『シンデレラ』より(1965年)

展示を見終えたら、ぜひ図書室へお立ち寄りを。展示会場にも何冊か置いてありますが、エリック・カールの絵本はもちろん、コールデコット賞受賞作家ら本展に関連する絵本がまとめられたコーナーがあります。絵を楽しんだ後に、物語の世界をじっくり堪能できるのも絵本美術館ならではの楽しみです。

ちひろ美術館・東京の図書室

同館では「幼い日に見た夢 いわさきちひろ展」も同時開催中。やさしさや気づきにあふれる絵本の世界に触れて、いつもとは違う“心の体操”をしてみませんか。(ライター・岩本恵美)

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