森美術館「Chim↑Pom展」に、アートプロジェクトの託児所「くらいんぐみゅーじあむ」 子育て環境への問題提起込めて

森美術館(東京・六本木)で開催中の「Chim↑Pom展:ハッピースプリング」では、会場内に託児所「くらいんぐみゅーじあむ」が設置されていて、子育て中の来館者に好評です。同展のアート・プロジェクトの一環として位置づけられており、いわば「作品」としての性格もあわせ持っています。(読売新聞美術展ナビ編集班 岡部匡志)

「くらいんぐみゅーじあむ」は会場に入ってすぐの場所にあり、空間としても展示スペースにそのままつながっています。金曜、土曜、日曜の午前10時から午後3時まで利用可能。保育士2人が常駐しており、ウェブサイトを通じた事前予約が推奨されていますが、空きがあれば飛び込みの利用も可能です。預けることができるのは3か月から小学6年生までで、2月18日の開幕から3月末までに74人の子どもを預かりました。予約などについては同展のウェブサイト(託児所 | Chim↑Pom展:ハッピースプリング | 森美術館 – MORI ART MUSEUM)をご覧ください。

現在、アーティスト・コレクティブ「Chim↑Pom」メンバーのうち2人が小さな子どもの子育て中で、子連れで美術館などの公共スペースを利用するのが大変な実情を経験したり、同世代の親たちから見聞きしたりしたことが、この取り組みの着想のきっかけになりました。森美術館の広報担当の瀧奈保美さんは「最近は子連れの鑑賞やバギーでの入場も可能な美術館が多くなってはいますが、実際は子どもが泣いてしまったり、退屈してしまったりすると、周りに気兼ねして鑑賞どころではない、ということになります。ましてワンオペで美術館なんてとてもでは、というパパやママが大半ではないでしょうか」といいます。「美術館は静謐な場所でなければならない」という強い社会的規範も、子育て中の親にとっては負担になります。

そこで今回、「Chim↑Pom」は託児所の設置を通じて利用者の利便を図るともに、社会における子育て環境への問題提起も試みています。親は子どもを託児所に預けることで、ゆったりと作品を楽しむことが可能になります。また「くらいんぐみゅーじあむ」という名前のとおり、あえて子どもの遊び声や泣き声が会場に響き渡るようなセッティングにすることで、昨今、公共空間で子どもが大きな声をあげたり、遊んだりすることがなぜタブー視されがちなのか、果たしてそれは正しいことなのか、ということを来場者が考える契機にもなり得ます。

同スペースの運営資金はクラウドファンディングで募り、3月31日までの募集期間で288万3700円が集まりました。支援金額によって託児所の運営日数が決まる仕組みで、目標としていた400万円には届きませんでしたが、当面、現在の週3日の営業体制は続けたいということです。
自らもバイリンガルのアートチーム「リトルアーティストリーグ」を主宰し、小学生の子ども3人を連れて来場したルミコハーモニーさんは「美術館に来たくても子連れでは、と思う親はたくさんいると思います。こうした取り組みが広がると、親も子もアートに触れる機会が増えて素晴らしいですね」と話していました。
託児所運営には何といっても資金が必要。子どもの安全に責任を負うという点でも、導入にはいくつものハードルがありますが、設置が望ましいことはいうまでもありません。今展で託児所がひとつのアートとしても機能し、来館者の思考のきっかけになっていることは素晴らしいアイデア。多くの方にみてほしい有意義な「施設」であり、かつ「展示」です。