【プレビュー】「アーツ・アンド・クラフツとデザイン ウィリアム・モリスからフランク・ロイド・ライトまで」ふくやま美術館で4月9日から

(中央)ウィリアム・モリス《いちご泥棒》(左上)チャールズ・ロバート・アシュビー《蓋付きマフィン銀皿》(左下)ウィリアム・アーサー・スミス・ベンソン《卓上ランプ》(右上)ティファニー・スタジオ《三輪のリリィの金色ランプ》(右下)おそらくフィリップ・ウェッブ《サセックス・シリーズの肘掛け椅子》

特別展「アーツ・アンド・クラフツとデザイン ウィリアム・モリスからフランク・ロイド・ライトまで」
会場:ふくやま美術館(広島県福山市西町二丁目4番3号
会期:2022年4月9日(土)~ 6月5日(日)
休館日:月曜日 ※5月2日(月)は開館​
アクセス:JR福山駅北口から西へ約400ⅿ
入館料:一般1,000円  高校生以下無料
詳しくは公式サイト

19 世紀後半のイギリスで興った、日常生活をとりまくあらゆるものをめぐるデザイン運動「アーツ・アンド・クラフツ」。日本の「民藝」にも大きな影響を与えたこの運動は、職人によるハンドメイドに価値を見いだしました。この運動を先導したのがウィリアム・モリス(1834‑1896年)です。

ふくやま美術館は、モリスの壁紙に着目した展覧会を2019 年に開催。それに続く今展では、より幅広い様々なジャンルの作品により、「アーツ・アンド・クラフツ」の多様性を探ります。イギリス国内だけでなく、ティファニー・スタジオやフランク・ロイド・ライトまでの広がりを紹介します。テキスタイルから工芸品まで幅広いジャンルの約170点を展示します。

第1章:モリス・マーシャル・フォークナー商会とモリス商会

モリスは、仲間たちとともに1861 年に、モリス・マーシャル・フォークナー商会を設立。この商会は、1875 年に単独経営のモリス商会となります。第1章では、壁紙やテキスタイル、家具、そして1891 年にモリスのプライヴェート・プレスとして設立されたケルムコット・プレスの手作業でつくられた美しいデザインと装丁の書籍を紹介します。

ウィリアム・モリス《いちご泥棒》1883年 Photo 🄫Brain Trust Inc.

庭に入ってイチゴを盗む2 羽の小鳥(ツグミ)がデザインされたテキスタイル。非常に手間と技術が必要だったため、モリス商会のプリント木綿のなかで最も高価でありながら、最も人気のあるものでした。

おそらくフィリップ・ウェッブ《サセックス・シリーズの肘掛け椅子》1860年頃 Photo 🄫Brain Trust Inc.

イングランド南東部のサセックス州で見つけた18 世紀のカントリー・チェアからインスピレーションを得た椅子で、「簡素なこと、適切なこと、材料の正直な表現を最も大切にする」というアーツ・アンド・クラフツの考えが実践されています。

第2 章:アーツ・アンド・クラフツ展覧会協会

モリスは、多分野のアーティストたちに大きな影響を与えました。今まで、公的なイギリス美術界の中で軽視されてきた装飾美術に目を向けた展覧会、美術と工芸がともに展示される展覧会を目指して、1887 年にアーツ・アンド・クラフツ展覧会協会が設立されました。翌88年には、最初の展覧会が開催されました。第2章では、この協会の主要メンバーの作家らの作品を紹介します。

ウィリアム・アーサー・スミス・ベンソン《卓上ランプ》1890年頃 Photo 🄫Brain Trust Inc.

ウィリアム・アーサー・スミス・ベンソンは、アーツ・アンド・クラフツ展覧会協会の中心メンバーで、照明器具など電気製品の装飾分野の先駆け的存在。自然の花をモチーフにしたガラスのランプシェードと真鍮の土台部分には職人技と産業が見事に融合しています。

チャールズ・フランシス・アンズリー・ヴォイジー《ポピー》1895年頃 Photo 🄫Brain Trust Inc.

第3 章:英国におけるアーツ・アンド・クラフツの展開

高いデザインの実用品というモリスの実践を、より大衆に向けた産業的な商品として売り出したのが、イギリスのリバティ商会です。建築家で社会改良家のチャールズ・ロバート・アシュビー(1863‑1942年)は、モリスの思想を引き継ぎ、コッツウォルズ地域北部チッピング・カムデンに職人たちとともに移住し、手作りの共同生活・共同作業を行い、カントリーでの理想郷を目指しました。このように、アーツ・アンド・クラフツ運動は様々な方向に展開しました。第3章では、ジュエリー、ガラス、金工、テキスタイルなど、多様なジャンルの作品を通して、各地に広がったアーツ・アンド・クラフツ運動を紹介します。

チャールズ・ロバート・アシュビー《蓋付きマフィン銀皿》1900年頃 Photo 🄫Brain Trust Inc.

モリスに深く傾倒したアシュビー。この作品では、ハンマー打ちなど全てを手作業で作っています。

第4 章:アメリカのアーツ・アンド・クラフツ

モリスの思想や実践は、アメリカ各地に伝わります。1897 年にはシカゴとボストンにアーツ・アンド・クラフツ協会が発足。アメリカのアーティストたちは、手工芸の温もりを評価しながらも、時には機械を使うこともいといませんでした。それがアメリカにおけるアーツ・アンド・クラフツ運動の独自性で、大衆にも「生活の芸術」を広げることになりました。第4章では、アーツ・アンド・クラフツをアメリカに普及させたグスタフ・スティックリー(1858‑1942年)や、職人集団による美しい実用品を製造し、一般家庭にまで広げたティファニー・スタジオなど、幅広いアーティストの作品を紹介します。さらには、日本の帝国ホテルを建設したことでも知られる、20 世紀を代表する建築家フランク・ロイド・ライト(1867‑1942年)のステンド・グラスも出品されます。彼の装飾美術には、「材料の正直な使用、有機的な美への回帰」という点でアーツ・アンド・クラフツとの共通点が見いだせます。

ティファニー・スタジオ《三輪のリリィの金色ランプ》1901-25年 Photo 🄫Brain Trust Inc.

ティファニー・スタジオは、ティファニー・カンパニーの創業者の息子で、アール・ヌーヴォーのガラス作家として知られるルイス・コンフォート・ティファニー(1848‑1933年)が設立したガラス工房です。卓上ランプは、工房で最も人気が高い商品でした。このランプは、独自に開発された半透明のオパルセントガラスが、優美なデザインの中に溶け込みます。

(読売新聞美術展ナビ編集班)

ふくやま美術館HP