【レビュー】「森村泰昌:ワタシの迷宮劇場」 京都市京セラ美術館で6月5日まで “迷う”ことを楽しみ自分を見つめなおす

森村泰昌《ワタシの迷宮劇場 M081》2008 ©Yasumasa Morimura

 

京都市京セラ美術館開館1周年記念展「森村泰昌:ワタシの迷宮劇場」
会期:2022年3月12日(土)〜6月5日(日)
休館日:月曜日(5月2日は開館)
開館時間:10:00〜18:00(入館締切:閉場 30 分前)
会場:京都市京セラ美術館 新館 東山キューブ
観覧料:一般 2,000円 大学・専門学校生 1,600円 高校生 1,200円  小中学生 800円
詳しくは公式ホームページ

京都市京セラ美術館開館1周年記念展「森村泰昌:ワタシの迷宮劇場」 が3月12日から6月5日まで開催されています。

森村泰昌 © Yasumasa Morimura

森村泰昌もりむらやすまさ(1951年〜)は、日本を代表する現代美術家です。森村は1985年、ゴッホに扮したセルフポートレート写真《肖像(ゴッホ)》でデビューして以来、名画の登場人物や歴史上の人物、女優など、時代や性別問わず「何者か」に扮した「自画像的作品」を制作し続けてきました。本展では、これまで発表されてこなかった秘蔵のインスタント写真約800枚や最新の映像作品などを紹介。現代アートを紹介する展示室として新設された新館「東山キューブ」で、森村が鑑賞者を迷宮世界へと誘います。

迷宮のような展覧会場

本展のテーマは「ワタシとは何か」。内覧会に出席した森村は「ワタシという人間の中には、たくさんの秘められたワタシがいる。たくさんのワタシが複雑に絡み合ったり、裏と表の背中合わせになったりして、いろんな風景を織りなす」と語ります。

京都市京セラ美術館開館1周年記念展「森村泰昌:ワタシの迷宮劇場」
展示風景

そんな”ワタシの中の迷宮世界”を表現した会場は、まさに迷路のようです。迷路を構成している回廊(M式写真回廊)には、1984年以降に撮りためてきた秘蔵のインスタント写真を約800枚展示しています。作品の中には、森村が制作のためのテストとして撮影したものや、「ひとり遊び」の一環で撮影したものも。多様な様相の森村を見ているうちに、自分自身が森村の内面に入り込み、複雑に絡み合う森村を目の当たりにしているような気持ちになりました。

森村泰昌《ワタシの迷宮劇場 M040》2004 © Yasumasa Morimura
森村泰昌《ワタシの迷宮劇場 M002》 1994–95 頃 © Yasumasa Morimura

会場には動線がありません。鑑賞の順序は見る人に委ねられています。作品を眺めているうちに自分がどこにいるのかわからなくなり、迷路の中で迷っているような感覚に陥ります。これこそ森村の狙い。「彷徨さまようことを楽しみ、ワタシの中の迷宮世界を体感してほしい」と森村は語ります。

混じり合う夢と記憶の世界

本展はM式写真回廊のほか、3つの部屋で構成されています。そのうちの一つが、森村の最新作を紹介する「夢と記憶の広場」です。

森村泰昌《夢と記憶が出会う場所》2022 ©︎Yasumasa Morimura

部屋の中にあるのは、向かい合う2つのスクリーン。1つのスクリーンには、メイク途中の森村が映し出されます。何者かに変貌を遂げ、現実ではない世界(夢の世界)へと足を踏み入れていく森村の様子を見守ることができます。

森村泰昌《夢と記憶が出会う場所》2022 ©︎Yasumasa Morimura

もう1つのスクリーンには、森村が扮する30人の人物と森村が幼い頃に読んだり影響を受けたりした本が登場します。この本は過去の記憶を表しているのだとか。

この部屋は、森村の夢と記憶が混じり合う世界であると同時に、作品の原点を表しているのかもしれません。

衣装をチラリと覗き見る

森村泰昌《衣装の隠れ家》2022 ©︎Yasumasa Morimura

「夢と記憶の広場」の映像作品で登場した衣装や本を展示しているのが、「衣装の隠れ家」です。

森村泰昌《衣装の隠れ家》2022 ©︎Yasumasa Morimura

衣装や本は展示されているというより、隠されているかのよう。隠れ家に秘められた衣装や本をカーテンの隙間から覗くようにして、見ることができるのです。まるで誰かの秘密基地を見つけてしまったような、ドキドキとした感覚を味わえます。

様々な感覚を刺激する「声の劇場」

本展の目玉である「声の劇場」は、森村が自作の短編小説を朗読するサウンド・インスタレーション(完全入れ替え制)です。

部屋の中央には4畳半の畳と香炉が鎮座。お香の甘い香りが立ち込め、スモークが焚かれています。ただならぬ緊迫感を感じ始めた頃、京都の架空の寺院を舞台にした怪奇小説が森村の声やチェロの演奏とともに始まりました。

話の展開に沿って部屋が真っ暗になったり、一筋の光が差したり、真っ赤に光ったり――。視覚、聴覚、嗅覚が刺激され、約26分間の小説の世界へと引き摺り込まれていきます。

5つの門を通して自由に出入り

門は姿見をイメージしている。姿見が揺らぎ、姿見の中の迷宮世界へとすっと入り込んでいくかのようだ

ちなみに会場の出入り口は、一つではありません。鑑賞者は、「空装門」「鏡影門」などの5つの門から出入りする門を選ぶことができます。選んだ門によって鑑賞体験が異なるという心憎い演出です。

心惹かれるままにぶらりぶらりと、街歩きをする感覚で会場を彷徨ってみてください。「ワタシは一つではない」ということを体感できるでしょう。また本展で繰り広げられるのは、森村バージョンの「ワタシの迷宮劇場」です。では、自分の中にはどんな迷宮が広がっているのでしょうか。本展は、改めて自分自身を見つめなおすきっかけとなるかもしれません。
(ライター・三間有紗)

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