【開幕】日本の映像文化支える ミニチュアに込められた妥協なき美学 「生誕100年 特撮美術監督 井上泰幸展」東京都現代美術館で6月19日まで

特撮美術監督として日本の映像文化を支えた井上泰幸(1922-2012)の功績を振り返り、日本の特撮映像史を概観する「生誕100年 特撮美術監督 井上泰幸展」が3月19日から6月19日まで、東京都現代美術館で開かれます。

生誕100年 特撮美術監督 井上泰幸展
会場:東京都現代美術館(東京都江東区三好、木場公園内)
会期:2022年3月19日(土)~6月19日(日)
開館時間:10:00-18:00(展示室入場は閉館の30分前まで)
休館日:月曜日(3月21日は開館)、3月22日
観覧料:一般1,700円 大学・専門学校生・65歳以上1,200円 中高生600円 小学生以下無料
アクセス:東京メトロ半蔵門線清澄白河駅より徒歩9分、都営地下鉄大江戸線清澄白河駅より徒歩13分
詳しくは展覧会ホームページ

内覧会を取材しました

分かります?あの「ラドン」の福岡のセットです。精巧に再現された伝説の岩田屋周辺のミニチュアに、あの名作を初めて見た時の興奮を思い出します。
3月19日(土)から東京都現代美術館で始まる「生誕100年 特撮美術監督 井上泰幸展」の内覧会に伺っています。「空の大怪獣ラドン」(1956年)は井上さんが手掛けた代表作。看板やショーウィンドウの中まで徹底的に作り込まれたセットをそのまま再現。妥協のない仕事ぶりに感動してしまいます。

デパートの屋上の観覧車も実際に回るようになっていました。このミニチュアセットの再現は、井上さんから学び、協働した美術監督の三池敏夫さん(特撮研究所)が監修しました。三池さんは「徹底してこだわり、仕事に終わり、というものがない人でした。円谷英二さんがその完成度に驚いていたそうです」といいます。

ショーウィンドウの中もここまでこだわります。

井上さんの記念碑的な仕事が再現され、大喜びの東郷登代美さん。「あの岩田屋のビルの足場も、ロケハンに行ったときに工事中だったので、そのまま再現したそうです。そういうことにも絶対に妥協しない人でした」

井上さんのアーカイブの保全と公開には近親者の尽力がありました。井上さんの姪の東郷登代美さんは、井上さんから仕事にかけた思いを聞き、晩年に5000点にも及ぶ資料を託されました。井上さんが日本海海戦を描いた作品を手掛けた際は、連合艦隊司令長官の東郷平八郎の家系まで調べ上げ、バルチック艦隊のすべての艦船の形状はもちろん、それぞれの艦がどこでいつ沈んだかも細かく調べたと聞かされ、「そこまでやるのか」と驚いたそうです。

「特撮のことは知りませんでしたが、叔父の話と、資料を見てこんなすごいことをやってきた人なのか、と。やはり多くの方に知ってほしいと思いました。ラドンのセットが叔父の原点なので、どうしてもこれを再現したいと思っていました。実際に見られて感無量です」と感激の面持ちでした。

「ラドン」に携わった当時の井上さん

井上さんは1922年、福岡県の生まれ。太平洋戦争に従軍し、機銃掃射を受けて左足を失いました。戦後は家具製作に携わり、ものづくりの道へ。その後、働きながら学び、日大芸術学部に進学。映画界に誘われ、特撮のパイオニアである円谷英二(1901~1970)のもと、「ゴジラ」(1954)からそのキャリアを本格的にスタートしました。以後、怪獣映画だけでなく、戦争、歴史など幅広いジャンルの映像の美術に携わりました。

井上さんが携わった作品の台本。怪獣映画だけでなく、幅広いジャンルで美術を担当しました

「娯楽を作るのではなく、リアルを作る」がモットーでした。CG全盛ですが、質感のあるミニチュアの魅力は今も何物にも代え難いです。徹底した細部へのこだわりは、ものづくりの原点を見るようです。

同展を担当した森山朋絵学芸員は「井上さんは、実装する力をもった人、でした。日本の手作り特撮の技術は、CGとは異なる実在感があり、次世代へ継承していきたいもの。展覧会もぜひ若い方に見てもらい、その素晴らしさを感じてほしいです」と話していました。

会場には、特撮美術にまつわる井上さんの語録も

(読売新聞美術展ナビ編集班 岡部匡志)

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