【レビュー】「繊細な北斎」の魅力が十分――企画展「北斎花らんまん」 すみだ北斎美術館で5月22日まで

展示風景

企画展「北斎花らんまん」
会場:すみだ北斎美術館(東京都墨田区亀沢2-7-2)
会期:2022年3月15日(火)~5月22日(日)
休館日:月曜休館、ただし3月21日は開館し、22日を休館
アクセス:JR両国駅東口から徒歩9分、都営地下鉄大江戸線両国駅A3出口から徒歩5分
入館料:一般1000円、高校生・大学生700円、65歳以上700円、中学生300円、障がい者300円、小学生以下無料
※前期(3月15日~4月17日)、後期(4月19日~5月22日)あり。詳細情報はホームページ(https://hokusai-museum.jp/)で確認を。

葛飾北斎というとどんなイメージがあるだろうか。「冨嶽三十六景」などでの大胆な構図? それとも「百物語」などの奇抜な発想? 確かにそれらは古今東西の人々を魅了し続けてきたのだが、それだけが北斎の魅力ではない。豊かな観察力に基づいた緻密なタッチで、花鳥画や風俗画も数多く描いていているのである。北斎とその弟子たちによる花々の絵を集めた今回の展覧会では、後者の魅力が十分に味わえる。

展示されている葛飾北斎「馬尽 駒菖蒲」文政5年(1822) 不染居為一筆 摺物(前期)

個人的に好きなのは、「馬尽 駒菖蒲」。扇子の上に馬と蒲公英が描かれたたばこ入れと鸚鵡の図柄の根付が置かれている作品である。西洋の静物画とはまた違ったリアルさで、細密に描き込まれた日用の品々。軽みがあって、何となく楽しくなってくるのである。え? これは「花の絵」じゃないって。あ、そうですね。ちょっとセレクトがおかしいですか。でも、デザイン化された馬と蒲公英、リアルに描かれた鸚鵡、どちらも素敵ですよ。

葛飾北斎「牡丹に胡蝶」すみだ北斎美術館蔵(前期)

本題に戻ろう。「春の到来」「桜 花爛漫」「色とりどりの四季の花」「暮らしを彩る花の意匠」に章分けして紹介される作品の数々。まず目立つのは、花そのものを描いた「牡丹と胡蝶」のような作品だ。厳しい冬の終わりを告げる初春の花、爛漫の桜、それぞれの季節を彩っている花々。花弁の先端まで神経が行き届いているような精緻なタッチでありながら、どこか柔らかで和やかな雰囲気がある。

存斎光一「花咲か爺さん」すみだ北斎美術館蔵(前期)

ただ花を描くだけでなく、一編の物語となっている作品も多い。存斎光一(北斎の弟子だったのかどうか微妙なのだそうだが)の「花咲かじいさん」は、みやびで軽くて、とても楽しい作品だ。蹄斎北馬(こちらは文句なく北斎の門人)の「朝妻舟」。桜の花の下、舟の上で佇む白拍子風の女性は何を想うのか。一体、何をしている所なのか。英一蝶をはじめ、数多くの画家が描いているモチーフだ。

蹄斎北馬「朝妻舟」すみだ北斎美術館蔵(前期)

折々の花をデザインした着物の女性、談笑している人々の背景にさりげなく配置されている桜――北斎やその弟子たちが描く風俗画には、四季に応じて花をめでる日本人の姿が描き込まれている。コロナ禍で花見もままならない昨今だが、「冨嶽三十六景」の「御殿山」の絵を見ていると、再びこんな空気を味わってみたいな、と心の底から思う。

葛飾北斎「冨嶽三十六景 東海道品川御殿山ノ不二」すみだ北斎美術館蔵(前期)

小紋染の模様を集めた『新形小紋帳』など、北斎による花や鳥をモチーフにしたデザイン化も楽しい。花や動物から自由に想像を膨らませていく北斎の姿。その嬉しそうな顔が目に浮かぶようだ。全体的に派手さはないが、滋味にあふれる。春うらら、心が少し温かくなるような展覧会なのである。(事業局専門委員 田中聡)

葛飾北斎『新形小紋帳』すみだ北斎美術館蔵(通期)