【開幕レビュー】「挑む浮世絵 国芳から芳年へ」京都文化博物館で4月10日まで 驚きの「奇想」を楽しむ

歌川国芳《相馬の古内裏》弘化2〜3(1845〜46)年頃 名古屋市博物館蔵

特別展「挑む浮世絵 国芳から芳年へ」が4月10日まで京都文化博物館で開催されています。
歌川国芳(1797〜1861年)は、幕末に活躍した浮世絵師です。臨場感溢れる武者絵を次々と生み出したり、作品に風刺を利かせたりと、その「奇想」で人々を驚かせ、楽しませてきました。そんな国芳の手法は月岡芳年(1839〜1892年)をはじめとする弟子たちに受け継がれていきます。本展では、名古屋市博物館が所蔵する浮世絵コレクションから国芳と芳年の作品を中心に150点の浮世絵を5章構成で紹介します。
全作品撮影可!あっと驚く作品はカメラに収めて、持ち帰ることができます。

特別展「挑む浮世絵 国芳から芳年へ」
会場:京都文化博物館(京都市中京区三条高倉)
会期:2022年2月26日(土)~4月10日(日)
開室時間:10:00~18:00 金曜日は19:30まで(入室はそれぞれ30分前まで)
休館日:月曜日(祝日の場合は開館、翌日休館)
観覧料:一般 1,400円 大高生1,100円 中小生500円
詳しくは展覧会のホームページ

造形力に裏打ちされた力強い武者絵

国芳の出世作であり、得意ジャンルだったのが「武者絵」でした。第1章「ヒーローに挑む」では、国芳の武者絵を中心に紹介します。

歌川国芳《朝比奈三郎鰐退治》嘉永2(1849)年 名古屋市博物館蔵

大判用紙を3枚つなげたワイドスクリーン画面の武者絵は、国芳作品の中で特に人気だったといいます。国芳は、画面を貫くようにモチーフを配置することで、視覚効果を生み出しました。

歌川国芳《龍宮玉取姫之図》嘉永6(1853)年 名古屋市博物館蔵

音が聞こえてくるような水しぶき、今にも動き出しそうな武者たち……躍動感あふれる武者絵は、ワクワクさせてくれると同時に爽快感をももたらしてくれます。

国芳の表現は、実在するシーンの一瞬を切り取り、閉じ込めたかのようにリアル。図録によると、国芳は武者絵を描く秘訣について次のように教えたそうです。

「突然人を投げ出して、投げられた人の動きを観察したり、あるいは組み伏せたときにそれを跳ね返そうとする様子などを覚えておいて、その息込を描くように。」(『暁斎画談』)

国芳の観察力、そして観たものを画面上に再現する造形力が、鑑賞者を惹きつける作品を生み出したのだと納得しました。

歌川国芳《唐土廿四孝 董永》嘉永年間(1848〜54年) 名古屋市博物館蔵。西洋画を参照して描いたとみられる

国芳は、先人の武者絵や書物などから幅広く学ぶことで造形力を培っていきました。学びの対象は西洋画にも及んだといいます。

国芳から芳年へ魂の継承

月岡芳年《敵ヶ原大合戦之図》明治元(1866)年 名古屋市博物館蔵

国芳の魂を継承したのが、弟子の芳年です。芳年は、国芳から受け継いだ大画面に余白を取り入れることで、より緊迫感が高まる作品を生み出しました。

怪奇の名作《相馬の古内裏》

ヒーローの勇ましさを浮き立たせるには、「怪奇」をいかにおどろおどろしく描くかが重要なポイントになります。第2章では、ヒーローが対峙する相手「怪奇」を描いた作品に焦点を当てます。国芳らが「怪奇」を表現するために、どんな工夫を凝らしてきたかに迫ります。

歌川国芳《相馬の古内裏》弘化2〜3(1845〜46)年頃 名古屋市博物館蔵

まず注目したいのが、本展のメインビジュアル「相馬の古内裏」。『善知安方忠義伝』のワンシーンを描いた作品です。御簾に手をかけ主人公を見下ろす骸骨は、まさに怪奇そのもの。実はこの作品、原作では等身大の骸骨が数百体登場するところを、画面の半分を占める巨大な骸骨で表現したのだとか。国芳の豊かな発想力があったからこそ生まれた作品と言えます。

「血みどろ絵」の正体は

第2章の目玉は、「血みどろ絵」の異名を持つ「英名二十八衆句」です。「英名二十八衆句」とは、国芳の弟子である落合芳幾と芳年が十四図ずつ競作したシリーズ。歌舞伎の刃傷場面を題材とした本シリーズは、その残虐性で話題となってきました。全編が一堂に会するこのエリアは、本展でもっとも「挑んでいる」ポイントです。

「英名二十八衆句」の展示風景

残虐な描写は、芳年や芳幾の個人的な嗜好によるものとは言えません。より刺激を求める人々の心、「怖いもの見たさ」の好奇心に応えるためのサービス精神のあらわれなのです。また、背景にあるストーリーの悲劇を強調する手段としても、残虐な描写が必要でした。

そんな「英名二十八衆句」は、残虐性を表現するために様々な工夫が施されています。例えば画面に飛び散る、テラテラとした血。見ているとウッとくるほど生々しいですが、この血の正体は赤い絵の具にゼラチンを混ぜた血糊です。

演出の工夫にも着目すると、作品への理解を深めることができます。とはいえ、目を背けたくなる描写が並ぶので、苦手な方は無理せず次のエリアへとスキップすることをオススメします。

国芳、芳年は美人画も得意

浮世絵の主要ジャンルといえば、美人画を思い浮かべる方も多いのではないでしょうか。第3章「人物に挑む」では、国芳や芳年が描いた美人画や役者絵などを紹介します。

歌川国芳《山海愛度図会 五十七 はやく酔いをさましたい 豊前小倉縞》嘉永5(1852)年頃 名古屋市博物館蔵

国芳が描いた女性からは、朗らかさや親しみやすさが感じられます。また国芳は、理想の女性を描くのではなく、女性の心のうちを掘り下げた作品を数多く描きました。

第3章「人物に挑む」月岡芳年の展示風景

そんな国芳の作風は弟子たちにも受け継がれていきます。なかでも芳年が描く女性は、リアリティが増していて、見ているとドギマギしてしまいます。

このエリアはぜひ写真を撮り、手元の写真と展示作品を見比べながら鑑賞してみてください。国芳と弟子たちが描き出す個性の違いがわかり、より楽しめます。

戯画(滑稽な絵)のバリエーションも豊かだった国芳は、様々な手法を駆使して人々の想像を超える作品を生み出してきました。

社会を風刺する擬人化

国芳が用いた手法の一つが、”擬人化”です。

歌川国芳《亀喜妙々》嘉永元(1848)年頃 名古屋市博物館蔵

一見すると亀がわらわらと集まっているようなこの作品は、役者戯画。亀の顔は舞伎役者の似顔絵、甲羅に描かれた柄は家紋を指しているのです。国芳は「こっちは誰それ、あっちはあいつだ」などと役者当てクイズを楽しんでもらうことを目的に、この作品を描いたのではないかと考えられています。

歌川国芳《里すゞめねぐらの仮宿》弘化3(1846)年 名古屋市博物館蔵

遊郭を宣伝している《里すゞめねぐらの仮宿》は、天保の改革(1841〜1843年)で遊女絵の出版が禁止されるなかで描かれました。検閲をくぐり抜けるだけではなく、吉原の客を「吉原雀」と呼んだことにもちなみ雀を擬人化した手法はお見事。この作品を目にした当時の人々は、さぞかし痛快な気持ちになったことでしょう。

クスッと笑わせてくれるうえに、「何か裏があるのではないか」という謎を抱かせるのが、国芳の戯画の面白さです。そんな国芳の作品の中には、幕政を風刺しているのではないかと噂を呼んだものもありました。

歌川国芳《源頼光公館土蜘作妖怪図》天保13〜14(1842〜43)年 名古屋市博物館蔵

例えば《源頼光公館土蜘作妖怪図》は、天保の改革を風刺しているのではないかと憶測され、評判になりました。

弟子たちの「ファミリー」で締め

親分肌だった国芳のもとには、多くの絵師が弟子入りしました。弟子の多くが画号に「芳」の字をつけていることから、国芳がいかに弟子たちに慕われていたか伺えます。
最終章では、そんな弟子たちを「芳」ファミリーとして紹介。個性が滲み出る作品たちで、本展を締めくくります。

落合芳幾 《東京日日新聞 百十一号》明治7(1874)年 名古屋市博物館蔵。芳幾は新聞や雑誌などの新たなメディアにいち早く着目し、挿絵画家としての道を拓いた
歌川芳藤《端午の節句》嘉永5(1852)年 名古屋市博物館蔵。切り抜いてはり合わせると端午の節句が完成するペーパークラフト。おもちゃ絵を多数手がけた芳藤は、「おもちゃ芳藤」とも呼ばれた
月岡芳年《一魁随筆 山姥 怪童丸》明治6(1873)年 名古屋市博物館蔵

「最後の浮世絵師」月岡芳年

「芳」ファミリーのなかでも、国芳の精神をもっとも受け継いだのが芳年でした。リアルな表現を追求し、仕事の依頼を断ってまで絵の勉強に励んだ芳年の姿勢は、師匠ゆずりと言えるでしょう。

「最後の浮世絵師」とも呼ばれる芳年は、江戸から明治へと時代が移り変わるなかで、より表現を洗練させていきました。

月岡芳年《月百姿 吼噦》明治19(1886)年 名古屋市博物館蔵

なかでも、亡くなるまでの6年半ほどを費やして描いた「月百姿」シリーズは、特に印象的でした。繊細な色づかいや整理された構成は、ダイナミックさが際立つ芳年作品とは異なる印象をかもし出します。画面上に広がる静謐な世界観は、挑み続けてきた芳年の終着点のように感じられました。

がしゃどくろや芳桐印のハンコ! グッズショップも充実

がしゃどくろや芳桐印のハンコ、前田珈琲とコラボしたドリップコーヒーなど

グッズショップでは、国芳や弟子たちが使用した「芳桐印」にちなんだハンコをはじめ、前田珈琲」とコラボしたドリップコーヒー、ポストカードなど、本展ならではのグッズが販売されています。

最後まで”楽しみ”が詰まった展覧会でした。浮世絵ファンはもちろんのこと、スカッとした気持ちになりたい方はぜひ足を運んでみてください。人々を驚かせること、楽しませることに余念がなかった絵師たちの作品は時代を超え、私たちの心も晴らしてくれることでしょう。(ライター・三間有紗)


4月8日から6月5日まで八王子市夢美術館で特別展「最後の浮世絵師 月岡芳年展」が開催。


「吉例浮世絵大公開! 江戸の滑稽 ―幕末風刺画と大津絵― ~田河水泡コレクションを中心に~」が町田市立国際版画美術館で4月10日まで開催中。

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