【開幕】「中世武士団ー地域に生きた武家の領主ー」国立歴史民俗博物館で 最新研究で知る<武士>の実情

職業戦士である武士はなぜ何百年も統治者でいられたのでしょうか?
意外とも思えるこの問いに、学術的な成果でこたえようという企画展示「中世武士団ー地域に生きた武家の領主ー」が3月15日から5月8日まで国立歴史民俗博物館(千葉県佐倉市)で開かれます。開幕前日の内覧会を取材しました。
室町時代の画家・雪舟が15世紀後半に描いた益田氏15代当主・兼堯の肖像画からは、気品と知性がにじみ出ています。益田氏は石見国(島根県)の武士です。

一方、鎌倉幕府ができた頃の武士は、だいぶ様子が違ったようです。11世紀後半に東北で起きた後三年合戦をテーマにした絵には残虐な戦士集団としての武士たちの姿が描かれています。

展示プロジェクト代表の歴博の田中大喜准教授によると、歴史上、世襲の職業戦士が長年にわたり統治者だったのは東アジアでは日本だけ、世界史的にも珍しいそうです。
本来、武士が地域を支配する正当性はありませんでした。そこで、武士は地域社会の課題を実際に「救済」している地域のお寺や神社と結びつきました。運慶4代目の弟子湛幸によるこの2体の立像は肥前小城郡(佐賀県)を治める武士の千葉氏が1294年に一族の繁栄と「地域の安穏」を願って作らせたことが像内の銘文からわかりました。

この肥前千葉氏は1年のうちに下の写真の3体と合わせて少なくとも5体もの仏像を、当代一流の慶派の仏師に作らせています。武士は自分たちの一族のことだけでなく、支配する地域のことも考えるようになっていったのです。

仏教との関わりは、統治者としての自覚を芽生えさせるとともに、仏教が禁じる殺生との矛盾を武士たちは抱えるようになります。そんな葛藤も展示されている史料が教えてくれます。自省的な禅宗が武士たちに大いに流行った理由も少し分かる気がしました。
2020年の企画展「性差(ジェンダー)の日本史」が話題となった歴博。これまで見えにくかった中世武士の女性についても紹介しています。河合佐知子特任助教に教えてもらったのが、女性の騎馬武者「女騎」の存在。巴御前や北条政子だけが特別、ではなかったのかもしれません。

ほかにも、御家人クラスの武士が実は「一所懸命」ではなかったことなど、最新の武士像を知ることができました。


(読売新聞デジタルコンテンツ部 岡本公樹)
企画展示「中世武士団 ―地域に生きた武家の領主―」 |
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会場:国立歴史民俗博物館 (千葉県佐倉市城内町 117) |
会期:2022年3月15日(火)~5月8日(日) *前期4月10日まで 後期4月12日から |
開館時間:9時30分~17時00分(入館は16時30分まで) |
休館日:月曜日(休日は開館し、翌日休館)、ただし5月2日(月)は開館 |
料金:一般1000円 大学生500円 高校生以下無料 土・日・祝日、会期末(5/2~5/8)はオンライン日時指定(事前予約)が必要 |
アクセス:京成佐倉駅徒歩約15分またはバス約5分、JR総武本線佐倉駅下車、バス約15分 |
詳しくは同館のホームページで |
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