【レビュー】遊牧民の手仕事に魅了「塩袋と伝統のギャッベ展」たばこと塩の博物館で5月15日まで

「西アジア遊牧民の染織 塩袋と伝統のギャッベ展」が、たばこと塩の博物館(東京都墨田区)で5月15日まで開かれています。イランを中心とした西アジア地域の遊牧民たちが伝承してきた塩袋やギャッベ、キリムなどの毛織物約90点を展示。すべてが初公開です。

塩袋 南イラン カシュガイ族アラブ 1930年頃 羊毛

 

丸山コレクション 西アジア遊牧民の染織 塩袋と伝統のギャッベ展
会期:2022年2月26日(土)~ 5月15日(日)
会場:たばこと塩の博物館(東京都墨田区横川1-16-3、東武スカイツリーライン「とうきょうスカイツリー駅」より徒歩8分)
休館日:毎週月曜日(3月21日は開館)、3月22日(火)
開館時間:10時~17時(16時30分入館締切)
料金:一般・大学生 100円、小・中・高校生・満65歳以上 50円
詳しくは博物館のホームページ

「塩袋」は遊牧民の必須の道具

「塩袋」と「ギャッベ」という言葉で、「あー、あれか」と思い浮かぶ人はあまり多くないでしょう。それぞれ順番に説明していきます。

まずは「塩袋」から。

塩袋 東イラン バルーチ族 1960年頃 羊毛

遊牧民たちは、これに岩塩などのかたまりを入れ、家畜の誘導に使っていたそうです。動物にとって、過酷な自然の中で塩を見つけて摂取するのは難しいこと。家畜たちは、生きるために必須の塩がこの袋に入っていることをちゃんと知っています。放牧者が棒の先にこの塩袋を付けて、肩に担いで歩くと、家畜たちは塩欲しさについてくるのです。
人間とともにいれば塩がもらえると学習させることで、囲ったりつないだりしなくても、群れを人間のもとにつなぎとめることができます。遊牧民にとって塩、そして塩袋は必須のアイテムなのです。

家畜たちとの”コラボ”でうまれたデザイン

展示室に足を踏み入れると、目に入るのは様々な色や柄の塩袋です。すべて実際に使用されていた1点もの。

口の部分が狭まっているのは、家畜が頭を入れて勝手に塩をなめないようにするため。不思議な形も、用途を知ると納得です。

塩袋 南イラン カシュガイ・ルリ族 1930年頃 羊毛

上の写真は肩の部分にファーのようなものがある塩袋。デザインとして取り付けた飾りと思っていましたが、実は、家畜が塩をねだって、この部分をくわえて引っ張るうちに、織り糸が毛羽立ってこのようになったのだそうです。
家畜が加えたデザインと言ってもいいほど、このフワフワは塩袋となじんでいます。

「ギャッベ」は持ち運び簡単な”絨毯”

続いて「ギャッベ」を紹介します。

ギャッベ 南イラン カシュガイ族 1980年頃 羊毛

イランと言えばペルシャ絨毯が有名です。「ギャッベ」も絨毯と同様に毛足があり大型で敷物に使われます。ただ、ギャッベは遊牧民の生活にあわせて、折りたたんで運んだり、敷くだけでなく掛けたりもできるように、一般的な絨毯よりも柔らかく織られているのが特徴です。
「キリム」は毛足のない平坦な織物です。こちらも持ち運びに便利。

【中央】キリム 北東イラン クルド族(グーチャン)1950年頃 羊毛

会場には、大判の絨毯もたくさん展示(下の写真中央など)されています。こうしたものは自家用だけでなく、ときには販売もされたそうです。織りの技術の緻密さに驚かされます。

一方で、遊牧生活で使われたギャッベやキリムは、織り始めと織り上がりの幅が違ったり、柄が途中でずれていたりというものもありますが、それもまた味があって温かみがあり、一つひとつがいとおしく感じられます。

塩袋やギャッベを作ったのは女性の織り手で、部族に伝わる文様をはじめ、自分好みの絵柄を自由に織り込んでいったそうです。織り込まれた動物や人形の文様を探すことも、本展の楽しみ方の一つです。一目見て分かるモチーフもあれば、あれ、こんなところに、と意外な発見をすることも。

すてきなデザインがたくさん

会場で見つけたすてきなデザインをいくつか紹介します。

テント袋 東イラン バルーチ族 1930年頃 羊毛

こちらは、塩袋と同じ袋物ですが、人間用。個人の持ち物を収納し、テントの中に吊り下げたりして使う「テント袋」です。小ぶりのものはバッグとして持ち歩くように作られており、まさにポシェット。これを持ってショッピングに出掛けたいぐらいです。

ギャッベ(部分) 南イラン カシュガイ族クヒ 1970年頃 羊毛

踊る女性たちと鳥。手に楽器のようなもの(花束や果実だそうです)を持っているモチーフは、他の作品にも見られました。

ギャッベ 西イラン バクティアリ族 1930年頃 羊毛

砂漠の真ん中にぽつんと1頭のラクダらしき動物がいます。ギャッベは鮮やかな色のものが多いのですが、こんなにシックでシンプルなものも。なんておしゃれな。

上の作品の部分

近づいてよく見ると…草も生えていてキュート(草)!

こちらのコーナーには、百獣の王、ライオンが大きく描かれたギャッベが集められています。南イランのカシュガイ族に伝承されるモチーフだそうです。各支族によって、表現の特徴があるそうで、その違いを比べるのも楽しいです。

ギャッベ 南イラン カシュガイ族クヒ 1920年頃 羊毛

この眉毛のしっかりしたライオンは、カシュガイ族の中でもクヒという支族に特徴的だそうです。

ショップにも塩袋とギャッベが!

1階のミュージアムショップをのぞいてみると、ここにも塩袋やギャッベの敷物がありました。その多くが、実際に生活の中で使われていた貴重な1点ものです。


例えばこの塩袋は、1950年代のアフガニスタンで作られたとみられるもの。展示会場では、ずっと「塩袋をポシェットに」という考えが頭から離れなかったので、店長さんに肩にかけてみてもらうと、形も模様も現代のファッションにうまく溶け込みそうでした。

こちらの「テント袋」は約39㎝×約46㎝と大振りのトートバックほどの大きさです。

塩袋もテント袋も、もしバッグとして使うなら、持ち手やストラップは自分で合うものを探して付けると良さそうです。

ただ、二つとないオリジナルばかりなので、同じものが必ずあるとは限らないし、お値段もそれなりにするので、私の「塩袋ポシェット計画」は早々に頓挫しました。

オススメは、傷んで敷物としては使えなくなったキリムを再利用したコースター。きれいなところだけを切り取って形を整えています。1枚1枚現れる模様が違うのも魅力です。女性たちが1段1段織っていった手仕事を最後まで無駄にせずに生かすアイデア商品を、じっくり時間をかけて1枚購入しました。

(ライター・片山久美子)

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