【プレビュー】「日本のリアル」の行方を探る――「市制90周年記念 リアル(写実)のゆくえ 現代の作家たち 生きること、写すこと」 平塚市美術館で4月9日から

「市制90周年記念 リアル(写実)のゆくえ 現代の作家たち 生きること、写すこと」 |
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会場:平塚市美術館(神奈川県平塚市西八幡1-3-3) |
会期:2022年4月9日(土)~6月5日(日) |
休館日:月曜日 |
アクセス:JR平塚駅から徒歩20分、JR平塚駅東改札口(北口)から神奈川中央交通バス4番乗り場でバスに乗り、「美術館入り口」で下車、徒歩1分 |
入館料:一般900円、高校・大学生500円、中学生以下と毎週土曜日の高校生は無料。各種障害者手帳をお持ちの方と付き添い1人は無料。平塚市在住の65歳以上の方は無料。市外在住の65歳以上の方は2割引。 |
※前期(4月9日―5月8日)、後期(5月10日―6月5日)あり。詳細情報はホームページ(https://www.city.hiratsuka.kanagawa.jp/art-muse/)で確認を。 |
幕末から明治初めに流行した「生人形」。その迫真の姿は、日本人はもとより、来日した西洋人にも大きな衝撃を与えた。明治20年代に滞日した人類学者シュトラッツは「解剖学の知識もなしに強い迫真性をもって模写することができる」生人形師の力量に感嘆。生人形が理想化も図式化もされず、ありのままの人間の姿を写していることにも着目した。

彫刻家・高村光雲も幼い時に生人形の見世物を見ている。後年、彼は西洋由来ではない写実を気付かせた存在として、松本喜三郎をはじめとする生人形師を敬慕している。ここで重要なのは、写実表現はそもそも日本にあったということだ。遡れば、江戸時代の自在置物、さらには鎌倉時代の仏像にたどり着く。写実は洋の東西を問わず追求されてきたものなのだ。明治以降、日本は近代化する過程で西洋由来の写実表現を新たに受容した。これは既存の写実の方法や感性を新たに上書きする、もしくは書き替える作業だった。

21世紀の日本では、「写実」や「リアル」が再び注目されている。現代の作家が手がけた作品では、西洋伝来の近代的な技法と日本に旧来から伝わる土着的な手法が拮抗し、新たな「リアル」模索している姿勢も見えるのだ。このような傾向は、高橋由一にまで遡ることができる。

本展は、松本喜三郎らの生人形、高橋由一の油彩画を導入部として、現代の絵画と彫刻における写実表現を検証する。西洋の文脈のみではとらえきれない日本の「写実」や「リアル」が如何なるものなのか、またどのように生まれたのか、その手がかりを探っていく。4月30日、5月28日には担当学芸員によるギャラリートークが予定されている。

(読売新聞美術展ナビ編集班)