【レビュー】最後の合戦に臨む義仲と巴御前に陶然 契月、松園、蕉園、雅邦、観山ら贅沢な競演 「人を描く」展 水野美術館

展覧会名:水野コレクション 人を描く -橋本雅邦から髙山辰雄まで
会期:2022年1月2日(日)~3月21日(月・祝)
会場:水野美術館(長野県長野市若里、JR長野駅からバスで約10~15分「水野美術館前」下車)
開館時間:午前9時30分~午後5時(最終入館は午後4時30分)
休館日:毎週月曜日(ただし3月21日は開館)
入館料:一般1000円、中・高校生600円、小学生300円
水野美術館ホームページ(https://mizuno-museum.jp/)
2002年に開館し、日本画の充実したコレクションで知られる水野美術館。本展では様々な人物表現にフォーカスして、巨匠たちの選りすぐりの名作を紹介した贅沢な展覧会です。

義仲と巴御前、契月の圧倒的な表現
昨今、何かと話題の源平合戦ですが、それを勘案しなくても大いに目を引いたのが菊池契月(1879~1955)の《落花》。源義経らと対決した最後の合戦(粟津の戦い)に臨む木曽義仲と巴御前を描いています。

長野に生まれた契月。京都画壇で菊池芳文の下で腕を磨き、その名を高めていた時期です。若いころの作品らしい躍動感にあふれ、かつ繊細な表現に引き込まれます。
死を覚悟したかのような義仲と巴御前の表情が印象的。御前の鎧には矢が突き刺さり、切迫した状況です。義仲は矢を避ける母衣(ほろ)をかぶっています。
左から2番目の従者は射抜かれたのか馬上から今にも転落しそう。いななきが聞こえてきそうな馬たちの迫力、「しゅっ」という音が聞こえてきそうな矢などの表現が見事です。
画面に細かく配置された桜の花びらが、義仲たちの命運を暗示しています。担当学芸員の福士恵子さんは「画面の隅々まで神経が行き届いていて、全体を眺めても細部を見てもため息がでます。じっくり見ていただきたい逸品です」と話していました。
蕉園、松園、清方・・贅沢な美人画の競演
いきなり勇ましい合戦絵図を紹介しましたが、本展では優雅な美人画も見どころです。

上村松園、島成園と「三都三園」とも並び称された池田蕉園(1886~1917)。こちらにも桜の花びらがちりばめられていました。
遊びに興じる子どもたちと、物憂げに外を眺める女性の表現とその対比が見事です。「貝あはせ」はひと組になる貝を探す遊びのこと。対になる貝殻が必ず一つしかないことから夫婦円満の象徴となっていたそうです。女性の表情と含めて、背景を様々に想像させるモチーフの扱い方がしゃれています。
上村松園(1875~1949)の美人画の名作も楽しめます。


展覧会のメインビジュアルにも使われている《雪中美人》は水野美術館を代表するコレクションのひとつ。軽やかに、楽しそうに雪道を歩く姿が実に可憐です。松園らしい繊細な筆遣いで女性のしぐさや表情を捉えています。松園と並び称される美人画の巨匠といえば「西の松園、東の清方」の鏑木清方(1878~1972)。清方もステキな作品が見られます。清方は今年、東京と京都で大きな展覧会がありますね。

雅邦、観山、大観、広業・・・題材も多彩
中国の古典や伝説に題材を得た作品も素晴らしいです。




コレクターのセンスの良さがひと目で分かる展示で楽しさいっぱいでした。水野美術館は、きのこの研究開発・生産・販売までを行う「きのこ総合企業グループ」ホクト株式会社の創業者、水野正幸さんのコレクションをもとに設立されました。水野さんは2009年にお亡くなりになりましたが、美術館は日本画壇の巨匠の作品のほか、桜の画家として知られる地元出身の中島千波を筆頭に、現代作家や長野ゆかりの作家の作品も充実しています。同美術館ではコレクション展や特別企画展を開催しています。気軽にお出かけを、という状況はまだ少し早そうですが、機会がありましたらぜひ。お庭も立派です。
(読売新聞美術展ナビ編集班 岡部匡志)
◇あわせて読みたい