【開幕レビュー】松園の深化がありありと――「上村松園・松篁・淳之三代展」 東京富士美術館

「上村松園・松篁・淳之三代展」
会場:東京富士美術館(東京都八王子市谷野町492-1)
会期:2022年2月11日(金)~3月13日(日)
休館日:月曜日
アクセス:JR中央線八王子駅からバス(創価大正門東京富士美術館行きか創価大学循環)に乗り、創価大正門東京富士美術館のバス停で下車、京王八王子駅からも同様のバスで行ける
入館料:大人1300円、高校生・大学生800円、小中学生400円、未就学児無料。
※詳細情報は同館HP(https://www.fujibi.or.jp/)で確認を。

凜として涼しげ。気品にあふれたたたずまい。明治から昭和にかけて活躍した美人画の名手・上村松園。その長男で花鳥画の大家・上村松篁。さらにその長男の上村淳之――。八王子市の東京富士美術館で開催中の「上村松園・松篁・淳之 三代展」は、淳之氏が館長を務める松伯美術館(奈良市)のコレクションを中心に、幅広く作品を集めた展覧会である。

上村松園《人形つかい》明治43年(1910)絹本・屏風装(二曲一隻) 松伯美術館蔵

サブタイトルは、「近代が誇る女流画家とそれに連なる美の系譜」。ほぼ同時期に開催されている山種美術館の「上村松園・松篁展」の副題「美人画と花鳥画の世界」と比べると、微妙にコンセプトの違いが見えてくる。松園の《牡丹雪》や松篁の《白孔雀》などの佳品を軸に据え、他作家の作品とも比べながら、松園や松篁の「美人画」「花鳥画」の本質を見せようとするのが山種美術館とすれば、松園、松篁、淳之の作品を系統立てて見せ、それぞれの特徴や魅力を分かりやすく提示しようとしているのが、こちら東京富士の展覧会だと思えるのである。

上村松園《長夜》明治40年(1907)絹本着色・軸装 福田美術館蔵 (前期展示:2月11日~2月27日)

それが明確に見えるのが、松園の画家人生を「建設期(明治時代)」「模索期(大正時代)」「大成期(昭和時代)」に分けた展示の流れだ。《長夜》《人形つかい》などの「建設期」の作品の多くは、とても表情が豊かである。何かの物語の一部を切り取ったような構図で、今にも動き出しそうな生命感に満ちあふれている。動的なイメージがあるのだ。

上村松園《花がたみ》大正4年(1915)絹本着色・額装 松伯美術館蔵

そのイメージが、「模索期」「大成期」と進むにつれ、徐々に変わっていく。題材は、「物語の一部を切り取った」ものから、「人生の一瞬を凝縮した」ものが多くなり、そこで表現される感情は、よりピンポイントで深化されたものになる。静的な表現が多くなったといえるだろうか。

上村松園《鼓の音》昭和15年(1940)絹本着色・軸装 松伯美術館蔵

山種美術館で展示されている「大成期」の《牡丹雪》がとてもドラマティックであることを考え合わせると、それは作家自身が意図して行った変化なのだろう。松園の描く女性たちの内面からあふれ出る生命の輝きや気品、それがより輪郭を鮮やかにして瞬間の中に描き込まれているような作品が増える。全体を通して見ると、そんな印象を持つことができる展示である。

上村松篁《万葉の春》昭和45年(1970)紙本着色・壁画 近鉄グループホールディングス株式会社蔵

松篁の作品は「白」が印象的で、花や動物たちの何げないフォルムの中から生命への憧憬が見えてくる。《月汀》や《雁金》などの淳之作品は、幻想的な背景が、前面に置かれた鳥たちの生命力を際立たせる。展示作品自体、もちろん魅力的な佳品ばかりだが、こういう松園、松篁、淳之の特徴が初心者にも自然と腑に落ちてくるのは、よく整理された展示のたまものだろう。

上村淳之《月汀》平成10年(1998)紙本着色・額装 松伯美術館蔵

山種美術館と東京富士美術館、アプローチは異なっているが、どちらの展覧会も三代の作家の魅力を的確に伝えてくれる。広尾と八王子、ちょっと距離は離れているけれど、双方を見比べてみるのも、楽しいアート体験である。(事業局専門委員 田中聡)

上村松園《わか葉》昭和15年(1940)頃 絹本着色・軸装 名都美術館蔵(後期展示:3月1日~3月13日)

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