【レビュー】「楳図かずお大美術展」東京シティビュー 27年ぶりの新作の衝撃!回顧展にあらず

「楳図かずお大美術展」が東京・六本木の東京シティビューで3月25日まで開催中です。「ああ、楳図かずおの回顧展か」と思うなかれ。過去作の原画は一切並びません。本展は、代表作である『漂流教室』『わたしは真悟』『14歳』、そして27年ぶりとなる新作を通して、楳図作品に宿る先見性や幻視的なビジョンにスポットを当て、芸術家としての楳図かずおに迫ります。(ライター・岩本恵美)

『漂流教室』グラフィックゾーン ©楳図かずお/小学館

会場入り口には、こうした展覧会のねらいを暗示するかのように、『漂流教室』から地球の気候変動や自然災害に関するキーワードや場面が抜き出されて展示されています。

『漂流教室』グラフィックゾーン ©楳図かずお/小学館

まるで近年注目されている”人新世”について言及しているような、生々しさを感じるキーワードが並びますが、『漂流教室』を読んだことがある人なら、このシーンが別枠で展示されていることに希望を感じるはず。

27年ぶりの新作は101点からなる連作絵画

『ZOKU-SHINGO 小さなロボット シンゴ美術館』展示風景 ©楳図かずお

本展の目玉は、何といっても27年ぶりの新作『ZOKU-SHINGO 小さなロボット シンゴ美術館』です。こちらはマンガではなく、101点の連作絵画からなる作品で、鉛筆で描いたものをコピーし、アクリル絵具で着彩したとのこと。4年がかりで完成させた大作です。

『ZOKU-SHINGO 小さなロボット シンゴ美術館』展示風景 ©楳図かずお

1枚1枚の絵には、タイトルと簡単な説明が添えられ、1から101までの番号が振られています。キリのいい100枚ではなく、1枚加えて101枚という奇数にしたのは、まだまだこれからも先へと進んでいく未来への気持ちを表したのだとか。御年85歳、その尽きぬ創作意欲には頭が下がります。

絵画を順番に辿っていくと、タイトルから示唆されるとおり『わたしは真悟』の続編のようでもあり、パラレルワールドのようでもある物語の世界に引き込まれていきます。

『ZOKU-SHINGO 小さなロボット シンゴ美術館』より「運命」のフォトスポット ©楳図かずお

くねくねとした動線も相まって、楳図ワールドに迷い込んでいく気分。そうして進んでいくと、まさに本作の中に入り込めてしまうフォトスポットが出現! 神々しいです。

現代アーティストが楳図作品をテーマに表現!

エキソニモ×『わたしは真悟』

そして本展のもう一つの目玉が、現代アーティスト3組による楳図作品をテーマにしたインスタレーションです。

エキソニモ 《回想回路》©エキソニモ ©楳図かずお/小学館

千房けん輔と赤岩やえによるアート・ユニット「エキソニモ」は、『わたしは真悟』の世界を映像インスタレーションで表現。大きさの異なる12台のモニターには『わたしは真悟』の作中場面が映し出され、まるでマンガのコマ割りのように展示されています。その下には使用済みのケーブルの山が広がり、片隅には赤いランドセルがぽつり。ランドセルからは、70年代の昭和歌謡が聞こえてきます。

ランドセルも70年代の昭和歌謡も『わたしは真悟』から引用されたアイコンなのですが、作中でも大事な場面の舞台となる東京タワーが背後に見えているというのも、なんとも心にくい展示です。

©楳図かずお/小学館

『わたしは真悟』では、工業用ロボットが小学生の悟と真鈴(まりん)の手によって意識を持ち、「真悟」と自らを名付けて動き始め、その意識を拡大していきます。エキソニモは「2022年にもし真悟がネットワークの中で生きていたら」と想像をふくらませて本作を制作したとのこと。後ろを振り返ると、モニター群と向かい合うように配置された、迫力ある真悟と目が合います。その目には、この世界はどのように映っているのでしょうか。

冨安由真×『ZOKU-SHINGO 小さなロボット シンゴ美術館』

冨安由真《Shadowings》©冨安由真 ©楳図かずお/小学館 Photo: Ken Kato

現実と非現実の狭間をモチーフに制作する冨安由真は、『ZOKU-SHINGO 小さなロボット シンゴ美術館』の素描が並ぶ展示室の演出とともに、部屋の中央に配置された構造物の制作を手がけました。暗い部屋の黒い壁には、101点の素描がずらり。小屋のような構造物の中には、『ZOKU-SHINGO 小さなロボット シンゴ美術館』や『わたしは真悟』からインスピレーションを受けた、はしごや家具などのオブジェクトが置かれています。展示室の照明が5分周期でついたり点滅したりとさまざまに変化し、光と影の中でモノクロームの素描と冨安の作品とが交互に浮かび上がってくる様はとても幻想的です。

冨安由真《Shadowings》©冨安由真 ©楳図かずお/小学館 Photo: Ken Kato

鴻池朋子×『14歳』

「かずお14歳」の一部展示風景 ©鴻池朋子 ©楳図かずお/小学館


鴻池朋子は、『14歳』をテーマにした作品群「かずお14歳」を展開。物語に表出される表現でなく、欲望や過剰性など芸術家としての楳図かずおが根底に持つものへのアプローチを試みたといいます。

《振り子 ゴキンチの先生》 ©鴻池朋子 ©楳図かずお/小学館

複数の作品で構成された本作からは、鴻池が楳図作品に向き合っていく様が伝わってきます。『14歳』の主人公、チキン・ジョージが「もし女性だったら」と描いたドローイングを手始めに、14歳の楳図を想像して描いた大型ドローイング作品へと続き、楳図作品に象徴的に登場する非常階段のオブジェクト、『14歳』の終盤に出てくるゴキブリのキャラクター「ゴキンチの先生」の顔をオモリにした振り子などを制作。

《14歳 左手のエチュード》 ©鴻池朋子 ©楳図かずお/小学館

窓ガラス一面には、『14歳』の中から鴻巣が気になった言葉やセリフをピックアップして原稿用紙に書き出した《14歳 左手のエチュード》が貼られています。利き手ではない左手で書かれたことによって違和感が生まれ、一つひとつの言葉がより際立って見えました。

そして未来へ

©楳図かずお

展覧会の締めくくりもとても印象的です。「未来へ」と題して並べられたのは『14歳』のラストシーン18枚。

人類の破滅をテーマにした『14歳』の中で、人間がいなくなった地球で唯一生き残ったのはゴキブリたちでした。ゴキブリの少年、ゴキンチは人間がいつか地球に戻ってくることを待ちわびています。そして――。

©楳図かずお

詳しい結末は、展覧会かマンガでぜひご確認を。同じく人類の破滅をテーマにした『漂流教室』と対になるようなラストシーンで、『漂流教室』に始まり『14歳』で終わるという本展の構成に思わず唸ってしまいました。

そして最後に改めて認識させられたのが、本展で取り上げられた楳図作品の共通点です。先見性については言わずもがなですが、どんなに過酷な状況が続いても希望を捨てずに行動し続ける人たちが必ずいます。楳図かずおを芸術家として捉え直すだけでなく、最後の最後にコロナ禍という“いま”に響くメッセージも届けてくれました。

未来へと突き進み続ける楳図かずおの芸術家としてのたくましさを目の当たりにし、勇気づけられる本展。ぜひ刮目して、新しい扉が開かれた楳図ワールドをご堪能ください!
(ライター・岩本恵美)

楳図かずお大美術展
会期:2022年1月28日(金)~3月25日(日) 会期中無休
会場:東京シティビュー(六本木ヒルズ森タワー52階)
開館時間:10時~22時 ※入館は閉館の30分前まで
入館料:一般2,200円、高大生1,500円、4歳~中学生900円、シニア(65歳以上)1,800円
詳しくは展覧会公式サイト

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