【開幕レビュー】ケストナーの名作のメッセージ アートを通じて大人と子どもが一緒に楽しみ、考える 「どうぶつかいぎ展」PLAY! ⅯUSEUMで4月10日まで

展覧会名:企画展示「どうぶつかいぎ展」
会期:2022年2月5日(土)~4月10日(日)
休館日:2月27日(日)
会場:PLAY! MUSEUM(東京・立川、JR立川駅北口・多摩モノレール立川北駅北口より徒歩約10分)
開館時間:10時~18時(平日は17時まで/入場は閉館の30分前まで)
入場料:一般1500円、大学生1000円、高校生800円、中・小学生500円、未就学児無料など
ウェブサイト(https://play2020.jp/)

『エーミールと探偵たち』『飛ぶ教室』『ふたりのロッテ』などの児童文学作品で今も世界的な人気を誇るエーリヒ・ケストナー(1899~1974)の著書、『動物会議』を主題にしたユニークな展覧会です。『動物会議』は1949年の出版。第二次大戦が終わり、各国の首脳たちは世界平和を維持するために会議を重ねますが、成果が上がりません。その様子に腹を立てた動物たちが、人間のこどもたちを救うために大会議を開催。大人たちに猛省を促す、というユーモアと皮肉に満ちたお話です。分断と対立が深まる現代の社会を省みると、「今の世界も大して変わらないじゃないか」「今こそ動物たちに集まってもらいたい」という嘆きも聞こえてきそうです。
開幕前日に行われた内覧会に伺いました。会場の冒頭にはケストナーの数々の名作でタッグを組んだ挿絵画家、ヴァルター・トリアー(1890~1974)が、『動物会議』で描いたかわいらしい複製原画が展示されています。ただし、これはあくまで序奏。ここからは物語の進行に沿って、気鋭の8人のアーティストがそれぞれ与えられた場面について『動物会議』を再解釈し、創作した作品がならびます。その豊かなイマジネーションに引き込まれます。
物語の中身を知らなくても作品やキャプションを眺めていれば大体の見当はつきます。パンフレットにあらすじも載っています。

第1幕 「まったく、人間どもったら!」
人間たちがいつまで経っても戦争をやめないことに怒り、話し合いをはじめるゾウ、ライオン、キリンをぬいぐるみ作家の梅津恭子さんが制作しました。ゾウたちは「人間の子どもたちのためになんとかしなくちゃ!」。可愛くて大きなぬいぐるみとの出会いで、あっという間にこの物語空間に入り込みます。
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第2幕 「動物ビルで会議があるぞ!」
「ぼくたちも会議をひらこう」。世界中のどうぶつたちに連絡しなければいけません。イラストレーターの秦直也さんが手紙や糸電話、パソコンなど様々な方法で会議の開催を伝える動物たちを描きました。

動物たちの伝言ゲーム。ひとつひとつ見ていくだけで楽しくなってきます。
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第3幕 「世界をきちんとしてみせるよ!」
空や海、陸をどうぶつたちが移動します。めざすは会議が開催される「動物ビル」です。アニメーション作家の村田朋泰さんが鮮やかな映像などで、大移動する動物たちを描きました。
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第4幕 「世界一へんてこな動物ビル」
世界一へんてこで、多分世界一おおきなビル。大挙する動物たちの様子に人間たちもびっくり。造形作家の植田楽さんが86体の動物を制作。

なんとセロテープを何層にも重ね、色を入れて体を作っています。「物語の内容に沿って、絶滅危惧種やすでに絶滅してしまった動物を中心に選びました」と植田さんは話します。
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第5幕 「子どもたちのために!」
いよいよ最初で最後の動物会議が始まりました。「二度と戦争がおきないことを要求します!」という演説に拍手、吠え声、うなり声、さえずりがとどろきます。映像作家の菱川勢一さんのインスタレーションは毛皮の塊や木の枝、野獣の顔を思わせる平面作品などが並び、それらが不気味に蠢きます。なぜか突撃ラッパもあちこちに。「動物と人間は分かり合えることもあるが、分かり合えないこともある。いきなり突撃され、かまれることもある」と菱川さん。そうした得体のしれない獣たちの姿を連想させます。
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第6幕 「連中もなかなかやるもんだ」
人間たちはあの手この手で動物たちの要求を拒否します。でも動物たちはあきらめません。これは子どもたちのためなのですから。
これまでも動物をめぐる様々な作品を手掛けてきている現代美術家、鴻池朋子さんのアプローチはさすがに多彩です。牛の皮に描かれた動物、影絵、動物たちのリアルな糞の造形など。子どもたちがワクワクしそうです。
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第7幕 「人類がふるえあがった日」
地上からすべての子どもたちが消えてしまいました。動物たちの最後の一手でした。人間はとうとう、永久平和を約束する条約に署名しました。子どもたちはもちろん無事。動物たちと一緒に元気に過ごしていたのです。
画家のJunaidaさんは、子どもの姿をメインに巨大なポスターを作りました。「動物と大人たちのやりとりを、子どもたちはどう考えていたのか、ということが気になって。私なりに作品のメッセージを視覚化しました」とjunaidaさんは言います。
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エピローグ 「動物会議はつづく」
めでたしめでたし、のストーリーが世に出てから70年あまりが経ちました。果たして世界は今、どうなっているでしょう。絵本作家のヨシタケシンスケさんが「その後」を描きます。動物たちは今もこどもたちのことを思っています。
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8人のアーティストはそれぞれ自分のイメージを自由に作品化したのですが、展示としては驚くほどの一貫性を感じます。参加アーティストの方々はその背景として「ケストナーの作品としての強さ」を口にしていました。様々な形で楽しめる重層的な展示。動物たちの様々な表現がたっぷり味わえ、子どもたちは大喜びしそうです。大人たちは原作のメッセージを重く受け止めることになるかもしれません。落ち着かない世情ですが、多くの方に見てほしい展覧会です。
(読売新聞美術展ナビ編集班 岡部匡志)
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