【開幕レビュー】「よみがえる正倉院宝物―再現模造にみる天平の技―」サントリー美術館で3月27日まで

(右上から時計回りに)模造 木画紫檀双六局(奈良国立博物館蔵)、模造 酔胡王面(宮内庁正倉院事務所蔵)、模造 螺鈿箱(宮内庁正倉院事務所蔵)、模造 紅牙撥鏤撥(宮内庁正倉院事務所蔵)

東京・六本木のサントリー美術館 で御大典記念特別展「よみがえる正倉院宝物―再現模造にみる天平の技―」が3月27日まで開催されています。本展に並ぶのは、奈良の正倉院に伝わる宝物の再現模造作品約70件と関連資料の数々。聖武天皇ゆかりの品々のほか、奈良時代に作られた楽器や仏具、装身具などが、現代の名工たちの手によってきらびやかによみがえった姿を見ることができます。

会場に並ぶ再現模造作品を見ていると、奈良時代にこんなにも美しく、精巧なものが作られていたのかと驚くばかりです。

(右上から時計回りに)模造 赤地唐花文錦(宮内庁正倉院事務所蔵)、模造 紺玉帯(宮内庁正倉院事務所蔵)、模造 紅牙撥鏤碁子(奈良国立博物館蔵)、模造 金銀平脱皮箱(奈良国立博物館蔵)【展示期間:1/26〰2/21】

8年かけて模造された「螺鈿紫檀五絃琵琶」

本展の目玉は、なんといっても「螺鈿紫檀五絃琵琶らでんしたんのごげんびわ」の再現模造。会場に入ると、ひときわ目を引くその美しさに見入ってしまいます。

模造 螺鈿紫檀五絃琵琶 宮内庁正倉院事務所蔵

「螺鈿紫檀五絃琵琶」は明治後半に大規模な修理と模造製作が行われましたが、想像を交えながら修理した部分がなかったとは言い切れません。そこで平成の再現模造製作では、明治期の修理を検証すると同時に、演奏可能な楽器として再現することを目指したといいます。

正倉院の原宝物は、世界で唯一現存する五絃琵琶。そのため、その構造や音色などについて、参照できるものはありません。螺鈿や木工などの工人たちや雅楽器の専門家ら多分野の人々の協力のもと、8年もの歳月を経て完成しました。今では入手困難となった紫檀したん玳瑁たいまいなどの材料の調達も含めると、15年にも及ぶ一大プロジェクトだったそうです。

なかでも大きな成果は、CT撮影によって音を奏でるための内部構造が解明されたことでした。会場内では、五絃琵琶の音色を再現した音楽も流れているので、ぜひ耳をすませて天平へと思いを馳せてみてください。

最新の科学分析で構造までも再現

正倉院宝物の模造製作の始まりは、明治時代。当時は修理時の試作として作られることが多く、その形や意匠の再現に留まるものでした。それが1972(昭和47)年以降、宮内庁正倉院事務所のもと、原宝物の素材や構造、技法に至るまで徹底的にこだわり、作られた当時の姿を再現することに注力するようになったといいます。近年では最新の科学技術による分析が大きな手がかりとなり、内部構造までも再現できるようになりました。

本展では、そうした科学分析で解明された構造や製作工程を示す資料も展示されています。それらを見ると、奈良時代、そして現代の名工たちの手技の巧みさがさらに実感できるはずです。

模造 黄銅合子(おうどうのごうす) [鋳造]般若勘溪 [彫金]浦島紫星、平成16年(2004)、宮内庁正倉院事務所蔵
黄銅合子は仏前で用いられた香合。X線撮影によって、つまみ部分には50以上の部材が重ねられていることが判明しました

再現模造の意義とは?

再現模造の意義は単に当時の姿をよみがえらせるだけでなく、失われた技術をも見出すことにあります。

例えば、聖武天皇ご遺愛の碁石入れ「銀平脱合子ぎんへいだつのごうす」の丸い形は、竹を編んだか木材をろくろで挽いて作られたものだとこれまで考えられていました。ところが、X線透過写真などから、テープ状にした材を巻いて成形する巻胎けんたい技法で作られたことが判明したのだそう。

模造 銀平脱合子 宮内庁正倉院事務所蔵

さらに、失われた技術が現代によみがえることは、伝統技術を後世に伝えるだけでなく、そこから新たな美術工芸品や名工たちが生まれる土壌を培っているともいえます。

正倉院には美しい釉薬で彩られた三彩や二彩などの彩釉陶器の名品が伝わっています。「二彩鉢」や「磁鼓じこ(陶製のつづみの胴)」の再現模造に取り組んだ加藤卓男は、この経験を生かして三彩の技を極め、独自の三彩陶を生み出し、人間国宝にもなりました。

模造 二彩鉢 加藤卓男、昭和63年(1988)、宮内庁正倉院事務所蔵

正倉院の再現模造事業はおよそ1300年も前の天平時代に目を向けつつも、実は同時に現在や未来をも見据えている取り組みでもあるのです。

再現模造の逸品を一堂に集めて公開するのはなんと20年ぶりとのこと。この貴重な機会をどうぞお見逃しなく。現代の名工たちの手でよみがえった天平の美と技を通して、再現模造の意義を改めて感じてみてください。
(ライター・岩本恵美)

御大典記念 特別展 よみがえる正倉院宝物―再現模造にみる天平の技―
会期:2022年1月26日(水)~3月27日(日)
会場:サントリー美術館(東京・六本木)
休館日:火曜日(ただし3月22日は開館)
開館時間:午前10時~午後6時(金・土および2月10日、3月20日、3月21日は午後8時まで) ※入館は30分前まで
入館料:一般1,500円、大学・高校生1,000円、中学生以下無料
詳しくは展覧会公式サイト

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