【レビュー】隠れた意味を読み解く楽しみ 企画展「季節をめぐり、自然と遊ぶ~花鳥・山水の世界~」 大倉集古館(東京・港区)で開催中

《桜に杉図屏風》桃山時代・16世紀、6曲1双のうち(左隻)

ギャラリー・トークから

美しい花や鳥、雄大な山や河川、変転する天象・地象を造形化した作品の数々。一つ一つの作品の背後にある物語や決め事、歴史を知れば、作品はさらに面白くて美しく見えるようになります。大倉集古館で所蔵する日本や中国、韓国の絵画、書跡、工芸品の優品を通して季節や時の移ろいを感じ、そこに込められた意味や表現方法を探る展覧会が開かれています。担当学芸員によるギャラリー・トークを聞いてきました。

企画展「季節をめぐり、自然と遊ぶ~花鳥・山水の世界~」
会 場:大倉集古館(東京・港区)
会 期:1月18()327()  前期1/182/20 後期 2/223/27 前後期で一部作品の巻替えあり
開館時間:午前10時~午後5(入館は午後430分まで)
休館日:月曜日(休日の場合は翌平日)
入館料:一般1000円、大学生・高校生800円、中学生以下無料、障がい者手帳、被爆者手帳提示の方と同伴者1人無料
地下鉄南北線・六本木一丁目駅中央改札口より徒歩5分、同日比谷線・神谷町駅より徒歩7分 、同銀座線・溜池山王駅か虎ノ門駅より徒歩10

◆これからの担当学芸員による展示室でのギャラリートークの予定  28()222()31()315()いずれも午後2時から

事前申し込み制 先着順※満員でも距離をとった場所で聞くことは可。

詳しくは同館ホームページへ

第1章 和の世界~春と秋の造形~

展示は2章立てで、第1章は和歌や物語を背景とした「和」の世界です。日本人の季節感の原型は平安時代にできたと言われます。和歌に詠われた季節の景色は、年中行事や名所、物語などと結びつき、「型」や「寓意」を与えられて様々な表現を獲得していきます。

春-桜を愛でる

《吉野山蒔絵五重硯箱》江戸時代~明治・19世紀

「山」と「桜」が表されていれば、それは吉野山の桜を指します。この作品には松も表されていて、桜の生命力と松の永遠性の両方を持ったとてもおめでたい図柄です。

《桜に杉図屏風》桃山時代・16世紀、6曲1双のうち(右隻)

桃山時代に描かれたスケールの大きな絵です。山桜に杉や檜が描かれています。手前の緑の土の山は土堤どはと呼ばれ、これがあることで離れた所から見ると距離感が出て土堤の向こうに桜があるように見えるのだそうです。桃山時代の大きな建物の中で見るのに合った、大きなスケールの絵だったのでしょう。左隻(表紙の写真)では満開の山桜が描かれています。ヤマザクラはソメイヨシノと違って花と葉が一緒に開きます。左の木では葉の赤い芽が描かれていますが、右の木では葉が緑になっています。時間の経過を表しているのだそうです。ではどこの桜を描いたのでしょう。定説は無いのだそうです。古来、山があれば吉野山ということになっているのですが。豊臣秀吉は吉野と醍醐で花見をしているので、これは醍醐ではないかという推理も楽しめます。

《四季若草図巻》江戸時代・18世紀 巻上

農作業を描いた絵は農民の姿だけを描いたものが多い中で、この絵は武士の正月の様子など、武士と農民という異なる身分の絵が交互に描かれている珍しいものです。また、農作業も稲の耕作の場面が多い中で、この絵では畑がある(写真右上端)のも珍しいということです。色も鮮やかで、細部まで詳細に描かれていて、当時の風俗がよく分かります。

秋―吉祥と豊かさの造形

《秋草蒔絵文台》富田幸七作、明治・19~20世紀

秋草ははかなさをイメージさせる文様なのですが、これは大輪の菊花を交え、跳びはねているような元気な絵に見えます。秀吉の遺愛品(京都・妙法院蔵)を模したものだそうですが、いかにも秀吉好みなのかも知れません。

《打乱箱》(うちみだりのはこ)狩野美信(1747~97)作、江戸時代・18世紀

白と赤の菊の花が箱の内側側面にまで描かれています。箱の外側側面には籐で編んだような籠目があり、裏面には山水画が描かれるなど非常に凝った作りになっています。今のお盆のような使われ方をしたのですが、高貴な女性が髪を梳いた時にぬけた髪を入れることもあったそうです。白い菊の花の上に流れるように置かれた長く黒い髪。想像してみましょう。

秋-悲哀の季節

《源氏物語 澪標図屏風》江戸時代・17世紀

秋は日本では色鮮やかな季節なのですが、「悲しみの季節」という中国の感覚が漢詩を通して日本に影響したと言われています。光源氏が住吉大社へ参詣した場面を描いたものです。源氏の周りにはおめでたい松が描かれていますが、端の方には風になびく秋草や波の中を行く船など、身分差を思い知らされ船に乗ってその場を離れる明石の君の侘しい心情が表現されているようです。

第2章 漢の世界~中国の花鳥・山水~

2章は水墨画や漢詩の作品を中心とした「漢」の世界です。中国では美しい花鳥や雄大な山水画も、背景に儒教を土台とした価値観や古典の教養が隠されています。

東洋蘭の世界

《蘭竹図屏風》椿椿山(1801~54)筆、江戸時代・嘉永5年

水墨で描かれる蘭は東洋蘭で、山野草に近く緑の葉が美しい植物です。中国宋時代以降、文人士大夫の理想像が投影され、姿が見えなくても香りを漂わせることから、世に隠れた徳の高い人の象徴とされました。右隻には群生する蘭と岩上の霊芝れいしが描かれ、徳の高い者同士の交友「芝蘭しらんの交」を表しています。左隻の竹は、直立して四季を通して緑を保つことから不変や不屈の精神を象徴しています。金箔の上に墨で描かれていますが、紙や絹に描くのとは違う技術が必要なのだそうです。

中国の花と鳥

《清朝名人便面集珍》のうち「梅椿に白頭翁図」、中国明~清時代・18世紀

梅と椿(中国では山茶花)は小寒の頃に咲いて春の訪れを知らせる花です。白い頭の鳥、白頭翁はくとうおう(シロガシラ)のつがいが描かれていますが、白頭は長寿をつがいは夫婦を表すということで、老父母の健康を祈るという意味が込められていると考えられるそうです。扇面に折り跡があることから、実際に扇として使われていたものだというのも面白いところです。高級官僚への試験である科挙に、トップで合格した人が所有していたようです。

右《墨梅図》伝王冕(おうべん)、中国明時代・15~16世紀
左《梅花の詩》西郷隆盛(南洲)(1828~77)、明治・19世紀

大きくしなる梅の木に、無数の花と蕾が描かれていますが、徳の高い人のイメージなのだそうです。王冕は中国元の時代の文人画家です。横長の画面で珍しいと思っていたら、本来は縦長のものを日本で表具替えをして横長にしたのだそうです。元の縦長のサイズでは日本の部屋には収まらなかったのかも知れません。左の書は西郷隆盛の書で「夢回春草池塘外/詩在梅花煙雨間」と書かれています。

山水に季節を観る

右《残雪山水図》朝鮮時代・16世紀
左《寒光雪峰図》菅井梅関(1784~1844)筆、江戸時代・文政12年(1829)

中国では山々の主峰は皇帝の象徴とされ、主峰の下には皇帝のもとに集う官僚(士大夫)や漁師などの民衆が描かれます。一方で、老荘思想や古来の神仙思想の影響で、山水の場は世俗を脱して隠れ住む場所のイメージもあります。山水画には季節と、描かれた人を探して何をしているか想像する楽しみもあるそうです。左の絵は背景を墨で刷き、白い山肌が陽の光に美しく浮かび上がった雪山の姿です。大気の表現は穏やかな雪が山全体を優しく包んだ日本の雪山を思わせ、中国の雪山とはまた違う味わいがありそうです。右の絵は朝鮮時代初期の山水画の典型で、担当学芸員の四宮美帆子さんによると、中国の山水画に比べミニチュアのような素朴さと繊細をもった可愛らしさがあるのだそうです。

山水に集う人々―漁師と飲茶

《山水漁夫図》伝呉偉(ごい)筆 中国明時代・16世紀

葉が色づき、雁が飛ぶ秋の夕暮れ時です。右側の岩の上には酒を傍らに釣り糸を垂れる人。岩の左手前には魚を入れた籠を担ぐ二人の漁師がいます。漁師は自然に従って生きることから、中国では老荘思想を体現している人を表しているのだそうです。世に隠れた徳のある人のイメージです。現実の世界では厳格な儒教の教えと、激しい政争に明け暮れた歴代中国王朝の官僚たち。せめて絵の中で自由な時間を過ごしたかったのかも知れません。そんなことを想像しながら見るのも面白そうです。

 

(読売新聞事業局美術展ナビ編集班・秋山公哉)

 

 

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