【開幕レビュー】時代の先端を走った装い――「奇想のモード 装うことへの狂気、またはシュルレアリスム」展 東京都庭園美術館

奇想のモード 装うことへの狂気、またはシュルレアリスム
会場:東京都庭園美術館
会期:2022年1月15日(土)~4月10日(日)
休館日:月曜休館、ただし3月21日は開館し、22日が休館。
アクセス:東京都港区白金台、JR山手線目黒駅東口から徒歩7分、東京メトロ南北線、都営地下鉄三田線白金台駅から徒歩6分
入館料:一般1400円、大学生(専修・各種専門学校を含む)1120円、中・高校生700円、65歳以上700円
※日時指定予約制、詳しい情報は同館ホームページ(https://www.teien-art-museum.ne.jp)を参照。

アンドレ・ブルトンによれば、シュルレアリスムとは「理性によって行使されるどんな統制も無く、美学上ないし道徳上のどんな気づかいからもはなれた思考の書き取り」なのだそうだ。あらゆる束縛から解き放たれた発想、それを何かの「形」に落とし込もうとするクリエイターたちの行為。シュルレアリスムの理念は、文学、アートの枠を超え、ファッションの世界にも影響を与えたという。逆にシュルレアリストたちも、帽子や靴などのファッションアイテムをモチーフにして、自分たちの想像力を膨らませていったようだ。シュルレアリスムがモードの世界に与えた影響を軸にしたこの展覧会は、その美の表現を展示した上で、「奇想」をキーワードとして中世のファッションから現代のアートまでを見渡していくものである。

エルザ・スキャパレッリの作品の展示風景

最先端を走るモードの世界。そこで重要なのは、感性を解放して一歩先を行くデザインを生み出すことだろうと思う。どんな素材を使うのか。どんな形で体を包むのか。色合い、意匠、肌触りはどうなのか――。ココ・シャネルのライバルとも言われたデザイナー、エルザ・スキャパレッリがデザインした香水瓶、ケープ、イブニング・ドレスからは、20世紀前半の欧米が追い求めたエレガントさが漂ってくる。「装う」ことを意識するファッションアイテムは、通常のアートよりも肉感的であり、時代の空気を包んでいるようだ。スキャパレッリらデザイナーが、シュルレアリストたちと交流していたのはある意味必然だったようにも感じられる。

ハリー・ゴードン《ポスター・ドレス》1968年頃、京都服飾文化研究財団蔵、畠山崇撮影
舘鼻則孝の作品展示

物体からその本来持つ意味を切り離し、モノそのものの存在に注目する。《オブジェ》はシュルレアリスム・アートでは重要なアプローチのひとつだった。生命と非生命との境目を曖昧にし、人体の一部も「モノ」として客体化していく。シュルレアリスムの感覚はモードの世界にも浸透した。熊谷登喜夫のいかにも食べられそうな靴、トルソ(人台)にぴったりの形に作られたマルタン・アルジェラのジャケットなど、1980年代、1990年代の作品から舘鼻則孝ら現代作家の作品までの作品を眺めると、シュルレアリスムの水脈が綿々と今も流れ続けていることが見えてくる。

「和の奇想」の展示風景

庭園美術館の本館、新館を思い切り使った大規模展。中世のヨーロッパから江戸時代の日本まで、様々な時代の「奇想」がここにはある。長い歴史の中で、人間はどれだけ「装う」ことに知恵を絞り、心を尽くしてきたのだろうか。圧倒的な量と質。1日ではとても消化しきれない内容だ。そして最後の展示、蚕の遺伝子組み換えによって発光体となった絹糸を使った西陣織のドレスのインスタレーション。その神秘的な光は、まだまだ「装う」ことに対する人類の欲望はつきていない、アートと結びついたモードの発展はこれからもあるだろう、と思わせてくれるのである。(事業局専門委員 田中聡)

イエローフィルター越しに見たANOTHER FARM《Modeified Paradise》(2018年、ミクストメディア 作家蔵)

直前の記事

【プレビュー】最上級のコレクションを満喫 「大英博物館 北斎ー国内の肉筆画の名品とともにー」 サントリー美術館で4月16日開幕

展覧会名:大英博物館 北斎ー国内の肉筆画の名品とともにー 会期:2022年4月16日(土)~6月12日(日)※会期中展示替えあり 会場:サントリー美術館(東京・六本木、東京メトロ日比谷線、都営地下鉄大江戸線「六本木」駅よ

続きを読む
新着情報一覧へ戻る