【レビュー】 間近で見る美と迫力 ユネスコ無形文化遺産 特別展「体感!日本の伝統芸能―歌舞伎・文楽・能楽・雅楽・組踊の世界―」東京国立博物館(東京・上野)で始まる

第2章文楽の『義経千本桜』「河連法眼館の段」の再現舞台

ユネスコ無形文化遺産に登録された日本の伝統芸能の美と、それを支える「わざ」を体感してもらおうという展覧会が、東京国立博物館表慶館で始まりました。展示は歌舞伎、文楽、能楽、組踊、雅楽の5章立て。実寸に近い大きさで作られた舞台や、公演で使う衣裳や面、人形、小道具などが手に取るほどの間近で見られ、客席からでは分からない細部の質感までが体感できます。313日まで。

ユネスコ無形文化遺産 特別展「体感!日本の伝統芸能―歌舞伎・文楽・能楽・雅楽・組踊の世界―」
会場:東京国立博物館 表慶館(東京・上野)
会期:2022年17()313() ※会期中、一部展示替えあり
開館時間:午前930分~午後5時  ※日時指定券の事前予約推奨
休館日:月曜日
観覧料:一般1500円、大学生1000円、高校生600
JR上野駅公園口・鶯谷駅南口より徒歩10

東京メトロ銀座線・日比谷線上野駅、千代田線根津駅、京成電鉄京成上野駅より徒歩15

詳しくは公式サイト

第1章 歌舞伎

会場は明治末期の洋風建築として重要文化財に指定されている表慶館。エントランスから右へ。最初は歌舞伎。展示室に入ると左は『金門五山桐』「南禅寺山門の場」の舞台です。舞台に上がることができ、正面上部描かれた桟敷の様子を眺めて、ちょっと役者になった気分にも。歌舞伎の錦絵や編み笠、魚、蝶、煙草入れといった小道具もあります。魚や蝶が舞台では跳ねたり舞ったりする様子が想像できそうです。

再現された舞台上から正面を見る。上部に桟敷席の様子が描かれている
煙草入れや編み笠、蝶、魚などの小道具

次の部屋には衣裳の実物や隈取の説明が。衣裳の煌びやかさや丁寧な作りがよく分かります。重さが10㌔㌘程もあるということで、これを着て軽々と動くのには感心します。同じ役でも着る役者によって衣裳が異なるのも面白いところです。隈取も起源や色が意味するものなど丁寧な説明があります。

「菅原伝授手習鑑」松王丸の衣裳。左が成田屋、右が音羽屋の衣裳
隈取の説明(下段中央)などの展示

第2章 文楽

螺旋状の階段で2階に上がると、第2章は文楽です。入口正面で文楽人形とそれを扱う3人の人形遣いが迎えてくれます。それぞれの人形遣いがどう人形を操っているか、360度から見ることができます。並んだ人形のかしらは、その表情の豊かさに見飽きることがありません。衣裳を脱いだ「人形の構造」も普通は見ることのできないものです。この構造で、人間そっくりの動きに見せるのかと思うと不思議です。

文楽の首
人形の構造(中央) 『義経千本桜』道行初音旅 狐忠信

次の部屋に移ると、そこは『義経千本桜』「河連法眼館の段」の世界。左手に舞台が再現されています。3人で1体の人形を遣う「三人遣い」の様子がよく分かります。右手には舞台のパネル写真が展示され、記録映像も上映されており、舞台を見ているような雰囲気を味わえそうです。

『義経千本桜』の舞台写真

第3章 能楽

第3章は能楽です。世阿弥がめざした能は、古典文学を典拠とする優美な主人公が、心に秘めた情念を音楽や舞の情調に託して描き出すというもの。黒い壁に照度を落とし気味の展示室と、展示された面や装束からも一端が感じ取れそうです。

ら能面、天冠、鬘扇(かずらおおぎ)
楽器や能面、装束等

次の部屋は能舞台です。一度途絶えてしまった能の演目を復活させた、復曲ふっきょく能『岩船』をテーマにしたものです。国立能楽堂の1/30の模型もあり、能舞台と奥をつなぐ長い通路〈橋掛はしがかり〉の様子などよく分かります。

『岩船』の能舞台と国立能楽堂の1/30の模型

第4章 組踊

階段を降りると沖縄の古典芸能「組踊」です。琉球王朝は幕藩体制に組み入れられるとともに、中国とも関係を結んでいました。国王の代替わりの時には中国皇帝からそれを認める使者が遣わされました。その使者をもてなすための芸能の一つが組踊です。踊といっても、琉歌りゅうか琉舞りゅうぶを織り込んだ音楽劇だそうです。天女の話や敵討ちの話を基にした展示ですが、なかなか見る機会のないもので、沖縄の文化を知るよいきっかけにもなるかも知れません。

沖縄の羽衣伝説を基に作られた『銘苅子』(めかるしー)の衣裳や冠、小道具等
父の仇を討つ二人の兄弟の物語「二童敵討」(にどうてきうち)の衣裳や小道具

第5章 雅楽

最後は5世紀から9世紀にかけて中国や朝鮮などから伝来した楽舞を、日本で整理・集成した古代の宮廷芸能である雅楽です。上演には演奏のみの「管絃かんげん」と舞を伴う「舞楽」があります。また10世紀以降、唐楽とうがく(中国の楽舞)担当する左方さほうと、高麗楽こまがく(朝鮮とその他の地域の楽舞)を担当する右方うほうに編成され、管絃は左方のみにあり右方は舞楽のみを行うそうです。展示では舞楽「還城楽げんじょうらく」の舞台が再現されています。周りには宮内庁式部職楽部で実際に使っている装束や鼉太鼓だだいこなどが展示されていて、本物の持つ迫力が感じられます。また、様々に舞うシーンの写真パネルから、古代の人々が当時の先進国だった唐や朝鮮由来の面や音楽に何を感じていたか想像するのも面白いでしょう。

『還城楽』の舞台(縮小版)とその装束、鼉太鼓等
舞姿の写真

 

(読売新聞事業局「美術展ナビ」編集班・秋山公哉)

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