【レビュー】大河ドラマ、アニメでも注目の時代にスポット 武士たちの強く気高い姿を味わう 「The SAMURAI ーサムライと美の世界ー」展 岡田美術館

「平家物語図屏風」(左隻部分)江戸時代前期 17世紀 岡田美術館蔵
[屋島]の場面。那須与一が扇の的に矢を当てる。平家物語で最も人口に膾炙された名場面でしょう

格調高く語り継がれた源平の戦い、凄惨極まりない合戦、諸大名の壮麗な行列、勇壮な馬追いなどの「武士を描いた絵」を中心に、「武士階級の画家が描いた絵」もまじえて、サムライたちの美の世界を紹介します。

展覧会名:The SAMURAI    ーサムライと美の世界ー

会期:2021年10月2日(土)~2022年2月27日(日)※会期中無休

会場:岡田美術館(神奈川県箱根町小涌谷、バス停「小涌園」より徒歩すぐ)

開館時間:午前9時~午後5時(入館は午後4時30分まで)

入館料:一般・大学生2800円、小中高生1800円

岡田美術館ホームページ(https://www.okada-museum.com/

今、注目の源平の戦いを印象的に

平氏の栄華と没落を琵琶法師が語り継いだ『平家物語』。全12巻の各巻から1場面を選び、右隻に1~6巻、左隻に7~12巻の場面を描いたのが『平家物語図屏風』で、今展の注目作です。江戸時代前期に描かれたものですが、依頼者や制作者は分かっていません。縁の金具に葵の紋が入っていることから、徳川家ゆかりの人の手元に置かれていた時期もあったかもしれません。状態のよさ、総勢800人もの人物が登場する精密な描写、ふんだんに使用されている金、劇的な表現と思わず目を見張る逸品です。「豪華な内容からいって相当に高位の人が作らせたものでしょう。ダイジェストの映像作品のようにこれを見せながら、物語を語り聞かせていたのかもしれません」と小林優子主任学芸員は言います。

『平家物語図屏風』(一双のうち左隻)江戸時代前期 17世紀 岡田美術館蔵

NHK大河ドラマ「鎌倉殿の13人」が始まり、TVアニメ「平家物語」も注目されるなど、今、まさに脚光を浴びている源平の戦い。この屏風でも平清盛の栄華の絶頂、水鳥の飛び立つ音に驚く平家軍、弓で敵船の扇を射抜く那須与一、頼朝の征夷大将軍任命などの印象的な場面が描かれます。源氏側で活躍しながら最期は義経らに討たれた源義仲が3回にわたって描かれるのに対し、稀代のヒーローである義経は1回の登場にとどまるなど、場面の選択に特徴があり、依頼者サイドに何らかの思いがあったのかもしれません。

「平家物語図屏風」(右隻部分)巻第一 吾身栄花 平氏一門の栄華の様子。公卿や娘たちの数など、原作通りに正確に描かれている。

「平家物語図屏風」(左隻部分)巻第七 倶利迦羅落[倶利伽羅峠] 平氏軍は義仲軍が挙げた鬨の声に驚き、谷へ谷へと落ちていった。押しつぶされんばかりの平氏の武士たちの表現が強烈
「平家物語図屏風」(左隻部分)巻第十 千手前[狩野介宗茂館]平重衡は一の谷合戦で捕らえられ、鎌倉に護送。頼朝と対面したのち、狩野介に預けられた。
興福寺や東大寺を焼き払った平重衡。しかし頼朝は情けをかけて死の前に、重衡に琵琶を奏でるという雅な機会を与えます。隣室で頼朝はその演奏をひと晩じゅう聴いていたといい、その姿も描かれています。物語の大きな流れとは直接関係なくても、こうした場面をあえて選んだ制作者側の思いも興味深いです。

「平家物語図屏風」(左隻部分)巻第十一 那須与一[屋島] 屋島合戦の日に、平氏の軍船に立てられた扇の的に、源氏軍の弓の名手、那須与一が矢を当てる。平氏、源氏双方のどよめきと称賛の声が聞こえてきそうだ。
「平家物語図屏風」(左隻部分)巻第十二 土佐坊被斬[源義経邸]頼朝が遣わした討手が京都堀川の義経邸を夜襲する。義経は弁慶ら従者たちともに迎え撃って勝利。だが義経は次第に追い詰められていく。
最後を平家滅亡の場面でなく、源氏同士の抗争のエピソードで締めくくっている点も不思議です。武士のあり様に対する深い洞察が感じられます。

TVアニメ「平家物語」とのコラボ展示は必見

フジテレビなどで1月12日から地上波放送が始まる「平家物語」。様々な形で翻案された作品ですが、連続アニメシリーズになるのは初めてといいます。今展ではこのアニメとコラボした展示も行っています。ワンコーナーですが、見応えは素晴らしく、ファンならずとも必見でしょう。

TVアニメと「平家物語図屏風」で共通する場面を並べて展示してあり、アニメも入念な取材と考証で、原作に忠実に再現したことがよく分かります。

また、後白河法皇、平清盛、安徳天皇などアニメの登場人物の背景に置かれる屏風や襖も詳しく紹介。それぞれが登場人物のキャラクターに応じてきめ細かく設定・デザインされており、その手の掛け具合に驚きます。テレビ鑑賞している時には見過ごしてしまいそうな部分ですが、妥協のない作品作りの舞台裏を知ることができます。この展示を見てからまた屏風を見直したり、アニメの録画を再チェックしたりすると、新しい発見がたくさんあるに違いありません。

北斎の名品にほれぼれ

葛飾北斎「堀河夜討図」(部分) 江戸時代後期 19世紀前半 岡田美術館蔵

岡田美術館を代表する逸品。今展のメインビジュアルにも使われています。「平家物語図屏風」でも取り上げられた、頼朝方の襲撃に対して出陣する場面を描いています。義経、愛妾の静御前、弁慶をSの字に配置し、ピリピリした緊張感を漂わせる構図。北斎の60歳代~70歳代前半の円熟した技巧が感じられます。武士を描いた作品としても指折りのものでしょう。

血みどろの戦い

「合戦図屏風」(部分)桃山~江戸時代初期 16~17世紀 岡田美術館蔵

戦乱相次ぐ南北朝時代を描いた軍記物語「太平記」をもとに制作。首や胴が切られ、血しぶきが飛び散る陰惨な場面を事細かに描いています。琵琶湖周辺や京都が舞台と考えられています。果たしてどういう意図で制作されたのか。想像を刺激する作品です。

華麗な行列と祭礼

江戸時代に入って泰平の世となり、戦いが縁遠くなるにつれ、武士を描いた作品も「血」のにおいがしなくなります。

「二条城行幸図屏風」(部分)江戸時代前期 17世紀 岡田美術館蔵

寛永3年(1626)、後水尾天皇を二条城に迎えた歴史的行幸。将軍家光、大御所秀忠をはじめ御三家、伊達政宗、前田利常ら武将たちも威厳を正して参列しました。

「相馬野馬追図屏風」(部分)江戸時代中期 18世紀 岡田美術館蔵

福島の地で現代に続く勇壮な祭り。藩主も登場します。

「絵筆を取った」武士たち

最後のコーナーは「描かれる」武士から「描く」武士にスポット。江戸時代は武士階級出身の画家も多く活躍しました。渡辺華山は武士の職務を勤勉に勤めながら作品を描き続けました。歌川(安藤)広重が定火消同心の家職を離れたのは保永堂版「東海道五十三次」を世に出す1年前。出家した酒井抱一、脱藩した浦上玉堂など、武士の身分、職分とさまざまに折り合いをつけながら画業の道を選んだ彼らの作品を味わいます。

重要文化財 渡辺華山「虫魚帖」のうち(鶏頭にとんぼ、部分) 天保12年(1841) 岡田美術館蔵 ※会期中ページ替えあり
酒井抱一「月に秋草図屏風」 文政8年(1825) 岡田美術館蔵

締めくくりは神坂雪佳(1866ー1942)。明治維新直前の慶応2年、京都の武士の家に生まれました。「武士の家に生まれた」最後の世代でしょう。繊細な兜の表現に武士の出自に対する思いはあったのか、なかったのか。

神坂雪佳「兜に菖蒲図」(部分) 大正~昭和時代前期(20世紀前半) 岡田美術館蔵

「武士」をめぐる様々な表現をたっぷり味わえる展示。作品に触れることで、話題のドラマやアニメを一層深く楽しむことができる内容です。そういった狙いで来館するのもおすすめです。

(読売新聞美術展ナビ編集班 岡部匡志)

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