【レビュー】「名画の殿堂 藤田美術館展―傳三郎のまなざし―」奈良国立博物館で1月23日まで「国の宝は一個人が秘蔵するにあらず、広く世に公開すべし」

まるで展覧会の副題「傳三郎のまなざし」を表すように傳三郎像のまなざしの先に作品が展示されている

「名画の殿堂 藤田美術館展―傳三郎のまなざし―」
会場:奈良国立博物館 西新館
会期:令和3年(2021)12月10日(金)~令和4年(2022)1月23日(日)
休館日:毎週月曜日
開館時間:9:30~17:00(入館は16:30まで)
入館料:一般1200円、高校生・大学生1000円
詳しくは展覧会公式ホームページを参照

2022年4月にリニューアルオープンする大阪の藤田美術館(大阪市都島区網島町)。同館は、明治期に活躍した実業家・藤田傳三郎ふじたでんざぶろうそして息子の平太郎、徳次郎の3代によるコレクション(国宝9件、重要文化財53件を含む)を収蔵し、小宇宙のように瑠璃色に輝く国宝「曜変天目茶碗ようへんてんもくちゃわん」を所蔵していることで知られている。

奈良国立博物館(奈良博)では2019年春に開催した展覧会「国宝の殿堂 藤田美術館展 曜変天目茶碗と仏教美術のきらめき」の続編として、2021年12月10日から「名画の殿堂 藤田美術館展―傳三郎のまなざし―」が開催中だ。「国の宝は一個人が秘蔵するにあらず、広く世に公開すべし」の言葉を遺した傳三郎の「まなざし」の先にあるものとは?傳三郎から数えて5代目の子孫であり、藤田美術館の藤田清ふじたきよし館長に伺った。 

国宝「曜変天目茶碗」だけじゃない!通史的に日本絵画史を把握できる絵画作品に注目

「大獅子図」 竹内栖鳳筆 明治35年(1902)頃 日本画の技法を用いて金地を背景に堂々としたライオンの姿を描く藤田美術館の近代絵画を代表する傑作。京都画壇の巨匠・竹内栖鳳の代表作

19年に開催された「国宝の殿堂 藤田美術館展」とは異なり、藤田美術館所蔵の絵画作品にスポットライトを当てた今回の特別展。奈良博の井上洋一館長は、「曜変天目茶碗だけでなく、藤田美術館の所蔵品は奥深く、知られざる名品が数多くあります。我々(奈良博の研究員)と藤田美術館とで共同研究調査により分かった隠れた名品の数々をご覧いただけたら」と見どころを語る。

 展示作品74件中、初公開作品は23件、館外初公開作品が19件。藤田傳三郎をはじめとする藤田家3代が蒐集しゅうしゅうした絵画作品群は、通史的に日本絵画史を把握できるほどの質と量を誇るという。傳三郎は、どのような意識を持って、これほどまでの作品(古美術品や文化財)を蒐集したのだろうか?

藤田傳三郎の視点、藤田美術館コレクションの特徴とは?

初公開「伝楊柳観音像」 (伝)良弁筆 明治時代(19~20世紀)

同展覧会の第1章は、「藤田傳三郎の視点」として、傳三郎がどういう意識で作品を蒐集したかを紹介するため、直接関わる作品や資料が展示されている。

 大阪商法会議所(現・大阪商工会議所)の第2代会頭を務め、大阪財界に大きな功績を残した藤田財閥の創始者である藤田傳三郎(1841年~1912年)。能や茶道を好んで興じ、若い頃から古美術への造詣が深かったという。藤田美術館は、傳三郎とその息子(平太郎、徳次郎)の尽力によるコレクションを軸に1954年、藤田家邸宅の蔵を改装した私立美術館として開館した。

藤田美術館の藤田清館長

 そのコレクションの最大の特徴は、「おそらく自分の好みで集めておらず、打ち捨てられる美術品の流失を阻止することに重きを置いていたことです。傳三郎は、絵画作品においても、時代も種類も網羅して蒐集していたことが分かっています」と藤田館長。そのため、同展覧会について、「絵画コレクションを系統立てて展示することで、日本で受容された絵画作品が日本人の価値観でどういうふうに捉えられ、その絵が日本の絵にどういう影響を与えたかが繋がって見える内容になっていると思います」と話す。

蒐集は、「某家の何」といった偏った集め方をしておらず、古美術を分類配列し系統的に体系づけるために完備する方針でおこなわれた。

日本の文化財を守るために、莫大な私費で明治維新後の仏教美術品の海外流出を阻止

初公開「藤田傳三郎坐像」明治時代~大正時代(20世紀) 伝来・作者は不詳。おそらく現存する唯一の藤田傳三郎の肖像彫刻

美術館創設の背景には、傳三郎と息子達の強い信念と想いがある。傳三郎らは、明治維新直後の神仏分離令(神仏判然令)に伴う廃仏毀釈などの影響で、数多くの歴史的な文化財(仏教美術品など)が海外流出している状況を憂い、膨大な私費を投じて、その散逸を阻止しようとした。

「これらの国の宝は一個人の私有物として秘蔵するべきではない。広く世に公開し、同好の友とよろこびを分かち、また、その道の研究者のための資料として活用してほしい」と、その志が受け継がれ、開館した経緯がある。コレクションに国宝や重要文化財が多いのも頷けるエピソードだ。傳三郎は、明治45年に70歳で亡くなる直前まで古美術の蒐集に努めていたという。

 「品類秩然として好個の美術資料を為す」

 「藤田美術館は規模が小さいので、これまで展示される機会が無く、なかなか研究者の眼に触れる機会が無い作品もありました。これだけの規模でまとまって絵画作品だけを観る機会は無いと思います」(藤田館長)

 傳三郎は、自身のコレクションを「品類秩然ひんるいちつぜんとして好個の美術資料を為す」と表現した。歴史的な価値を踏まえて購入し、美術史や分類研究に役立てようとしたことが分かる。そのため、第2章~第6章は、同美術館の絵画コレクションを日本絵画史の通史的に追える構成になっている。各章の注目作品をご紹介しよう。

国宝 「玄奘三蔵絵 巻第四」 高階隆兼筆 鎌倉時代(14世紀)

第2章では、中国風の絵画である「唐絵からえ」に対し、平安時代以降に発達した日本独自の絵画「やまと絵」の平安時代から近世までの様々な作品が紹介されている。注目は、2021年に国宝に指定された宮内庁三の丸尚蔵館所蔵の「絹本著色 春日権現験記絵 二十巻」を描いた高階隆兼たかしなたかかねによる国宝「玄奘三蔵絵 巻第四」。他にも、高階隆兼筆の重要文化財「春日明神影向図」など貴重な作品が並ぶ。

初公開 「鍾呂伝道図(しょうりょでんどうず)」 (伝)馬麟筆 中国 南宋~元(13~14世紀)

コレクションのなかには、20点以上の中国絵画作品もある。なかでも「宋元画」がひとつの柱になっており、日本絵画にどのような影響を与えてきたかが分かる作品が多い(第3章 宋元画憧憬)。

向かって左が重文 「雪舟自画像」(模本)。同様の雪舟の自画像は複数あるが、原本は残っていない
初公開 「芦鱸藻鯉図(ろろそうりず)」2幅 (伝)狩野元信筆 室町時代(16世紀)

室町時代は、日本の水墨画の全盛期だった。室町時代の最も有名な水墨画家といえば、雪舟が知られているが、同館のコレクションには、雪舟の自画像(模本)もある。また、狩野派の始祖である狩野正信やその子である狩野元信、元信の孫の狩野永徳の作品と狩野派の絵画も体系的に観ることができる(第4章 中世水墨画)。

「布袋・鶏図」3幅 松花堂昭乗筆 江戸時代(17世紀)

 

「幽霊・髑髏・仔犬白蔵主図(ゆうれい・どくろ・こいぬはくぞうすず)3幅 (伝)長澤蘆雪筆 江戸時代(18~19世紀)

江戸時代は、幕府や宮廷の依頼を担う画家、町絵師、文人画家、画僧、浮世絵師など様々な描き手が活躍した。第5章の近世絵画では、京都・石清水八幡宮の社僧で能書家の松花堂昭乗による「布袋・鶏図」や円山応挙の門人のひとりである長澤蘆雪ながさわろせつの「幽霊・髑髏・仔犬白蔵主図」などユーモラスな作品も。

「皐月雨図」 竹内栖鳳筆 明治時代(20世紀)

同館には、近代日本画の先駆者である京都画壇の大家・竹内栖鳳たけうちせいほうなど近代を代表する画家の作品も数多く収蔵されている(第6章 近代日本画)。

 「奈良の明治維新」、奈良の寺院の文化財を守る

国宝 「両部大経感得図」2幀 藤原宗弘筆 平安時代 保延2年(1136) もとは内山永久寺真言堂内陣東西の両界曼荼羅の裏面に障子絵として描かれていた作品

 数多くの文化財の国外流失を防いだ傳三郎は、仏都として廃仏毀釈の影響を大いに受けた奈良の寺社ゆかりの文化財も数多く蒐集し守っている。なかでも、奈良県天理市に実在した平安時代創建の古刹で、「西の日光」と呼ばれるほど大伽藍を誇った内山永久寺は、明治期に廃寺となり、貴重な文化財とともに跡形も無く消えてしまったことで知られている。その内山永久寺の寺宝も蒐集した傳三郎の文化財保存への功績は計り知れない。

初公開「小野小町坐像(卒塔婆小町)」安土桃山~江戸時代(16~17世紀)

 本展覧会作品のなかで藤田館長が一番印象に残ったと語る、初公開の「小野小町坐像(卒塔婆小町)」も内山永久寺に伝来した像だ。

 

傳三郎のまなざしの先

まるで展覧会の副題「傳三郎のまなざし」を表すように傳三郎像のまなざしの先に作品が展示されている

自身が心から愛する日本美術の流失を防ぎたいと人生を賭して尽力した傳三郎。一体、どのような「まなざし」でコレクションを見つめていたのだろうか?

藤田館長は、「彼が生きた幕末から明治は、今の私達には想像もできないくらい激動の時代です。そんな時代にこういった美術品を眺めることで心が安らぐとともに、少し未来への希望が溢れていたのかもしれません。美術品の流失を実際に目の当たりにし、いずれ社会が秩序を取り戻し、法律が整備された時に美術品があることが重要になるはずだと考えていました。ですので、まなざしの先にあったものは『希望』でしょうか。もの(美術品)がある100年先の自分達、日本のあるべき姿を見ていたのではと思います」と力を込め語ってくれた。

4月のリニューアルオープンで、傳三郎の志は、さらに次世代へと受け継がれていく。

同展覧会は、これからもきっと日本の美術品が大切に受け継がれていくであろう未来を私達に想像させてくれる。
(ライター・いずみゆか)

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