【レビュー】かつて魔法の杖を自作したことがある私が見た「ハリー・ポッターと魔法の歴史」展(東京ステーションギャラリー)

【右】『奇跡!!!過去、現在、未来 著名なマザー・シプトンによる不思議な予言と非凡な予測』 ロンドン、1797年 大英図書館蔵【左】ジム・ケイ《シビル・トレローニー教授の肖像》ブルームズベリー社蔵

12月18日より、東京ステーションギャラリーでスタートした「ハリー・ポッターと魔法の歴史」展。ハリー・ポッターシリーズの作者であるJ.K.ローリングの小説に見られる豊かで多彩な魔法の歴史に迫る、初の大規模展覧会です。
見どころなどはすでに記事が上がっているので、そちらをご覧いただくとして……。


大まじめに魔法を掘り下げる

展覧会のタイトルに「ハリー・ポッター」がついているため、「ハリー・ポッターに詳しくないと楽しめないかな?」と思う人もいるかもしれませんが、そんなことはありません。あなたが魔法に興味を持っているならば、もっと言えば魔方陣をノートに書いたり、こっそり呪文を詠唱したりしたことがある人ならば、間違いなくこの展覧会を楽しむことができるはずです。
というわけで今回は、魔法が大好きな人に向けて、ハリー・ポッター展の魅力をご紹介したいと思います。

私はかつて魔法の杖を自作したことがあるという黒い歴史を持っていますが、本展ではそういった行動を一切茶化さず、大真面目に掘り下げています。なぜなら多くの人がファンタジーだと思っている魔法の世界は、実際には現実と地続きであり、先達によって真剣に研究されてきた分野なのだという敬意の念が、この展覧会の屋台骨になっているからです。

大英図書館の企画

展覧会はハリーたちが通う「ホグワーツ魔法魔術学校」の履修科目と同じ内容で構成されています。
「魔法薬学」、「錬金術」、「闇の魔術に対する防衛術」、「魔法生物飼育学」──文字の並びを見ただけでテンションが上がりますが、その多くが「呪文を唱えて杖を振ると、キラキラしたものが出てきて何らかの力が働く」魔法ではなく、自然科学を応用するタイプの魔法です。
つまり現代における魔法のイメージよりも、ずっと現実的なことが魔法とされていたのです。
それもそのはず、本展で出品されている資料の多くは、イギリスの叡智を集めた大英図書館の所蔵品……というよりも、そもそも展覧会を企画したのが大英図書館なので、かなりアカデミックな内容となっています。

【右】『エチオピアの魔術書』1750年 大英図書館蔵 【左】「お守りの巻物と円筒状の保護容器」エチオピア、18世紀 大英図書館蔵

魔法に関する資料はヨーロッパのものばかりではありません。日本で江戸時代(1750年)に出版された植物図譜や、同じ年にエチオピアで作られた魔術書なども展示されています。

現存するボスキャッスル魔術・魔法博物館

所蔵品といえば気になったのが、「魔術・魔法博物館」という名前。会場では大英図書館、サイエンス・ミュージアム、ハリー・ポッターシリーズの出版社であるブルームズベリー社に加え、この博物館が所蔵先となっている展示物を多く見かけました。
調べたところ、イギリスにある「ボスキャッスル魔術・魔法博物館(Museum of Witchcraft and Magic)」は、小さな私立博物館であるものの、魔法道具に関する資料を多く抱えているそうです。このような企画がない限り同館のコレクションが日本にやってくることは稀でしょうから、そういった意味でも本展は大変貴重な機会と言えるでしょう。

【中央】ジム・ケイ《クィディッチをするハリー・ポッターとドラコ・マルフォイの習
作》ブルームズベリー社蔵 【中央上】「オルガ・ハントの箒」魔術・魔法博物館蔵

資料に基づいて生まれたハリポタの世界

もちろん展示内容は、ハリー・ポッターの作中の出来事にもリンクしています。キャプションを見ると、どのシーンにこの展示物が登場したかなどが詳しく書かれていますが、それだけハリー・ポッターの物語は、これらの資料に取材を重ねて作られていたことがわかります。

【中央】エドワード・チャールズ・バーンズ《錬金術師》イングランド、19世紀 ウェルカム・コレクション蔵

驚いたのがこちら。
シリーズ1作目の『ハリー・ポッターと賢者の石』に登場する、錬金術師のニコラス・フラメル。てっきり空想上の人物だと思っていましたが、なんと彼は実在したそうです。実際のフラメルは錬金術師ではなかったようですが、死後、彼は600歳を超える錬金術師として語られるようになったとか。
他にも解毒作用のある「ベゾアール石」など、フィクションだと思っていたものが、関連資料とともに続々と登場します。

賢者の石の作り方から身近な占いまで

ジェームズ・スタンディッシュ『リプリー・スクロール』イングランド、16世紀 大英図書館蔵

魔法に関する本気の展示は、まだまだ続きます。会場には錬金術の手順を記した巻物《リプリー・スクロール》も!
リプリーはヨークシャーにあるブリドリントン小修道院の修道士で、イタリアと現在のベルギーのルーヴェン大学で錬金術を学んだと伝えられる熟練の錬金術師です。
こちらは長大なために、全体を見たことがある人はほとんどいないという貴重な巻物。会場ではその広範囲が公開されていますので、ぜひその姿を目に焼き付けてください。

書物だけではなく、実在した魔女の箒、魔女たちが霊を召喚する際に破裂させてしまった大鍋、そして「地面から引き抜く際に断末魔の叫びをあげる」ことで有名なマンドレイクなども陳列されています。

【左】 「破裂した大鍋」20世紀 魔術・魔法博物館蔵 【右】 ウルリッヒ・モリト―ル『魔女と女予言者について』ケルン、1489年 大英図書館蔵

そのほか魔法使いではない我々にとって、身近な魔法である「占い」の展示も充実しています。
水晶玉やタロットカード、手相といったメジャーな占いに加え、ティーカップの中に残った茶葉の位置で運勢を占う「Tasseography(茶の葉占い)」も。茶葉占い専用ティーカップの中も必見です。ちなみにミュージアムショップでは、茶の葉占い用のキットが販売されています。

【右】アルマ・ブロードブリッジ《茶葉占い》1887年 ヨーク・アート・ギャラリー蔵【ケース内中央】パラゴン社製「運勢を告げるティーカップとソーサー」ストーク=オン=トレント、1932-39年頃 魔術・魔法博物館蔵。

東西人魚の競演

忘れてはならないのが絵画作品。
ハリー・ポッターのイメージボードや、ホグワーツ教授陣の肖像画はファンにとってたまらないコレクションです。

【右】ジム・ケイ《ミネルバ・マクゴナガル教授の肖像》ブルームズベリー社蔵【中央】ジム・ケイ《アルバス・パーシバル・ウルフリック・ブライアン・ダンブルドア教授の肖像》ブルームズベリー社蔵【左奥】ジム・ケイ《『ハリー・ポッターと賢者の石』の9と3/4番線の習作》ブルームズベリー社蔵

加えて、アート好きにも嬉しいジョン・ウィリアム・ウォーターハウスの作品が2点来日しています。ラファエル前派の画家としても知られるウォーターハウスは、運命的な魅力を持つ女性像を得意とし、神話や伝説に登場する人物を多く手掛けいています。
特に「魔法生物飼育学」の章では、ウォーターハウスの《人魚》の隣に瑞龍寺の《人魚のミイラ》が並ぶという、東西人魚の競演が実現。この風景が見られるのはハリー・ポッター展ならではかもしれません。

【左】 ジョン・ウィリアム・ウォーターハウス作《A Mermaid(人魚)》 1900年 ロイヤル・アカデミー・オブ・アーツ(ロンドン)蔵 【右奥】「人魚ミイラ」 日本 1682年寄贈? 瑞龍寺(通称・鉄眼寺)蔵

さて、本展には甲乙つけがたいほど興味深い作品や資料が並んでいますが、中でも「透明マント」は必見です。敢えて写真は載せませんので、ぜひご自身の目で確かめてみてください。

「9と4分の3番線」を探しに東京駅に

ハリー・ポッターファンはもちろん、魔法好きにとっても充実の展覧会。
会場を出る頃には、ファンタジーだと思っていた魔法は、実は自分の暮らしの中にも息づいているということに気づくはずです。破魔矢やお守りは、闇の魔術に対する防衛術ですし、おみくじは占い学。そう考えるとマグルだと思っていた我々も、もしかしたら魔法使いなのかもしれませんね。
東京駅の9と4分の3番線は、丸の内北口改札前にあります。東京ステーションギャラリーに出現したホグワーツ魔法魔術学校で、魔法の歴史に触れてみてください!
(ライター・虹)
虹さんのツイッターはこちら

「ハリー・ポッターと魔法の歴史」展
会場:東京ステーションギャラリー(JR東京駅 丸の内北口改札前)
会期:2021年12月18日(土)~2022年3月27日(日)
休館日:月曜日、2021年12月29日(水)~2022年1月1日(土・祝)、1月11日(火)※ただし、2022年1月10日(月・祝)、3月21日(月・祝)は開館
開館時間:10:00~18:00(金・土曜日は20:00まで)※入場は閉館の30分前まで
観覧料(日時指定予約制):一般2,500円、高校・大学生1,500円、小・中学生500円など
詳しくは公式サイト(https://historyofmagic.jp/)を参照

ハリー・ポッター展は図録も必読。特に冒頭のコラムは、主任キュレーターの魔法に対する熱い想いが伝わってきます。

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