【レビュー】「ザ・フィンランドデザイン」展 フィンランドの暮らしと自然への思いからうまれたプロダクトの数々 Bunkamuraザ・ミュージアム で1月30日まで

東京・渋谷のBunkamuraザ・ミュージアム で2022年1月30日(日)まで開催中の「ザ・フィンランドデザイン展―自然が宿るライフスタイル」。ヘルシンキ市立美術館(HAM)監修のもと、フィンランド各地のコレクションから選りすぐりの収蔵品が集結しました。アラビアの陶器やイッタラのガラス工芸、マリメッコやフィンレイソンのテキスタイルなど、日本でも人気のフィンランドデザインのプロダクトが並びます。

1917年の独立以来の<デザイン立国>

改めて驚かされるのが、私たちもよく知るフィンランドデザインの名作の多くが、1930年代から70年代とおよそ50年以上前に生まれ、今日まで長く愛されてきたものだということ。
例えば、アラビアの「パラティーシ」シリーズ。こちらはビルゲル・カイピアイネンが1968年にデザインしたもの。大きなパンジーの花や果実が目を引くデザインは、フィンランド語で「楽園」を意味する名前のとおりの華やかさです。

ビルゲル・カイピアイネン「パラティーシ」シリーズ 1969-74年、アラビア製陶所、ヘルシンキ市立博物館蔵

アイノ・アアルトが1932年にデザインしたという「ボルゲブリック」シリーズもどこか見覚えがありませんか。デザイナー名がそのまま冠された、イッタラの定番グラス「アイノ・アアルト」シリーズの原型となったものなんだそう。石を水に投げ入れた時に広がる波紋にインスパイアされて生まれたといいます。

アイノ・アアルト「ボルゲブリック」シリーズ 1932年、カルフラガラス製作所、コレクション・カッコネン蔵

このように時代を超えて愛されるフィンランドデザインの魅力は一体どこからきているのでしょうか。

フィンランドは1917年にロシアから独立して以来、デザイン立国を目指してきました。近代化を遂げていくなか、大量生産を前提にシンプルで機能的なデザインが求められていきます。

スタッキングが可能。コンパクトなキッチンでも対応できる。サーラ・ホペア「グラス1718」と「ピッチャー1618」 1954年、ヌータヤルヴィガラス製作所、フィンランド・デザイン・ミュージアム蔵

シンプルさと実用性を追求

そんなシンプルさと実用性を追求したフィンランドデザインの代表格が、カイ・フランクが手がけた「キルタ」シリーズのテーブルウェアです。シンプルなフォルムで他のプロダクトとも相性がよく、組み合わせ方も用途も自由。食器は揃いのものをセットで使うという既存の慣習から人々を解き放ちました。

カイ・フランク「BAキルタ」シリーズ 1952-1975年、アラビア製陶所、ヘルシンキ市立博物館蔵

使い手に寄り添った“やさしい設計”のものを各家庭に行き渡らせることで、人々の生活を豊かにしていきたいという思いがそこにはあります。まさにカイ・フランクが「フィンランドデザインの良心」と呼ばれる所以です。「キルタ」シリーズはイッタラの「ティーマ」シリーズへと受け継がれ、いまも不動の人気を誇っています。

自由な創作活動を支援

一方で、デザイナーたちの表現者としての自由な創作活動を支援する流れもありました。中でもアラビア製陶所は芸術部門を設け、ルート・ブリュックやビルゲル・カイピアイネンらフィンランドを代表する作家らの創作を支え、独創的なデザインが生まれていきます。フィンランドは、万博やトリエンナーレといった国際的な場でこうした個性的な作品を発表し、デザイン大国としての存在感を強めていきました。

(右)ルート・ブリュック「無題(老いた木)」1967年、ヘルシンキ市立美術館蔵(中)ルート・ブリュック「無題(青い雲)」1967年、ヘルシンキ市立美術館蔵(左)ルート・ブリュック「無題(ヘルシンキ市庁舎陶レリーフ「陽の当たる街」のための習作)1975年、ヘルシンキ市立美術館蔵
(右)ビルゲル・カイピアイネン「ビーズバード(シャクシギ)」1960年頃、アラビア製陶所、スコープ蔵(左)ビルゲル・カイピアイネン「ビーズバード(シャクシギ)」1960年代、アラビア製陶所、スコープ蔵

豊かな自然がインスピレーションの源

実用的なプロダクトにしろ、1点もののアート作品にしろ、色やフォルム、柄を見ると、フィンランドのデザイナーたちのインスピレーションの源には豊かな自然があることが見てとれます。

例えば、フィンランドの湖を連想させるアルヴァ・アアルトの有機的な曲線。

(右)アルヴァ・アアルト「サヴォイ」花瓶と木型、イッタラガラス製作所、コレクション・カッコネン蔵(左)アルヴァ・アアルト「サヴォイ」花瓶 1936年、カルフラガラス製作所、コレクション・カッコネン蔵
アルヴァ・アアルトによるデザインのチェア

タピオ・ヴィルッカラの「ウルティマ・トゥーレ(世界の果て)」のグラスは、まるで氷のグラスのように見えます。

右がタピオ・ヴィルッカラ「ウルティマ・トゥーレ(世界の果て)」グラス 1969年、イッタラガラス製作所、コレクション・カッコネン蔵。中央はナニー・スティル「氷山(プリズム)」1961年、リーヒマエンラシ社、コレクション・カッコネン蔵
(手前)ティモ・サルパネヴァ「フィンランディア」1964年、ヘルシンキ市立美術館蔵

また、長く厳しい冬が続くフィンランドだからこそ、暖かく色鮮やかな季節への憧れは大きいもの。そんな思いを形にした色とりどりのテキスタイルには、生命力を感じさせる太陽や花などの自然のモチーフは欠かせないものです。

フィンレイソン社とタンペッラ社のコーナー
マリメッコ社のコーナー

国をあげてデザインの発展に注力したことで、人々の暮らしの中に定着したフィンランドのデザインプロダクト。カラフルでチアフルなテキスタイルは家の中を彩るだけでなく、身にまとうことでも気分を上げてくれ、機能的かつ美しい食器は食卓を囲む時間を豊かなものにしてくれます。そんな小さな幸せの積み重ねが、この国の幸福度を底上げする土台になっているような気がしてなりません。

本展のナビゲーターを務めるデザイナーの皆川明さんが内覧会で残した言葉も印象的でした。
「展覧会を見たら、これらが4、50年前のデザインだとは感じられないだろうし、自分の暮らしの中にも取り入れたいという感覚にもなるのでは。そして、それが、いま私たちの社会が抱える環境問題を考えていくうえでも、ものを長く使ったり、ものを作り続けて大事にしたりするという概念にもつながっていくのではないかと思います」(皆川さん)

ミナ・ペルホネンのデザイナー、皆川明さん

<おうち時間>を楽しむヒントに

冬が長く寒さの厳しいフィンランドで生まれたプロダクトの数々には、おうち時間を楽しむヒントが詰まっています。「自宅に置くなら、これ!」と、そんなことを考えながら、会場を巡るのも楽しみの一つです。

お気に入りのデザインを見つけたら、ぜひミュージアムショップへ。展覧会グッズ定番のポストカードやクリアファイルはもちろん、手ぬぐいや布バッジなどバラエティ豊かなアイテムがずらりと並びます(アルテックのミニチュア家具のガチャガチャも!)。いきなり食器や家具などを買うのはハードルが高くても、日々の暮らしに小さな幸せをもたらしてくれるものがきっと見つかるはずです。

充実のグッズコーナー

(ライター・岩本恵美)

ザ・フィンランドデザイン展―自然が宿るライフスタイル
会場:Bunkamuraザ・ミュージアム(東京都渋谷区道玄坂2-24-1 B1F)
会期:2021年12月7日〜2022年1月30日
開館時間:10:00―18:00(入館は17:30まで)毎週金・土は21:00まで(入館は20:30まで)
休館日:1月1日
観覧料金
当日一般1,700円、大学・高校生1,000円、中学・小学生700円
※会期中の全ての土日祝、および最終週(1月24日~30日)は事前オンライン予約制
詳しくは公式サイト

【動画】内覧会で担当学芸員さんに見どころを聞きました。

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