【インタビュー】「ホンモノ」に直接触れてもらいたい――2022年1月に再開館する松岡美術館の松岡満喜子館長に聞く

撮影・青山謙太郎

ハイソな街、東京・白金台。プラチナ通りを歩いていると、ふと目に入る瀟洒な建物。2019年6月から休館中だった、この松岡美術館が2022年1月に再開館することが発表された。休館は何が目的だったのか。再開後、何を目指していくのか。松岡満喜子館長に美術館のこれからを聞いた。(聞き手は事業局専門委員 田中聡)

撮影・青山謙太郎

――2年8か月ぶりの再開館になります。その間に館長になられたわけですが、どういう経緯だったのでしょうか。また、どうして休館なさっていたのか。まずはその辺りからうかがいましょう。

松岡 私は休館中に館長になったので、詳しいことは副館長に説明していただきましょう。もともと松岡美術館は、父・松岡清次郎が収集した美術品を美術ファンの皆様に見ていただきたいと思って開館したものです。父の亡くなった後は妹が館を運営していたのですが、妹も亡くなってしまって……。私は父の残した事業を継いでいたのですが、こちらに来ることになりました。

松岡美術館は貿易商だった松岡清次郎氏(1894~1989)が収集した美術品を展示するために1975年、東京・新橋の松岡田村町ビル8階で開館。松岡氏の死後、2000年に松岡氏の私邸のあった現在地に移転した。所蔵品は東西新旧の美術品併せて約1800件。「私立美術館は美術品を蒐集した館の創立者の美に対する審美眼を、その一つひとつの美術品を通して、ご覧いただく方に訴えるべきところ」という清次郎氏の意志に基づき、開館以来、所蔵品のみの展示を行っている。

撮影・青山謙太郎

黒川裕子副館長 休館した一番の目的は、所蔵作品の調査ですね。開館して40数年経ちますが、所蔵品がどういうものか、詳細に調査をする時間がなかったんですよ。状態を調べて、修復するモノは修復して、それに約2年かかるということだったので。移転して20年ほど経って、空調や照明などもリニューアルしなければいけない時期に来ていましたので、併せてそちらの方も行うことにしました。

――松岡美術館には、「所蔵品のみで展示を行う」「館内の写真撮影、スケッチOK」といった「ならでは」の方針がありますが、それらに変更はないのでしょうか。

撮影・青山謙太郎

松岡 特別、何も変えるところはありません。「あるものをしっかり守っていく」のが、私たちの役目だと思っていますから。特に新しいものを購入する考えも、今あるものを売却する考えもありません。父は生前、「お前たちはボンクラだから、あまり色々なことに手を出すな」と言っていましたしね(笑)。「写真OK」「スケッチOK」は、海外の美術館では普通のことなんですが、国内ではあまりやられてこなかった。「それがイヤだった」と父が言っていたことを思い出します。だから、「ウチの美術館ではどうぞ」という感じです。いらっしゃった時に受け付けで申し出ていただければ。他の美術館でも、最近は「写真OK」が少しずつ増えてきているようですね。

――松岡清次郎という方は娘さんから見て、どういう方だったのでしょうか。

重要文化財 伝 周文《竹林閑居図》 室町時代(後期展示)

松岡 とにかく美術品が好きで、美しいものであれば東西問わず何でも好きでした。私たちは6人姉妹で私が3番目なんですが、海外の美術館にも連れて行ってもらったし、国内のオークション会場に一緒に行くこともありました。東京美術倶楽部でお金持ちの方が高価な美術品を購入されるのを見たりすると、「よし、おれもああいうものが買えるように頑張るぞ」なんて言って。仕事の張りにもなっていたようです。父は戦後、イミテーションダイヤの輸入をして、それを加工してネックレスなどの装飾品を作る会社に売っていたんです。外国人クラブなどでそういうものがよく売れたそうで、その事業があたって「助かった」とよく話していました。その後は色々な会社を経営していたんですが、父の死後事業を整理して、今は「松岡地所」と「松岡冷蔵」の2社にまとめています。

撮影・青山謙太郎

――所蔵品の中には、明代に作られた陶磁器の《青花龍唐草文天球瓶》のように、海外のオークションで手に入れられたものも多いですね。

《青花龍唐草文天球瓶》 明時代 永楽期 景徳鎮窯

松岡 そうですね。今でもクリスティーズとかサザビーズとかのカタログは来るんですが、もう考えられないほど、美術品が高くなって……。父は好きなモノを「見て、買う」主義でしたね。コレクションの約3割は陶磁ですが、古代ギリシャ・ローマの彫刻から現代の日本の画家の作品まで、とにかくコレクションの幅が広いのが特徴です。

――休館した時点では、コロナ禍はまだ始まっていませんでした。今後どうなるかの予測は難しいですが、再開館の時点では、コロナ禍は一段落しているようにも思えます。「アフター・コロナ」の美術館として、何か考えていることはありますか。例えば、「バーチャル美術館」を作ってみるというような。

撮影・青山謙太郎

松岡 休館はしていましたが、館のリニューアル作業や所蔵品の調査などに影響は出ましたので、まったくコロナ禍と無縁だったわけではありません。ただ、確かに館としての活動はしていませんので、再開館後、お客さまがどの程度来ていただけるのか、館として何をすればいいのか、未知数の部分が多いのも確かですね。休館前行っていたロビーコンサートなども出来るのか、様子を見てみないと分からない部分は多いです。ただ、「バーチャル美術館」的なことは現状では考えていません。「ホンモノに直に触れていただきたい」と私たちは思っていますから。時代に左右されないで、じっくり腰を落ち着けて、美術館運営に臨みたい、と今は考えています。

撮影・青山謙太郎
再開記念展 松岡コレクションの真髄
会場:松岡美術館
会期:2022年1月26日(水)~4月17日(日)※3月8日より展示作品の一部入れ替えあり
休館日:月曜休館、ただし月曜日が祝日の場合は開館し、翌日の平日が休館。年末年始は12月29日~1月4日が休館。
アクセス:東京都港区白金台、東京メトロ南北線、都営地下鉄三田線白金台駅から徒歩約7分、JR目黒駅から徒歩約15分
入館料:一般1200円、25歳以下500円、高校生以下無料 ※障害者手帳をお持ちの方無料
※その他最新情報は公式サイト(https://www.matsuoka-museum.jp/)を参照

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