【行ってきました】500種類もあるタロットカード。「美術品として楽しんで」――東京・浅草橋の「東京タロット美術館」

東京・浅草橋に2021年11月16日に開館した「東京タロット美術館」は、1974年にタロットカードの輸入を始めた「ニチユ―」が開設、約500種類のタロットカードを展示している。どうして美術館を開いたのか。今後、何を目指すのか。出来たての小さな美術館を訪ねてみた。(事業局専門委員 田中聡)

JR総武線の浅草橋駅のすぐ近く、かつての「柳橋」に「東京タロット美術館」はある。花柳界華やかりし頃は、東京でも有数の「芸者さんたちの街」だったところだが、今は閑静な住宅街。瀟洒な建物のエレベーターに乗って6階で下りる。そこの一室が、敷地面積約130平方㍍の小さな美術館だ。

展示されているカードは約500種類。タロットの解説書や神秘学の本が並ぶ書棚もあり、奥にはそれらをゆっくりと読むことができるフリースペースもある。静かで落ち着いた雰囲気の空間。都会の喧噪を忘れさせてくれる趣き。なぜ、こういう美術館を作ったのか。「タロットカードには二つの要素がある」というのは、美術館を運営するニチユ―の佐藤元泰代表取締役(51)だ。「占いなどで自己との対話を行うツールとしての役割はもちろん、様々な図柄のあるカードには、それだけで芸術性の高さがあると思っているんです」

ニチユ―がタロットカードの輸入を始めたのは、1974年。「法人では日本で初めてだった」と佐藤さんは話す。戦後すぐの1946年、トランプや花札などのカードを扱う会社として創業されたニチユーは、特にトランプの販売で有名。落語家の立川談志師匠もたびたび遊びに来て、高座で「トランプ屋」と親しみを込めて呼んでいたという。「(創業した)父は1年の3分の1ぐらい、トランプの仕入れで海外に出ていました」と佐藤さんは振り返る。渡航先でカード関係者と交流を深めていくうちに魅力を知り、収集を始めたのがタロットカード。佐藤さんが会社を引き継いだ2004年以降も収集は続き、現在では約3000種類のカードを所蔵するという。「カードを扱う会社としては、世界でも有数のコレクションではないでしょうか」と佐藤さんは話す。

美術館に展示してあるカードはその一部だ。現存する最古のタロットカードは15世紀、イタリアのヴィスコンティ家が製作したものだが、その復刻版=写真上=が額装されていたり、映画『007 死ぬのは奴らだ』の小道具として作られたタロット=写真下=があったり……。「私家版もありますから、何万ではきかないぐらいの種類があるでしょう」と佐藤さんがいうバリエーションに富んだタロットカードの世界。サルバドール・ダリが製作したカードや手塚治虫氏のキャラクターで作られたカードもあり、タロットカードの愛好者だけでなく、美術ファンにも十分楽しめる。

開館して約1か月で1500人ほどの来館者がある人気。小さな美術館なので、来館者には日時指定の予約をしてもらっているが、すでに満員になっている日も多いそうだ。「コロナ禍で人生の不条理を感じている人は多い。『おウチ時間』が増えたこともあって、占いなどを通じてタロットカードに関心を持つ人は増えているようです。ただ、タロットカードは様々な意味を内包しています。単に吉凶を占うだけでなく、その絵柄を読み解くことで、より深く自分を見つめたり、世界の在り方を考えたりするきっかけにしてほしいですね」。今後は、タロットカードの「図象学」の講演会や、文化人類学的なアプローチからのワークショップなどもやってみたいそうだ。

手塚治虫氏のキャラクターが描かれたタロットカード

【東京タロット美術館概要】

所在地:東京都台東区柳橋(JR総武線浅草橋駅東口から徒歩3分、都営地下鉄浅草線浅草橋駅A6出口から徒歩1分)

開館時間:平日=午前10時~午後7時、土曜日=午前9時~午後6時。ただし、日曜祝日は休館。入館料は500円(税込み)で、日時指定の予約制。

※その他詳しい情報は公式HP(https://www.tokyo-tarot-museum.art/)を参照

サルバドール・ダリによるタロットカード

(おわり)