【プレビュー】本当の清方に出会う 「没後50年 鏑木清方展」

鏑木清方  《雛市》 1901(明治34)年、公益財団法人 北野美術館、通期展示、ⒸNemoto Akio(以下すべて鏑木清方)

美人画家として「西の松園、東の清方」と並び称された鏑木清方だが、意外にも本人は「もとめられて画く場合いはゆる美人画が多いけれども、自分の興味を置くところは生活にある。それも中層以下の階級の生活に最も惹かれる」と言っている。
清方没後50年、美人画だけでなく、市井の人々の生活や人生の機微を描こうとした「ほんとうの清方芸術」を紹介する展覧会「没後50年 鏑木清方展」が3月18日から5月8日まで東京国立近代美術館で開催される。
回顧展では初公開となる多数の作品を含め、日本画作品約110点を展示する。
同展は一部展示作品と構成を年代順に替えて527日から7月10日まで京都国立近代美術館でも開催される。

今回の展覧会では作品を内容と形式から、明治時代の風俗描写が冴える「生活をえがく」、文豪の名作や歌舞伎を題材とした「物語をえがく」、清方の筆技が楽しめる「小さくえがく」の三つの章に分けて展示する。また20点を超す作品について、清方本人が制作記録に残した3段階の自己採点を紹介。そこから清方が大切にしたものも見えてくる。

「生活をえがく」

《鰯》 1937(昭和12)年頃、東京国立近代美術館、通期展示、ⒸNemoto Akio

明治20年代の秋の夕方、鰯を売りに来た少年を若妻が呼び止める光景。入口と台所、戸袋を合わせて二間半。台所の内側もすだれ越しに見え、季節も場所も生活も語る清方の絵の特徴がよく分かる。

《泉》1922(大正11)年、公益財団法人 二階堂美術館、通期展示、回顧展初公開、ⒸNemoto Akio
《雪粉々》 1937(昭和12)年、個人蔵、通期展示、回顧展初公開、ⒸNemoto Akio

「生活をえがく」の章の中には、「東京」の地名を冠した作品のコーナーを設け、《築地明石町》への道筋をたどる。

《築地明石町》 1927(昭和2)年、東京国立近代美術館、通期展示、ⒸNemoto Akio

近代美人画を代表する絵の一つ。1927年の第8回帝展で帝国美術院賞を受賞した。清方にとっては思い出深い明治30年代半ばの明石町の光景と合わせ、物思う表情で振り返る女性に明治回顧の心情を託している。時代もちょうど関東大震災と昭和改元を経て、明治ブームが起きていた。

《新富町》 1930(昭和5)年、東京国立近代美術館、通期展示、ⒸNemoto Akio
《浜町河岸》  1930(昭和5)年、東京国立近代美術館、通期展示、ⒸNemoto Akio

三部作をなす《新富町》と《浜町河岸》も清方の思い出の土地を舞台に、《築地明石町》の構想に寄せて制作された。《新富町》は新富芸者、《浜町河岸》は踊りの稽古帰りの町娘を描いている。「物語をえがく」戯作者だった父の影響もあり、清方は幼い頃から読書や芸能に親しんだ。泉鏡花や樋口一葉の小説、近松門左衛門や井原西鶴、三遊亭円朝の怪談話や歌舞伎。挿絵画家からスタートした清方の物語を表現する力は特別だった。歌舞伎に想を得た作品のコーナーも。

《一葉女史の墓》 1902(明治35)年、 鎌倉市鏑木清方記念美術館、3月18日~4月3日展示、ⒸNemoto Akio

泉鏡花の『一葉の墓』を読んでその墓を訪ねた時、清方は線香の煙の向こうに『たけくらべ』のヒロイン・美登利の幻を見たと言う。その体験に想を得て描かれた。

《道成寺(山づくし)鷺娘》 1920(大正9)年、福富太郎コレクション資料室、4月5日~5月8日展示、 絹本彩色・屏風(二曲一双)、ⒸNemoto Akio

有名な舞踊「京鹿子娘道成寺きょうかのこむすめどうじょうじ」と「鷺娘さぎむすめ」の一場面。清姫の化身である白拍子と鷺の化身の鷺娘が妄執にとらわれる姿を、片やしっとりと、片や激しく表現している。

《三遊亭円朝像》 重要文化財 1930(昭和5)年、 東京国立近代美術館、通期展示、ⒸNemoto Akio

明治の大噺家・三遊亭円朝が湯飲みを手に聴衆を眺めている。高座に上がった時の円朝のお決まりの姿だという。父の仕事の関係で幼少時から親しんでいた人物を、記憶と実物の小物を頼りに描いた。

「小さくえがく」

清方は大正時代後半に「卓上芸術」を提唱する。これは展覧会や床の間で見せる芸術とは異なる、卓上に広げて間近に鑑賞するような小さな画面の作品を指す。清方は画巻、画帖、色紙などに細部の表現を凝らして、即興的にかつ自在に筆を運んだ。

《朝夕安居(朝)》 1948(昭和23)年、 鎌倉市鏑木清方記念美術館、3月18日~4月3日展示 絹本彩色・画巻、42.2×124.0㎝、ⒸNemoto Akio

明治20年頃の東京下町の朝から夜までの様子を描く。江戸時代から変わらない暮らしに、新聞売りやランプ磨きをいった新しい風物も盛り込んでいる。清方は、この縦42センチの小さなサラサラとした描き振りの作品を、大作が並ぶ戦後の日展に出展した。 (読売新聞美術展ナビ編集班)

没後50年 鏑木清方展
会場:東京国立近代美術館(東京・竹橋)
会期:2022318()58()
休館日:月曜(321日、28日、52日は開館)322()
開館時間:午前9時30分~午後5時(金曜・土曜は午後8時まで開館)*入館は閉館の30分前まで
アクセス:東京メトロ東西線竹橋駅より徒歩3分
観覧料:一般1,800円 大学生1,200円 高校生700円 中学生以下無料
京都展 会場:京都国立近代美術館 会期:5月27日(金)~7月10日(日)
詳しくは公式サイト

あわせて読みたい