巨大なわら人形から正月のしめ飾りまで個性豊かな「藁の文化」福島県立博物館で12月19日まで

かつて日本の暮らしに根付いていた「わら」。福島県立博物館(会津若松市)で12月19日まで開催されている企画展「ふくしま 藁の文化 ~わらって、すげぇんだがら!!~」について、仙台在住の歴史研究家・菅野正道さんにレビュー記事を寄せてもらいました。

企画展「ふくしま 藁の文化 ~わらって、すげぇんだがら!!~」
会期:2021年10月9日(土)~12月19日(日)
会場:福島県立博物館(福島県会津若松市城東町)
開館時間:9:30-17:00(入館は16:30まで)
休館日:月曜日
観覧料:一般・大学生800円、高校生以下無料
詳しくは情報は館の公式サイト

人々の祈りが込められた藁

日本の農村風景と言えば何と言っても水田である。稲が植えられる水田は、多くの人が主食とする米を供給してくれる重要な存在だが、同時に稲の茎、すなわち藁もかつては生活に欠かせないものだった。草鞋わらじや藁靴、蓑、藁布団と言った日常的に身につけるものや寝具、むしろや縄、俵などの生活に欠かせない道具・容器の材料として、また農耕や運搬で働いてくれる馬や牛などの家畜のえさや寝床として。藁は長い間、日本の生活をさまざまな面で支え続けてきた。しかし第二次世界大戦後、産業や生活の各方面で技術革新が進み、藁は生活とは縁遠いものとなった。

一方で藁は、信仰や文化の面でも大きな役割を担っていた。藁でさまざまな造形がなされて、そこには人々の祈りが込められた。今では、一般的に見られるのは正月飾りくらいとなったが、それでも各地には信仰の中で藁が重要な役割を果たしている例が幾つも続いている。

福島県立博物館には、東北各県から新潟、関東に及ぶ、いわゆる「人形道祖神」資料が数多く所蔵されている。疫病や災難から逃れようとする人々の切なる願いが、藁で作られた人形に込められたのだ。

この企画展は福島県立博物館が所蔵する「東日本のわら人形コレクション」を核に、藁と密接にかかわった生活や信仰の様子を紹介するものである。

藁人形がお出迎え

展示室入り口で観覧者を迎える2体の人形、福島県西会津町の「百万遍」のお人形様

展示室に入ると、早速に藁で造られたほぼ等身大の人形2体が出迎えてくれる。「藁の文化」にアプローチしようとする観覧者の見張り役のようでもある。その後、等身大だけでなく大きいのもあれば小さいのも。ちょっとかわいい感じのものや、妖怪としか思えないような奇怪なものなど、さまざまな人形が会場いっぱいに並んでいる。

ほぼ共通しているのは、よくみると、五体がそろっているだけでなく、男根や女陰などの性器までもがリアルに表現されているものが結構な割合を占め、また弓矢や刀剣といった武器を携えているものもある。人形たちの多くは、人に近い姿をした神として造形され、村の境や集落の中に飾られて、災難や疫病などから人々を守る役割を期待されたのだ。

集落を守る巨人「ダイダラボッチ」

茨城県石岡市のオオニンギョウ「ダイダラボッチ」

なかには、日本各地にその伝説が残る巨人「ダイダラボッチ」も展示されている。茨城県石岡市で今でも伝統が続いているもので、毎年盆の頃に造られて、1年間集落の路傍で人々を見守っているのだそうだ。奈良時代に成立した「常陸国風土記」には巨人の記述があり、また茨城県内各地にも「ダイダラボッチ」の伝説があるという。ただ、石岡市の例のように、日常的に集落を護る神としての「ダイダラボッチ」は珍しいかもしれない。身体は大きく、槍のような武器を持っている。決して怖さは感じず、なにか心やさしい雰囲気を感じる守り神である。

 疫病をはらうために

まるで虫?!山形県最上町の「ヤンメ送り」で使われる藁人形(親人形)

一方、異形な代表例が、山形県最上町で行われている「ヤンメ(=病い)送り」の人形である。等身大で手足や男根があるが、胴体は幅広で、頭には4本の角のような突起が長く伸びており、まるで虫のようにも見える。これは明らかに「厄神」「厄病神」をかたどったものである。この等身大の「親人形」の他に、家ごとに小さな「小人形」を造り、かどぐちに飾られた。「親人形」は村中を回った後に川に流して厄を払ったのだという(現在は村はずれに捨てている)。

 医学が未発達だった時代、現在は感染症、かつては「疫病」と呼ばれた病いは、生死に直結する問題で、それは現在とは比較にならないものだった。疫病除けの神とされる牛頭天王ごずてんのうを祀った神社や、疱瘡ほうそう神の石碑、蘇民将来の護符が広く各地で見られるのは、それだけ疫病に対する人々の恐怖の念が大きかったことを示している。疫神をかたどった人形や身代りのものに厄を被らせて、川や海へ流したり、祭りの後に焼き払ったりする慣習が広範に見られるのも、そのためである。

秋田県横手市のショウキサマ(中央)とカシマ流しの舟(左)。ショウキサマは、展示されている藁人形では最も大きいもので、高さ4メートル以上になり、集落の川沿いの大木を背に立てられ、年に一度作り替えられる

今般のコロナ禍、さまざまな評価はされるが、現在の国内の感染者の急速な減少の理由は世界的に謎らしい。こうした古くからの疫病除けに関する信仰や「病送り」「厄流し」の伝統が、今も日本の文化や生活規律の根底に息づいていることを知ると、それも一因ではと、思わず想像してしまう。

展示室に集合した藁人形たち

これだけの藁の人形たちをよくも集めて展示したものと感心してしまう。一つ一つの人形たちに地域性やストーリーがあって、いくら見ても見あきない。しかし心配なのは、こんなにたくさんの人形たちが集まって、喧嘩が始まらないか…ということ。もしかしたら映画「ナイトミュージアム」のように藁人形たちが夜な夜な動きだしていないか、想像がふくらんでしまう。いろいろと想像がふくらむ展覧会だ。

正月のしめ飾りも各地で呼び名や個性が

福島県内各地の正月飾り

藁で造られた人形たちの次は、年中行事に重要な役割を果たした藁の紹介である。代表的なのは正月のしめ飾り。福島県といっても、会津、中通り、浜通りと地域によってしめ飾りの姿は多様である。

福島県会津地方の正月飾り「けんだい」(左と右下)

とくに興味を引いたのは会津地方の「けんだい」と呼ばれるしめ飾り。実は仙台周辺で伝統的に飾られていた門松に付けるしめ飾りも「けんだい」と呼ばれていた。形はまったく違うが同じ名称であることに、どういった歴史的背景があるのか、興味深い課題となった。

 さらに福島県各地で行われている祭礼に登場する藁の造形品が幾つも紹介されている。なかでも、福島を代表する夏祭り「わらじ祭り」(8月)と冬の「信夫三山暁まいり」(2月)に合わせて毎年作られる大わらじは、長さ12メートル、重さ2トンの日本一の大きさとされ、古代以来の霊場である信夫山の羽黒神社(福島市)に奉納されている。さすがに展示室には入りきらないので4分の1大のものが展示されているが、それでも驚きの大きさである。

藁で作られた様々な道具など

 最後のコーナーは、藁で造られた道具の数々。身につけるもの、職に関わるもの、住宅の中で使われたり、中には虫除けとして燃やされたりするもの…。かつての日本の生活が藁なしでは成り立たなかったことを知ることができる。

 いまも感染症に不安を抱いている人は多いだろう。しかし、現代の私たちだけでなく、先人たちもその恐怖を深刻に、そして身近に感じていたことを、この展覧会で再認識した。藁で造られた人形に人々が念じた救いの願いを、今はどう持ったらよいのか――。そんなことを感じながら、一方では、正月飾りで近づく新年を喜ぶ思いも間近に見て、来る年はよい年になるようにと願う気持ちをより強くした。
(歴史研究家・菅野正道)

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