【開幕レポート】塩田千春インスタレーション「いのちのかたち」 那覇文化芸術劇場なはーと こけら落としを祝い、首里城復興を願う

国際的に活躍する現代美術家、塩田千春さんが、那覇文化芸術劇場なはーとのこけら落としに制作したインスタレーション「いのちのかたち」が12月4日、開幕した。「なはーと」は那覇市中心部に10月31日にオープン。1594席の大劇場をはじめ小劇場、スタジオ、練習室などを備え、演劇や舞踊、音楽、美術、伝統芸能など沖縄の文化を内外に発信する中核施設のひとつとして期待されている。名称の「なはーと」は「那覇市」と「心(ハート)」「芸術(アート)」から。
塩田千春さんはベルリンを拠点に世界各地で展覧会などを開いている。「なはーと」から委嘱を受けた塩田さんはコロナ禍を縫って今年3月に那覇入りし、首里城などを見学して構想を固めた。インスタレーションは3つからなり、メインは小スタジオに設置された「いのちのかたち」。首里城の破損した瓦を塩田さん独特の赤い毛糸で結び、首里城復興への願いを込めた。高さ約6メートルで、破損した瓦を約1万個(約1400キロ)使用。毛糸の総使用量も長さ118キロに及ぶスケールの大きな制作物になった。作品は、人々の復興への願いを一つに集めたかのような力強さと、大切なシンボルを失った深い悲しみが交錯しているように見える。
ロビーには「希望のダンス」と名付けられたインスタレーション。「なはーと」や市役所、地元小学校などで「希望」をテーマにメッセージを集め、それを白い糸で結んだ。メッセージは約1000人から寄せられた。こちらも高さ6メートル、糸の総使用量も27キロと大きい。軽快なリズムにあふれ、明日への希望が空へと羽ばたいていくような爽やかな作品だ。メッセージを読むのも楽しい。
1階の展示室のインスタレーションは「小さな記憶をつなげて」というタイトルがついている。
首里城にゆかりのある人を中心に、捨てるに捨てられない思い出の品を寄せてもらい、それを糸でつないだ。「血の通っていないモノに、赤い糸で血を通わせるイメージ」(塩田さん)という。首里城焼失のあと、ショックで予定を書き込めなくなってしまった手帳や、焼け跡から出てきた私物の陶器など様々な品物が強い印象を残す。
インスタレーション「いのちのかたち」は2022年3月6日(日)までの展示。当初は2月20日(日)までの予定だったが、まん延防止等重点措置の実施に伴い、劇場に足を運べない人を考慮して延長した。観覧は無料(小スタジオの「いのちのかたち」のみ300円)。有料区域の展示時間は12時~20時(最終入館19時30分)。詳しくは「なはーと」(098-861-7810)へ。「なはーと」のホームぺージ(https://www.nahart.jp/)。
様々な関連イベントも
「なはーと」では塩田さんのインスタレーションに合わせて関連イベントを開催する。12月11日(土)14時からは、「琉球瓦の実像を探る~研究の現在と課題~」と題して那覇市立壺屋焼物博物館とのコラボレーション講演会を開く。同博物館の首里城復興を応援する企画展「うちなー赤瓦ものがたり」との協働企画。講師に城西大学経営学部准教授の石井龍太氏を迎え、沖縄の瓦文化について学ぶ。ロビーで。
1月22日(土)には「琉球筝曲と塩田千春インスタレーション 【糸】でつながる演奏会」を開催。筝の池間北斗さん、笛の入嵩西諭さんが出演し、新曲【糸連~Shiren~】などを披露する。『糸連』は糸でつながっているという意味があり、弦(糸)を張って演奏する筝の音と、塩田さんの作品空間がつながるというコンセプト。演奏会は午後4時からロビーで。
(読売新聞美術展ナビ編集班・岡部匡志、撮影:読売新聞西部本社・中島一尊)
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