舞台衣裳に新しい命を吹き込む 新国立劇場の「初台アート・ロフト」で『生命の木展』が開幕

バレエ「梵鐘の聲」の衣裳から(新国立劇場で)(写真は新国立劇場提供)

新国立劇場(東京・初台)のオープンスペースやギャラリーを会場とする「初台アート・ロフト」で、同劇場のオペラやバレエで使われた衣裳を新しい視点で展示する『生命の木展』が始まった。2022年3月中旬までの開催。入場無料。

3階のギャラリーを使った展示

「初台アート・ロフト」は2019年7月にスタート。劇場内の公開空地である1階のメインエントランスホールと2階、3階のギャラリーを利用し、衣裳、小道具、舞台装置の展示を行っている。同劇場では近年、オペラやバレエなどの舞台衣裳も文化的資産としてアーカイブ化し、美術品や文化財同様に「修復」「保存」「展示」のサイクルを確立すべくプロジェクトを進めている。「初台アート・ロフト」の展示もその一環として位置づけられている。

生きているものの神秘、をテーマに

今回の『生命の木展』では、舞台作品に現れた動物や植物、妖精、精霊たちにスポットをあてる。神話や寓話、おとぎ話などの中に現れ、人々を諭し、励まし、世界の神秘を語る存在だ。単に衣裳を展示するだけではなく、段ボールや布を使った顔を付けられ、植栽なども加えることで新たな文脈を与えられ、舞台で登場した時とは違ったキャラクターを感じさせる。

ワーグナーの『さまよえるオランダ人』のオランダ人が段ボールアートで登場
『夜叉が池』の蟹五郎(右)と『魔笛』に登場したサル
『ワルキューレ』のフリッカ。羊をイメージしている
こちらは水をイメージした展示。『さまよえるオランダ人』のオランダ人(右)と、『ナクソス島のアリアドネ』のナヤーデ、ドリアーデ
『夕鶴』のおつう。夜の照明のもと、透明感を増した鶴の羽が美しい

石岡瑛子展でも活躍、桜井久美さんがキュレーション

同展のキュレーションを務め、衣裳のアーカイブ化にも協力しているのは衣裳作家の桜井久美さん。桜井さんは武蔵野美術大学を卒業後に渡欧。パリのオペラ座やロンドンで研鑽を積み、帰国後は舞台を中心に幅広く活躍している。スーパー歌舞伎や長野オリンピックのセレモニー衣裳、紅白歌合戦の小林幸子さんの衣裳を担当したことで知られる。美術ファンには、あの「石岡瑛子展」の衣裳展示の監修を行った人、と言えばそのセンスの凄さが分かるだろう。

「蝶々夫人」の衣裳と桜井さん

桜井さんは舞台衣裳の保存について「フランスで約10年前に国立舞台衣裳博物館ができるなど、世界的に保全すべき、という流れになっています」と指摘。今回の展示は「アンリ・ルソーのジャングルの絵をイメージしました。自然がどんどん少なくなっている今、コンクリートで囲まれた劇場こそ、神話や寓話、民話などこの世界の原点を見つめ直すべき、というメッセージです」と語る。

「蝶々夫人」公演に合わせて歴史的衣裳も展示

『生命の木展』では、戦後の日本オペラ界をけん引したソプラノ歌手、長門美保(1911ー1994)が着用した『蝶々夫人』の衣裳も展示している。同劇場は12月、『蝶々夫人』の公演が行われている。

長門美保は1946年、『蝶々夫人』で自身の歌劇団の旗揚げ公演を行った。衣裳は白と橙色の2色あり、どちらにも鮮やかな蝶々の刺繍が施されている。会場では「蝶々夫人 戦後のオペラを牽引した3人の日本人ー長門美保 砂原美智子 青山圭男」「新国立劇場 歴代の蝶々夫人」のパネル展示も行われている。

『生命の木展』は現在、新型コロナ対策で展示スペース内の立ち入りが一部制限されている区域がある。同劇場情報センターの開室日に限り、同劇場5階の情報センター閲覧室で受け付ければ、ギャラリー全体を案内してくれる。事前に問合せするか、開室日に直接、情報センター閲覧室に申し込む。

同展に関するサイトはこちら。問い合わせは新国立劇場情報センター(03-5352-5716)。情報センターのカレンダーはこちらから。

(読売新聞美術展ナビ編集班 岡部匡志)

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