【インタビュー】絵画だけでなく、背景にある人生も知って欲しい――世田谷美術館の「グランマ・モーゼス」展の公式サポーターを務める結城アンナさんに聞く

撮影・青山謙太郎

東京・砧公園の世田谷美術館で1120日から2月27日まで開催されている「グランマ・モーゼス展」は、「絵を描くおばあさん」ことアンナ・メアリ-・ロバートソン・モーゼスの作品展。彼女の作品の魅力は何なのか。公式サポーターを務めるタレントの結城アンナさんに話を伺った。(聞き手は事業局専門委員・田中聡)

――「グランマ・モーゼス」ことアンナ・メアリー・ロバートソン・モーゼスは、アメリカの「国民的画家」といわれる人気画家です。今回、アンナさんはその作品展の公式サポーターを務めることになったわけですが、その就任の経緯を教えて下さい。

 結城 今回、この展覧会を企画した東映文化事業室が2018年に開催した「長くつ下のピッピの世界展〜リンドグレーンが描く北欧の暮らしと子どもたち〜」で、公式サポーターを務めさせていただいたんです。その縁で今回もお話を頂きました。

アンナ・メアリー・ロバートソン・“グランマ”・モーゼス 《シュガリング・オフ》1955年 個人蔵(ギャラリー・セント・エティエンヌ、ニューヨーク寄託)© 2021, Grandma Moses Properties Co., NY

――「グランマ・モーゼス」の作品は、公式サポーターに就任される以前もご存じだったんですか。

結城 誰の作品、という意識はなかったんですが、絵柄は目になじんでましたね。

私は10代のころ、インターナショナル・スクールに通っていたんですが、当時のインターナショナル・スクールって、アメリカ文化の影響が強かったんですよ。クリスマスになると友達同士カードを交換するし、アメリカから輸入したクッキーを食べたりする。その時、カードの絵になっていたりクッキーの缶にデザインされていたりしていたのが「グランマ・モーゼス」の絵だったんです。生前から、そういうマーチャンダイズに積極的な方だったんでしょう。「ああ、あの絵の方なのか」と思いました。

結城アンナさんは1955年、スウェーデン生まれ。1971年以降は日本で暮らし、10代のころからファッション誌、CMのモデルなどタレントとして活躍。夫は俳優の岩城滉一さんで、現在はインスタグラムなどでもライフスタイルを発信し、自身の描くイラストの世界観も注目されている。著書に『自分をいたわる暮らしごと』(主婦と生活社)など。

撮影・青山謙太郎

――「グランマ・モーゼス」の作品の魅力を教えていただけますか。

結城 彼女の絵を見ていると、「神様ありがとう」という気持ちになるんですね。アメリカの農村の風景をパノラマ的に描いた作品が多いんですが、そこに描かれている空の色、空気の感じ、自然の風景がとても素敵なんです。人間の力の及ばない、もっと大きな力を感じさせてくれて。そこには黒い雲もあったりして、自然は人間に優しいばかりではない、ということもちゃんと描いてある。でも、それが人生。人生っていいところもあれば、悪いところもあるのだから……。ただ、全体的に見ると、のどかで心が落ち着く、私たちの原風景みたいなものが描かれているんです。「人生って色々あるんだけど、トータルするとハッピーなんだなあ」。そんな気分になれるような、すてきな世界が描かれていると思っています。

アンナ・メアリー・ロバートソン・“グランマ”・モーゼス 《雷雨》1948年 個人蔵(ギャラリー・セント・エティエンヌ、ニューヨーク寄託)© 2021, Grandma Moses Properties Co., NY

――ご自分のこれまでの人生を振り返って見て、そういう感覚と共通するものっておありですか。

結城 そうですね。「グランマ・モーゼス」の世界は、年を取って色々な経験をした後の方が、より深く共感出来るかもしれません。「グランマ・モーゼス」の人生を知れば、もっとよく分かると思います。

アンナ・メアリー・ロバートソン・“グランマ”・モーゼス 《美しき世界》1948年 個人蔵(ギャラリー・セント・エティエンヌ、ニューヨーク寄託)© 2021, Grandma Moses Properties Co., NY

「グランマ・モーゼス」ことアンナ・メアリ-・ロバートソン・モーゼス(1860-1961)はアメリカのニューヨーク州東部で生まれ、人生の大半を農家の主婦として過ごした。70歳代で本格的に絵を描き始め、80歳の時に初の個展をニューヨークで開催。「アメリカの国民的画家」と言われるほどの人気を獲得し、101歳で亡くなるまで1,600点以上の作品を残した。

撮影・青山謙太郎

――「グランマ・モーゼス」の人生のどこに興味を持たれるのですか。

 結城 何と言っても、絵を描き始めたのが70歳を過ぎてから。成功を収めたのが80歳を過ぎてから、ということですね。健康で自分自身の人生をしっかりと生きていれば、年齢なんて関係ない。信念を持って進んでいけば、新しい道を切り開くことができる。彼女の人生は、現代のわたしたちにも勇気を与えてくれます。コロナ禍で、不安なことばかりが目立つ時代ですが、そういう時代だからこそ、「グランマ・モーゼス」の作品や人生にふれて、「人生って素晴らしいな」と思っていただければ、と思います。

庭で絵を描くグランマ・モーゼス 1946年 写真:Ifor Thomas(ギャラリー・セント・エティエンヌ、ニューヨーク寄託)© 2021, Grandma Moses Properties Co., NY

【開催概要】

展覧会名:生誕160年記念 グランマ・モーゼス展―素敵な100年人生」

会期:〜2022227()、月曜休館(ただし1月10日は開館し、11日休館)、1229日~1月3日は休館。

会場:世田谷美術館(東京都世田谷区砧公園、東急田園都市線用賀駅から徒歩17分)

観覧料:一般 1,600円、65歳以上1,300円、大高生800円、中小生500円(日時指定制)

※詳しくは、公式サイト(https://www.grandma-moses.jp/)で。

(読売新聞美術展ナビ編集班)