【インタビュー】「金魚の神秘」に魅せられて――東京の美術館では初めての本格的な展覧会を開く深堀隆介さん(その2)

撮影・青山謙太郎

第2回 「ボクは真ん中を行く」

上野の森美術館で、東京では初めての本格的な展覧会「金魚鉢、地球鉢。」を開く深堀隆介さん。何が「深堀ワールド」を生むに至ったのか。これからどういう存在であろうと思っているのか。インタビューの後半は、深堀さんのこれまでの歩みや今後について聞いた。(聞き手は事業局専門委員・田中聡)(*第1回はこちら

――深堀さんの著書「平成しんちう屋」(求龍堂)では、愛知県立芸術大学時代の体験が生き生きと語られています。今振り返って見ると、やはりその時代、出会った人々との影響が大きいのでしょうか。

深堀 そうですね。大学に入ってボク、陶芸家になろうと思ったんですよ。鯉江良二先生という人に出会いましてね。ボクはデザイン科で先生は陶芸科だったんですが、陶芸科に勝手に行って土をこねて焼いてもらって、「デザインよりもこっちの方が面白いな」とも思っていたんです。

――そもそも、デザイン科にはなぜ入ったんですか。

深堀 ボクが大学に入ったころはバブル期の終わり頃で、デザイナーなら絵も活かせるし、就職もすぐにできるな、と思ったんですよ。小学生の時から「友達の似顔絵を描く係はボク」みたいな感じで、絵を描くのは好きだったですからね。ところが、すぐにバブルが崩壊して先輩たちも就職できなくなって、暗い時代になったんですね。

撮影・青山謙太郎

――鯉江先生に出会って「陶芸家になりたい」と思ったということは、「和の美術」に興味があったということですか。

深堀 いや、特に「和」が好き、「洋」が好き、ということはなかったです。ただ、祖母が長崎でお茶の先生をやっていて、祖父も絵を描くのが好きだった。祖母の家の茶室に行くと、茶碗が一杯あるんですよ。「このボコボコした感じがいいな」とか思ったりして、何かの影響は受けているんでしょうね。

――鯉江先生と出会って、「モノを造る」ことの面白さを知ったわけですか。

深堀 まあ、そうですね。それと、大学の課題で「自己像を作れ」というのがありまして、そこで初めて褒められた、という体験もあったんです。大学の裏山に木を拾いに行って、集めた木に紙を貼ってガイコツみたいなのを作ったら、すごく面白くて。自分を表現する楽しさに気付いたんです。

――大学では、もう一人、影響を受けた先生がいらっしゃったそうですが。

深堀 まだ若い先生で、大泉和文先生という方がいらっしゃって、この方がスゴイ事をおっしゃるわけですよ。「アーティストは絵なんか描けなくていい」とかね。「いや、絵は描けた方がいいやろ」なんて思ったりして。最初は「何を言っているんだろう」という感じだったんですが、だんだん先生が言うことの意味が分かってきた。例えば、絵を見て「カワイイ」と思うじゃないですか。「なぜカワイイと思うのか」「なぜこういう作品を作るのか」とかを考えるべきだ、ということとか。現代アートの理論を教わりましたね。

鯉江良二氏は1938年愛知県生まれ、2020年没。伝統陶芸、現代アートという言葉にこだわらない幅広い活動で、国内外で高く評価された。大泉和文氏は1964年宮城県生まれ。インスタレーションなどの創作活動とともに、初期コンピュータ・アートへの論考でも知られている。

――鯉江先生を通して「モノ造り」の楽しさを知り、大泉先生からはアートの理論を学んだということでしょうか。深堀さんの作品にはどこか工芸的な雰囲気、和の職人の雰囲気がありますね。

深堀 確かにこの間は、アサヒビール大山崎山荘美術館(京都府)の「和巧絶佳展 令和時代の超工芸」で私の作品を紹介していただいて、そういう見方をされることがあるのも事実です。ただ、自分ではあまりそういう所にこだわりはないんです。

「方舟」 2009 年

――題材としての金魚はともかくとして、表現のスタイルに関してはあまりこだわりはないということですか。

深堀 何というか自分では「中間」とか「グレー」とかが好きなんです。出身も東京と大阪の中間の名古屋ですし。工芸になりきれず、とはいえ現代アートにもなりきれず、「和」であるようで「洋」でもあり、今の自分はそういう存在だと思うんです。今後もそのスタンスは変えず、ジャンルを超えて、いろいろな所と行き来できるようにしたい。ボクは「真ん中」を行ってみたいですね。

撮影・青山謙太郎

――個人的には、そういう所が「和」の「ポップカルチャー」的だとも思うんですよ。日本の文化は、海外から様々な物事を吸収して、融通無碍に変化していくのが特徴です。ただし、そこには一貫して変わらない「芯」みたいなものが存在している。深堀さんの作品を見ていても、そういう所を感じるんです。

深堀 大学を出てしばらくして、モネの絵を見て思ったことがあるんですよ。水面にくちゃくちゃっと睡蓮を描いた絵で。どうしても花の方に目が行くけど、モネが本当に描きたいのは水面じゃないのか。睡蓮は「そこに水面がある」ということを表す媒体ではないのか。見えているモノだけがすべてではない。存在の曖昧さがそこに表現されているような気がして。「ああ、アートというのは、これをやればいいんだ」とその時、一瞬で感じました。その素材として、ボクは「金魚」を見つけることができたのかな、とも思っています。

深堀さんのアトリエには生きている金魚もいる 撮影・青山謙太郎
深堀隆介展「金魚鉢、地球鉢」
会場:上野の森美術館
会期:2021年12月2日(木)〜2022年1月31日(月)
休館日:12月31日、1月1日休館
アクセス:東京都台東区上野公園 、JR上野駅公園口から徒歩約3分、東京メトロ日比谷線、銀座線上野駅、京成電鉄上野駅から徒歩5分
入館料:前売券(一般1400円、高校・大学生1100円、小・中学生600円)、数量限定深堀隆介描き下ろし 金魚飴付き前売券(一般2,200円、高校・大学生1,900円、小・中学生 1,400円)は12月1日まで発売、当日券は各200円増し。
※問い合わせはハローダイヤル(午前9時~午後8時、050-5541-8600)へ、最新情報は公式hp(https://www.kingyobachi-tokyo.jp/)で確認を。

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