【インタビュー】「金魚の神秘」に魅せられて――東京の美術館では初めての本格的な展覧会を開く深堀隆介さん(その1)

撮影・青山謙太郎

第1回 金魚に込めた想い

東京・上野公園の「上野の森美術館」で今年12月2日から来年1月31日まで開かれる深堀隆介展「金魚鉢、地球鉢。」。透明な樹脂にアクリル絵具で描かれた金魚たちは、二次元のような三次元のような、独特の不思議な存在感で漂っている。その深堀さんに創作のヒミツを2回に分けて聞くのが、今回のインタビュー。まず1回目は、「深堀ワールド」のキーワードとなる「樹脂」「アクリル絵具」そして「金魚」について聞いた。(聞き手は事業局専門委員・田中聡)

――今回の展覧会「金魚鉢、地球鉢。」は、東京の美術館では初めての本格的な展覧会ということですが、どのぐらいの作品を出品することになっているのでしょうか。

深堀 点数で言うと300点ぐらいですね。そのうち樹脂を使ったものは半分くらい。もちろんそれが中心にはなるんですが、ボクは平面絵画も描きますし、インスタレーションもやる。樹脂は表現の手段。「金魚」を表現する1つの手段なんですよ。

――逆に言うと、作品のモチーフは常に「金魚」だと言うことですね。そこまで金魚に執着するきっかけは何だったんでしょうか。

深堀 色々な所で書いたり話したりしているのですが、大学を卒業して制作活動を始めて5年くらいたって「ああ、もう美術なんてやめよう」って行き詰まった時があったんですよ。そんなある日、家で寝転がっていたら、水槽の中の金魚に目が止まったんです。7年前に夏祭りで掬ってきて、雑に飼ってきたんですけどね。ゾクゾクっとするほど美しくて妖しかった。それからですね、金魚を描くようになったのは。

撮影・青山謙太郎

――深堀さんご自身が、「金魚救い」とおっしゃっている体験ですね。

 深堀 金魚って、日本人にとって一番身近な魚じゃないですか。どこにでもいる。アロワナとかの熱帯魚みたいにものすごく派手な色をしているわけでもないし、自己主張が激しいわけでもない。だけど、デメキンにしても何にしても、実はいろいろと個性的なフォルムがあるし、何とも言えない存在感がある。「金魚救い」を体験した時は、「7年間も一緒に暮らしてきて、なんでこの魅力に気がつかなかったんだろう」と思いましたね。それから金魚に興味を持って、20年以上描き続けているわけですが、「金魚って何者?」に対しての答えは未だに見つかっていませんね。

「金魚之間」 2005年

深堀隆介さんは1973年、愛知県生まれ。愛知県立芸術大学美術学部デザイン・工芸専攻学科を卒業後、会社員として勤務しながらアーティスト活動を始めた。2007年、横浜市内にアトリエ「金魚養画場」を開設。国内にとどまらず、ニューヨーク、ロンドンなどでも個展を開催している。横浜美術大学客員教授、愛知県弥富市広報大使。

――「何者」かが分からないだけに、描き続けて面白いということもあるのでしょうか

深堀 「金魚救い」があった時って、ボク自身が「何を描いたらいいのか」、「何を目指すべきなのか」で悩んでいた時でした。自分の作品に存在感が欲しい。たとえて言えば、熱帯魚のような派手さこそが必要で「金魚なんて……」と思っていた。でも、「金魚救い」で気付かされたんですよ。みんな「熱帯魚」を追い続けるけど、「金魚」のような「普通の日常」の中にも魅惑的な世界はあると。それにもう一つ思った。ボク自身、「熱帯魚」じゃないだろうって。金魚を描くことは自分自身を描くことでもあるんです。

撮影・青山謙太郎

――なるほど、「金魚」という存在を媒体にして、いろいろと世界が広がっていったわけですね。そのころから、「樹脂」に「アクリル絵具」は使っていたのでしょうか。

深堀 いや、樹脂とアクリル絵具に出会ったのは、「金魚救い」より2年後ですね。最初は、普通に平面絵画を描いていたんですが、ある日、「透明樹脂を使って作品を作って見たらどうだろう」と思いついたんですね。大学を卒業して、しばらく会社勤めをしながら美術制作をしていたんですが、その時にFRPなどを扱っていたので樹脂についての知識はあったんです。透明樹脂でアクリル絵具で絵を描くというのは、誰もやっていないな、どこにもない作品ができるな、と思ったんですよ。

――最初から、今のように何層も重ねて描く手法だったんですか。

深堀 いや、最初は透明樹脂の上にプリントを置いて、その上に樹脂を流し込んで固めるという単純な形でした。ある日、直接透明樹脂に絵を描いて、さらに樹脂を流し込んだ上に絵を加えたらどんなことになるんだろう、と思って試してみたんです。そうしたら、何というか、水面が生まれたというか、立体感が出て、生命が通ってくるような感覚になったんです。

――透明樹脂に絵を描き、さらに樹脂を流し込んだ上に加筆していく。時間もかかるし、後戻りの利かない作業ですね。

深堀 そうですね。だからボクの作品は、作家本人でも後になって描き足す、直す、ということができない。……考えてみれば、「樹脂」に「アクリル絵具」という手法を他の人がやらなかったのにも理由はあるんですよね。「樹脂」は油で「アクリル絵具」は水ですから。相性が悪い。それで誰もが手を付けてなかったんでしょうね。

撮影・青山謙太郎

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深堀隆介展「金魚鉢、地球鉢」
会場:上野の森美術館
会期:2021年12月2日(木)〜2022年1月31日(月)
休館日:12月31日、1月1日休館
アクセス:東京都台東区上野公園 、JR上野駅公園口から徒歩約3分、東京メトロ日比谷線、銀座線上野駅、京成電鉄上野駅から徒歩5分
入館料:前売券(一般1400円、高校・大学生1100円、小・中学生600円)、数量限定深堀隆介描き下ろし 金魚飴付き前売券(一般2,200円、高校・大学生1,900円、小・中学生 1,400円)は12月1日まで発売、当日券は各200円増し。
※問い合わせはハローダイヤル(午前9時~午後8時、050-5541-8600)へ、最新情報は公式hp(https://www.kingyobachi-tokyo.jp/)で確認を。

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