“浮世絵美術館”の「これまで」と「これから」――太田記念美術館の日野原健司・主席学芸員に聞く(その2)コロナと美術館

第2回 「アフター・コロナ」の時代に向けて

東京・原宿の太田記念美術館は、浮世絵専門の私立美術館。私立だけに、昨年からの「コロナ禍」の影響は大きかったのではないだろうか。コロナ禍の影響はどの程度あったのか。それは美術館の運営に何をもたらし、今後にどのような影響を与えようとしているのか。日野原健司・主席学芸員へのインタビュー、2回目のテーマは「コロナと美術館」だ。(聞き手は事業局専門委員・田中聡)

――コロナ禍の影響はどの程度ありましたか。

日野原 そうですね。平成30年度は企画が好調だったこともあって、年間で12万人程度の入館者があったんです。令和元年度は、緊急事態宣言に伴う閉館が3月の一か月間だったので入館者は約8万人だったんですが、1年間フルに影響を受けた昨年度は年間3万人弱。今年度はそれより少しはましなのですが、それでも、年間4万人程度ぐらいになるんじゃないかと思います。

――好調期と比べて3分の1ですか。それは相当キツイですね。

日野原 ここ数年来館者数が右肩上がりで、特に30年度は良かったんです。まあ、毎年こんなに好調なこともないだろうから、年間8~10万人ペースが標準かな、と思っていたんですけどね。それが一気に減少したので、大打撃です。特に今年4月から5月にかけての休館は、ウチのような公益財団法人には都からの協力金はでませんでしたし、そもそも開館していいかどうかについて、国と都の見解が変わったことがあったものですから、何をどうすればいいか、判断がとても難しかった。いろいろと大変でしたね。

――とはいえ、現在(202111月)はコロナ禍も一段落したような雰囲気です。今後はまた好転するんじゃないんですか。

撮影・青山謙太郎

日野原 そこは楽観視できません。非常事態宣言の期間中、日本人はみんな、「不要不急の外出をしない」「人が密にならない」という生活をしていたわけじゃないですか。その感覚が、非常事態宣言が明けた今も、残っているような気がするんですよ。「人が集まる所に行くと、健康を害するおそれがある」というような。特に中高年層に、「休みの日に美術館に行こう」という意欲が薄れているような気がします。入館者の15%を占めていた外国人入館者の去就も不透明ですし、「アフター・コロナ」の美術館運営について、見通しは立てにくい状況です。

――コロナ禍で起きた様々な出来事が、入館者の皆さんの心を大きく変えている、ということですか。

日野原 ハード面も変わりつつあります。電子チケットの導入が進み、入館日時を指定する事前予約システムを多くの美術館が取り入れるようになってきました。大手の美術館や規模の大きい展覧会では対応もスムーズに行くのでしょうが、ウチのような私立の小さな美術館ではどうなのか。「電子化」に抵抗を示す中高年のお客さんもいらっしゃるわけですし、ふらっと気軽に入れる便利さが失われるのは残念です。その辺りをどうするべきかについては、今後も検討していかなければいけません。

――なるほど。ただ、美術館運営の方法が変わって来たことは、マイナス面ばかりではないですよね。例えば、ツイッターなどのSNSは以前よりも積極的に活用されるようになってきました。もともと太田記念美術館のツイッター運用には定評がありましたが、「#おうちで浮世絵」などの発信で、さらに注目を集めるようになりました。

日野原 これはまあ、「コロナ禍で仕方がなく」というよりも、「コロナがなければ思いつかなかった」ことかもしれませんね。2020年3月から休館を余儀なくされて、「何が当館から発信できるか」を考えざるを得なくなったというのが実情です。

――その前に、「#学芸員のお仕事」というハッシュタグで、いろいろな美術館と連動された経験も大きかったのでしょうね。河鍋暁斎の「暁斎画談 内篇」の「手足真図及ヒ画図」など、ここで話題になった絵も多いと聞きました。フォロワー数もかなり増えたようですね。

日野原「#おうちで浮世絵」を始めたのが2020年3月。それまで12万人弱ぐらいだったフォロワー数が、この一年半で約4万人増えました。この直前、順調に伸びていたツイッターのフォロワー数は頭打ちになっていた感じだったのですが、このハッシュタグを作ってからまたひと伸びありました。

歌川国貞 「十月ノ内 水無月 土用干」

――2020年8月からはSNSサービス・noteでの発信も始められましたね。2021年1月からはそのnoteのシステムを利用した「オンライン展覧会」も始められています。

日野原 noteには法人プランがあって、図書館や美術館などの文化施設に無料提供していただけるということだったので、始めてみました。各種SNSが発達した時代、ツイッター以外にも発信の場が欲しかったですし、コラム的なものを書く場所を探してもいたんですよ。じっくりと長文を読ませることができるnoteはちょうどいいプラットフォームですね。その延長線上で始めたのが「オンライン展覧会」です。

撮影・青山謙太郎

――「オンライン展覧会」については、3Dとか動画配信とかで、という考えはなかったのでしょうか。

日野原 3Dだと人手もかかりますし、技術的にも大変な面がある。そこまで資金と手間をかけるよりも、noteで詳しい解説を入れた方がお客さんの方も手軽に利用しやすいのではないか、と思ったんですよ。……実は以前から少し考えていたことがあったんです。ウチは小さな美術館ですから、年間入館者が10万人を超えると「混雑してゆっくり見られない」という状況が生まれるようになっていた。リモートで展覧会を見ていただく環境作りをしなければ、とは思っていました。「オンライン展覧会」を行うことは、ウェブ上にアーカイブを作ることでもありますから、そういうものを残しておくことは後々まで価値があると思いますしね。とはいえ、当館では人員的な限界もありますので、noteも「オンライン展覧会」もコロナ禍がなければ、わざわざ時間を割いて実行に移していたかどうかは分かりません。

――ツイッターもnoteも、コロナ禍が活用促進の役割を果たした。ある意味、皮肉ではあるけれど、時代の流れを感じますね。動画配信についてはいかがですか。

日野原 海外への発信のことも考えると、動画配信もこれから考えていかなければ、とは思っているのですが、まだどういう方法をとればいいか模索段階です。「オンライン展覧会」自体、平均すると1展覧会あたりの「入場者」が100人程度で、まだまだ軌道に乗っているとは言えませんから。とはいえ、「アフター・コロナ」の時代、入館料とグッズ収入以外にも、美術館としてのビジネスの幅を広げることを考えなければいけませんから、今後もデジタル・コンテンツに関しては様々な試行錯誤があるだろうと思っています。(第3回に続く)

撮影・青山謙太郎

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