【レビュー】見る者の感性を揺さぶる 開館55周年記念特別展「奥村土牛 -山﨑種二が愛した日本画の巨匠 第2弾-」 山種美術館(東京・広尾)で開催中

山種美術館開館の創立者・山﨑種二(1893-1983)が「私は将来性のあると確信する人の絵しか買わない」と本人に伝え、画業初期から約半世紀にわたり親交を重ねた奥村土牛(1889-1990)。土牛の101年に及ぶ生涯で制作した作品から、同館が所蔵する院展出品作全35点を含む、約60点を紹介している。展示は年齢順に「第1章 土牛芸術の礎」、「第2章 土牛のまなざし」、「第3章 百寿を超えて」、山﨑との交流を示す「特集 土牛と山﨑種二」からなる。「絵を通して伝わってくるのは作者の人間性」という土牛の言葉通り、見ごたえのある作品が並ぶ。作品ごとに見る側の感性を揺さぶり、さまざまな思いを湧き上がらせてくれる。
開館55周年記念特別展「奥村土牛 -山﨑種二が愛した日本画の巨匠 第2弾-」
山種美術館(東京・広尾)
会 期 11月13日(土)~2022年1月23日(日)
開館時間 午前10時~午後5時 (入館は閉館30分前まで) ※今後の状況により変更することも
休館日 月曜日=12月27日(月)、1月3日(月)、1月10日(月・祝)は開館、1月11日(火)
休館、12月29日~1月2日は年末年始休館
入館料 一般1300円ほか 中学生以下無料
JR恵比寿駅西口・地下鉄日比谷線恵比寿駅 2番出口より徒歩約10分
詳しくは同館ホームページへ
「第1章 土牛芸術の礎」

会場に入ってまず迎えてくれるのは《枇杷と少女》。たわわに実った枇杷の実と左下にたたずむ少女。少女は一見無表情に正面を向いているが、よく見ると視線がわずかに正面からずれている。かすかな含羞を感じるのだが、どうだろう。遅咲きの土牛は38歳で院展に初入選を果たす。この作品は41歳の時の制作で院展の同人に推挙される契機となった。


花でも鳥でも「しみじみとした愛と画心を覚えて、その気持ちでもって描いて行けば技巧の上で稚拙はあっても、いい味わいのものが出来る」と、土牛は書いている。《兎》はアンゴラ兎を飼っている人がいると聞いて写生したもの。《聖牛》は長野の善光寺にインドから贈られたと聞いて、1週間かけて写生した。動物の絵からは土牛の対象への愛情、それが大げさなら親しみといったものを感じ、見る者の心を和ませてくれる。
「第2章 土牛のまなざし」



第2章は土牛の60~70代の作品を紹介している。写生を重視した土牛は対象の「物質感、つまり気持ちを捉える事」が大切だと述べている。《城》は姫路城天守閣を仰ぎ見るという珍しい構図で、色面を積み重ねて城壁の形態や量感を現している。この頃から土牛は「開放されたような気持ちになって、自由にのびのび」という気分で制作にのぞみ、色面を重ね、モティーフの量感や奥行きを表す作品を制作している。《鳴門》も群青、白緑、胡粉を塗り重ねながら、透明感のある波の動きを描き出している。

《踊り子》のモデルは高名なバレリーナ。描くために何度も通って話をするうちに「人柄にますます親しみを感じ、楽しく仕事ができた」と回想している。《舞妓》は「人形のように可愛いと想像していた通り」の、ごく若い舞妓を2年かけて描いたという。洋と和という文化の違いはあるが、土牛の対象への親愛が溢れているようだ。この2枚を並べて展示したのも、見比べる面白さがある。
「第3章 百寿を超えて」


第3章は80歳以降の作品。土牛は80歳を超えても衰えない創作意欲を持ち続け、「芸術に完成はあり得ない。要はどこまで大きく未完成で終わるかだ」と書いている。《醍醐》は京都・醍醐寺三宝院のしだれ桜を描いたもの。この桜は樹齢約170年で、豊臣秀吉の醍醐の花見にちなみ「太閤しだれ桜」と呼ばれるが、土牛に描かれたことから「土牛の桜」とも呼ばれるようになった。この桜の組織培養によって育てられた苗木が、11月15日に山種美術館に植樹された。


《山なみ》は白寿(99歳)を記念して開催された展覧会のために制作したもの。山の描写に墨のにじみが効果的に用いられているが、土牛は制作中に「今までやったことのない新しい試みをしている」と語ったという。100歳を超えても制作を続けたというが、衰えを知らない探求心には驚くばかりだ。
次回展覧会
「開館55周年記念特別展 植村松園・松篁―美人画と花鳥画の世界―」
2022年2月5日(土)―4月17日(日)
(読売新聞事業局美術展ナビ編集班・秋山公哉)
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