【開幕レビュー】ハイブリッドな暁斎のヒミツをのぞきみる―― 「河鍋暁斎 -躍動する絵本」展 太田記念美術館

河鍋暁斎『暁斎百鬼画談』(前期)

「河鍋暁斎 -躍動する絵本」
会場:太田記念美術館
会期:2021年10月29日(金)~12月19日(日)
前期 10月29日(金)~11月23日(火)
後期 11月27日(土)~12月19日(日)
休館日:11月1、8、15、22、24~26、29日、12月6、13日は休館
アクセス:東京都渋谷区神宮前、JR山手線原宿駅から徒歩5分、東京メトロ千代田線・副都心線明治神宮前駅から徒歩3分
入館料:一般800円、高校生・大学生600円、中学生無料ほか
詳しくは公式サイト

河鍋暁斎はいろいろな意味で「ハイブリッド」な画家だと思う。

江戸のポップカルチャーのマエストロである歌川国芳と、これぞハイカルチャーという狩野派の双方に学んで、浮世絵と本画、双方の世界で数多くの作品を残した。観世音菩薩から処刑場での死刑の様子までありとあらゆるものを題材にし、ダイナミックで感情豊かな「動」の世界と伝統的で理知的な「静」の世界を描きわける。幅広いジャンルで密度の濃い仕事をしているのである。

河鍋暁斎『暁斎漫画』(後期)

なぜ、そんな事ができたのか。作画のヒミツはどこにあるのか――。
そういう疑問にヒントをくれるのが、この展覧会だ。

河鍋暁斎『暁斎画談 外篇』巻之上(後期)
河鍋暁斎『暁斎漫画』(後期)

展示されているのは、『暁斎漫画』『暁斎百鬼画談』などの「絵本」の数々。絵本といえば葛飾北斎の『北斎漫画』が有名で、画家自身が興味の向くままに画材を選び、自由に描いたスケッチを集めたもの、というイメージがある。まあ、暁斎の絵本も例外ではない。リラックスした雰囲気で「この人楽しんで描いているな」というような絵が、最初から最後までズラリと並ぶ。国芳譲りのネコにはいかにもモフモフだし、生涯描き続けたカエルは表情豊か。百鬼夜行で出てくる狐狸妖怪の類いにも、独特の愛嬌とユーモアがある。

河鍋暁斎『暁斎漫画』(前期)

あちらこちらに登場するガイコツ。其奴らにさせているいろんな格好を見ていると、暁斎が人間の動作を正確に解析し、それをデフォルメする技術に長けていることがよく分かる。実際、ガイコツではなく人間を描いている絵では、動いているときの体の動きがこうで、その時着衣はこんな風になっているという「舞台裏」をも見せてくれるし、デフォルメの具体的なやり方を示している絵もある。「暁斎が上手い」のは「常識」だけど、どこかどういう風に上手いのか、シロウトにも分かりやすく見せてくれるのである。

河鍋暁斎『暁斎百鬼画談』(後期)

題材で意外に多いのは、能狂言の演目関連だ。江戸のポップカルチャーの代表である歌舞伎よりもこちらを好んで描いているところを見ると、やはり暁斎は基本的にはハイカルチャーの世界の住人なのだろうか。そう思った後に絵本の数々を見直すと、そこかしこに狩野派のタッチが見える。ネコに囲まれた国芳も描いているから、子どものころとはいえ、最初の師匠の印象も強かったんだろうなあ。七福神の絵にいろんなバリエーションがあるから、ずっと「こんな構図はどうかな」と考えていたんだろうああ。絵の端々からは、生い立ちとか、趣味嗜好とかいうものも透けて見えるのだ。

河鍋暁斎『暁斎酔画』二編(前期)

暁斎といえば一昔前までは月岡芳年らと並ぶ「奇想の画家」のイメージで、例えばドクロの目の所をトカゲが歩いている絵だとか、土気色の顔をした幽霊の絵だとか、そういう作品の印象が強かった。その他の作品を見ても、ダイナミックな筆致、躍動的な構図、鮮やかな色彩といった派手な部分に目が行きがちだった……少なくとも筆者は。その派手さの裏にある技術の源や暁斎自身の人柄をそこはかとなく感じさせてくれるのが今回の展覧会。ちょっと地味かもしれないが、「わあ」「すごい」ではなく、「なるほど」「へえ」が似合う、小味な仕上がりなのである。               (事業局専門委員 田中聡)

河鍋暁斎『狂斎画譜』(後期)

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