【レビュー】さらに幅広い層に愛され もういちど「みみをすますように 酒井駒子」展 PLAY! MUSEUM(立川)で11月14日まで

「母の友」の原画から

展覧会名:もういちど「みみをすますように 酒井駒子」展

会期:2021年9月18日(土)~11月14日(日)会期中無休

開館時間:10:00~18:00(平日は17:00まで/入場は閉館の30分前まで

会場:PLAY!  MUSEUM(東京都立川市、JR立川駅北口・多摩モノレール立川北駅北口より徒歩約5分)

入場料:一般1500円、大学生1000円、高校生800円、中・小学生500円(同時開催の「ぐりとぐら しあわせの本」展の料金も含む)

詳しくは同館ウェブサイトへ。

親子連れを中心に幅広い層でにぎわう展示会場(PLAY! MUSEUMで)

異例の再展示、増えた「親子でアート」

今年4月から7月にかけて開催され、高く評価された酒井駒子展をほぼ同内容で展示しています。異例ともいえる再展示について、同ミュージアムは「緊急事態宣言による休館期間があり、広く鑑賞いただく機会が限られたため」と説明しています。前回の展示では40歳代から50歳代の女性ファンが来場者の中心でしたが、今回は家族連れも増えたといいます。夏休み中に同ミュージアムで開催されたミッフィー展でこの美術館の存在を知り、続けて来場する親子連れが目立つとか。取材に伺ったのは休み明けの月曜日でしたが、開場と同時にたくさんの親子が会場に入っていきました。3歳の娘と来場した地元、立川市内在住の母親は「やっとコロナ禍もちょっと一段落したので。お出かけに静かな美術館は安心です」と笑顔を見せました。

なお前回の展示(原画など250点)に加え、今回は雑誌の「母の友」(福音館書展)の表紙用に描かれた原画約20点が加わりました。2006年から2012年の間の作品。こちらも可愛い絵柄がそろい、来場者からとても人気が高いそうです。

「母の友」原画の展示コーナー
「母の友」原画(福音館書店、2008年12月号)

原画でこそ味わえる微妙なタッチ

「金曜日の砂糖ちゃん」「ぼく おかあさんのこと…」など、どこか憂いを帯びた美しい絵と、詩的な文章が響きあう独特の作風で高い人気を誇る絵本作家、酒井駒子さん。「ブラチスラバ世界絵本原画展」で金牌、オランダ「銀の石筆賞」を受賞するなど、国際的にも高く評価されています。黒色で下塗りした上に、少女や動物たちをひそやかに描く作家独自の手法は『ぼく おかあさんのこと…』(文溪堂)から定着しました。印刷では再現の難しい色彩や微妙なタッチ、少女や動物の繊細な表情を間近で見ることができます。木のぬくもりを生かした展示空間も一見の価値があります。空間デザインはフランスと京都を拠点に活動するユニット「2m26」。

6つのエリアで作品世界を堪能

展示構成は酒井作品を象徴する6つの言葉でエリアを分け、特製の額やケースに収められた原画と、物語や文章の断片をめぐり、散歩するように絵と言葉に出会っていきます。主な出展作品は以下のとおりです。

1.ある日

『金曜日の砂糖ちゃん』原画(偕成社、2003年)
『金曜日の砂糖ちゃん』原画(偕成社、2003年)

2.ひみつ

『ビロードのうさぎ』原画(ブロンズ新社、2007年)
『BとIとRとD』原画(白泉社、2009年)

3.こみち

『森のノート』原画(筑摩書房、2017年)

4.はらっぱ

『くまとやまねこ』原画(河出書房新社、2008年)

5.こども

『ぼく おかあさんのこと…』原画(文溪堂、2000年)
『ロンパーちゃんとふうせん』原画(⽩泉社、2003年)

6.くらやみ

『よるくま』原画(偕成社、1999年)
『よるくま』原画(偕成社、1999年)

オリジナルグッズも多彩

2回の展覧会、それぞれのポスター(B2サイズ)。cozfish(祖父江慎+藤井瑶)によるさすがのデザイン。ファンにはうれしいですね。各880円。

複製原画(ミストグラフ)。数量限定の受注生産、額入り(各66000円~99000円)。サイン、エディションナンバーつき。

バッグやオーナメントなど目移りするグッズがずらり。

行きかえりも楽しいミュージアム

同ミュージアムは立川駅北口に位置する新街区「GREEN SPRINGS」の中にあり、街中とは思えないほど緑豊か。親子連れも安心して遊べる空間に足を運んでみませんか。

<酒井駒子プロフィール>

1966年生まれ、絵本作家。絵本に『よるくま』『はんなちゃんがめをさましたら』(いずれも偕成社)『ロンパーちゃんとふうせん』(白泉社)など、画文集に『森のノート』(筑摩書房)。『きつねのかみさま』(ポプラ社)で日本絵本賞、『金曜日の砂糖ちゃん』(偕成社)でブラチスラバ世界絵本原画展金牌賞、『ぼく おかあさんのこと…』(文溪堂)でピチュー賞(フランス)・銀の石筆賞(オランダ)、『くまとやまねこ』(河出書房新社)で講談社出版文化賞絵本賞を受賞。『ゆきがやんだら』(学研プラス)はニューヨーク・タイムズの「2009年の子供の絵本最良の10冊」にも選ばれた。

(読売新聞美術展ナビ編集班 岡部匡志)