歴史を繋いでいく私たち 偉大な先達との出会いに感銘 特別展「最澄と天台宗のすべて」を鑑賞  4人の大学生が寄稿

真剣なまなざしで宝物を見つめる大学生たち(東京国立博物館で)

伝教大師1200年大遠忌を機に、最澄や日本文化の魅力を広く伝えようと、比叡山にゆかりのある様々な専門分野の方々が、宗教や教義にとらわれることなく集った「伝教大師最澄1200年魅力交流委員会」(委員長・鳥井信吾サントリーホールディングス㈱代表取締役副会長)では、未来の日本と世界を担う志を持った大学生を中心とする「大学コラボプロジェクト」を推進しています。東京国立博物館で開催中の「最澄と天台宗のすべて」展にも、同プロジェクトに参加している大学生たちが訪れ、それぞれが知見を深めました。「美術展ナビ」では、4人の方に感想を寄せてもらいました。いずれも本物に出会った深い感動を率直に伝えています。これから同展を鑑賞する方にも参考になる視点が豊富に含まれています。

繋いできた人たち、に思いを寄せ

■■■■■■■児玉 邦宏(東京大学公共政策大学院修士2年)

「一隅を照らし、歴史をつむぐ」

この度、伝教大師1200年大遠忌記念 特別展「最澄と天台宗のすべて」に参加させていただき、改めて、天台宗や最澄の教えが受け継がれてきた背景を深く感じることができました。

展覧会で展示されていた宝物や文化財のすべてが、1200年の歴史の中で、それぞれの時代をつなぎ、人々に教えを広める役割を果たしていたと思います。宝物や文化財が、普段所蔵されているお寺や美術館など各自の「持ち場」で歴史をつなぎ人々に教えを広めるという役割を担う中で、それらが国立博物館に集結することで生じる迫力を大いに感じました。

児玉 邦宏さん

展示されていた宝物や文化財は、普段所蔵されているお寺等の、「いつもの居場所」にいるからこその良さも多分にあると思います。同時に、この展覧会のような形で、それぞれが一堂に会し、天台宗や最澄の教えのこれまでの変遷を感じることができる機会はとても貴重であったと思います。それぞれの個の良さと、個が集まることにより有機的に形成される全体としての荘厳さ。その両者を感じることができました。

私たちにも歴史を紡ぐ責任

特に私が印象に残っております点は、円仁や円珍をはじめとして最澄の弟子たち以後、天台宗を広めてきた人々の、功績についての学びを深めることができた点です。

これまでに最澄に関する事柄を自身で調べたり、周りの方々から伺ったりということも何度かありました。しかしその中で、最澄自身のことを考える機会は多かったものの、天台宗や最澄の教えが現代までどのように伝えられてきたかという点にまで考えがあまり及んでおりませんでした。日本の天台宗の開祖となった最澄はもちろん、最澄の後に天台宗の教えを受け継いできた数多くの人々のお陰で、現代の私たちも天台宗や最澄の教えを学ぶことができているのだと実感しました。

現在参加させていただいている、「伝教大師最澄1200年魅力交流委員会・大学コラボプロジェクト」の活動を通じて、歴史上の偉人だけでなくそれぞれの時代を生きた様々な人たちによって歴史や文化が受け継がれてきたことや、一隅を照らし人々がそれぞれに努力することの大切さを、私は学びました。

今回の展覧会においても、最澄とその教えを受け継いできた人々、それぞれがいなければ現代の私たちは天台宗や最澄の教え等を知り、学ぶことはできなかったのだという思いを強く持ちました。

さらに、歴史をつなぐという点においても、一隅を照らすということの積み重ねがとても大きな役割を果たしているのではないかと思いました。様々な宝物や文化財が展示されている中で、時代や表現されている要素はそれぞれに異なると思いますが、そのどれもが一隅を照らし、各々の役割を持って歴史を伝えてきてくれているのだなと思いました。

そのような宝物や文化財が一堂に会することで、天台宗や最澄の教えが受け継がれてきた歴史を追体験することができる場所が今回の展覧会であったと思います。

博物館を後にする際、天台宗や最澄の教えにご縁をいただいた身として、自分も一隅を照らすことで社会に貢献し、歴史を紡いでいく人材になりたいとの思いを強く抱きました。

弟子たちの気迫、熱意に感服

■■■■■■■江原 健悟(立命館大学生命科学部4回生)

伝教大師1200年大遠忌を記念して開催されている特別展『最澄と天台宗のすべて』の内覧会を訪問しました。展覧会会場を巡っていると、伝教大師の人生や現在まで天台宗が辿ってきた1200年の歴史を追体験しているように感じ、1200年という長大な歴史の中に没入する感覚を覚えました。

1章「最澄と天台宗の始まり祖師ゆかりの名宝」では、伝教大師の肖像や自筆の書状などから伝教大師の生涯を振り返ることができます。国宝に指定されている天台法華宗年分縁起や尺牘(久隔帖)など伝教大師の自筆の書状を、およそ1200年後に生きる私たちが直接見ることができることに驚きを隠せませんでした。

江原 健悟さん

展覧会の第2章「教えのつらなり最澄の弟子たち」は、私が特に印象に残っている展示箇所の1つです。この章では、慈覚大師円仁や智証大師円珍をはじめとする伝教大師の弟子たちが伝教大師の精神をどのように受け継ぎ、どのように天台宗を発展させてきたのかが紹介されています。この箇所で最も印象深かった展示は、円仁入唐請来書目録という書物です。円仁入唐請来書目録は、慈覚大師の手により中国で集められ、後に比叡山にもたらされた経典類を、比叡山のお坊さんたちが目録にまとめ、その原本を嘉承3(1108)に写したものです。この目録の末尾には、目録に記された経典類をみだりに散逸させないないようにという慈覚大師の願いが写されています。この一文から伝教大師の教えを受け継ぎ、さらに天台の教えを発展させていこうとする慈覚大師の気迫や熱意を強く感じるとともに、慈覚大師の学びに対する姿勢に学生として強く惹かれる部分がありました。

無名の人たちが救った廃絶の危機

5章「教学の深まり天台思想が生んだ多様な文化」に出品されていた山門再興文書にも興味を惹かれました。元亀2年(1571年)に発生した比叡山焼き討ち(元亀の法難)によって比叡山は大きな打撃を受けたとされています。その後、比叡山を再興するために出された書状が今回展示されている山門再興文書です。比叡山延暦寺として境内が整備されてから今日までおよそ1200年間、比叡山はさまざまな戦乱に巻き込まれ、何度も廃絶の危機があったと聞いています。そのような危機に瀕するたびに比叡山をどうにか未来へ伝えようと尽力されたたくさんの方々がいたことをこの山門再興文書が示しているのだと感じました。

この展覧会を通して、文化財11点それぞれにそれらを守り伝えようとした名もなき人々の存在がいることを強く感じました。お寺や展覧会にて現在に生きる私たちが文化財に向き合うことは、過去に生きたそのような方々の声を聞くことだと思います。そのような声を聞き、歴史や文化を自分自身にとって少しでも身近なものにしていくことが、私たちがそれらを未来へ守り伝えるうえで重要なことの一つではないかと感じました。

「目で見て学ぶ」に大きな価値

■■■■■■■矢島 朋弥(京都大学文学部4回生)

「最澄と天台宗のすべて」の展示を見学させていただいて、最澄が伝えた教えがどう広がっていき、受け継がれていったのかを目で見て感じることができました。

奈良時代の最澄の得度や受戒に関する当時の文書をまとめたものである、国宝「伝教大師度縁案並僧綱牒」や最澄筆の「天台法華宗年分縁起」、「尺牘(久隔帖)」は、最澄が実在して活躍していた痕跡を示すもので、最澄を身近に感じることができる展示だと感じました。教科書に載っている最澄の姿として有名な国宝「聖徳太子及び天台高僧像」の中の最澄像は、現存最古の最澄の肖像画であり、実際の最澄がどのようなお姿だったのかと思いをはせることができました。

矢島 朋弥さん

智証大師円珍についても、実在した証拠を示す展示があり、円珍の死後、遺言によって造られた国宝智証大師坐像御骨大師は円珍の姿を現実に近い形で伝えるものです。円珍自筆とされる「福州温州台州求法目録」や「国清寺求法目録」は、最澄のあとを受けて唐に渡った円珍がどのような仏教知識を求め、それを日本に伝えようとしたのかを窺い知ることができる史料であって、円珍の思想も知ることのできる展示となっていました。

多様な視点、さらに深まった関心

目で見てわかるという点では、「各地に伝わる天台の至宝」と題した展示で、日本各地から天台宗の寺院の仏像が集めて展示されていたのが興味深かったです。東は福島県から西は岡山県まで、平安時代から鎌倉時代までを中心に仏像が集められて展示されており、天台宗の中心地である滋賀や京都の仏像と、他の地方の仏像を比べてみたり、時代によって出てくる技法や表現の差を見てみたりなど、多くの仏像が集まっているからこそ、いろいろな視点から楽しむことができる展示になっていると思います。

今回の特別展では、普段はみることのできないような秘仏の仏像や絵画を含め、貴重な文化財が多数出品されていて、それらを一度に目にすることができるまたとない機会となっています。様々な寺院から文化財が集められていますが、それぞれの寺院の長い歴史と、それを支えてきたたくさんの人々の思いや願いによって現代に伝わってきたものだと思います。今回は博物館の展示室で文化財をみましたが、それらを守り伝えてきた寺院に訪れて、学んで、どのような環境で、どのような思いで守られてきたかを感じることができれば、より文化財への理解が深まっていくのではないかと感じました。

偉大な先人との出会いに胸震え

■■■■■■■宮本 敦(立命館大学文学部4回生)

  輪王寺 慈眼大師天海座像の鋭い眼差しは、まさに激動の時代を生きた天海上人の魂がそのまま宿っているかのようで、胸が打ち震えました。思えば関西からこの上野という地にやってきて、そこでこの慈眼大師の像と対面しているというのは、非常に運命的なことです。

今回の「最澄と天台宗のすべて」は全国天台ゆかりの貴重な文化財が一堂に会し、最澄に始まり現代に伝わる天台宗の大きな流れに時代を追って触れることができるということですが、自分にとっては、元は寛永寺の寺領であったこの東京国立博物館にて、関東の天台宗の存在の大きさを直接実感することができたことは、本当に素晴らしいことでした。

宮本 敦さん

生まれたときから関西で神社仏閣に慣れ親しんでいた自分は、江戸東京の文化や歴史には疎く、特に慈眼大師の成した功績などは歴史の暗記程度にしかわかっていませんでした。しかしながら今回の展示を見て、最澄の灯した志を多くの僧が様々な形で伝承し、全国に脈々と続いていったことと合わせて考えると、江戸の地と慈眼大師の存在がいかに天台宗の根幹に関わる重要なものだったのか、ということを痛感しました。

鋼の意志と精神力を実感

最澄の志を継ぐというのは、一貫して教えを絶やさないということであって、慈眼大師にとってそれが東に比叡山をつくるということでありました。その意味を考えれば、現代の私たちでは到底想像できないような鋼の意思と精神力が必要だったに違いありません。

慈眼大師から思いをはせれば、他にとりあげられる多くの僧侶たちも、各時代各場所での「最澄」だったのです。この展覧会を通じて改めて最澄の影響力の強さに深い敬意を持ち、その延長としての今に立つ自分の存在について考えさせられました。

(おわり)
「大学コラボプロジェクト」の取り組みはホームページ(https://1200irori.jp/project)からご覧になれます。この中で、大学生の方々が「最澄と天台宗のすべて」展を鑑賞した模様は、動画も交えて詳しく紹介されています。(https://1200irori.jp/content/feature/detail/article09

(※)会期中、一部の作品は展示替えを行います。また、都合により展示作品および展示期間を変更する場合があります。詳細は展覧会公式サイトでご確認ください。

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