オペラ「蝶々夫人」初演時の衣裳に見るジャポニズムの深まり 新国立劇場でデザイン原画展

「蝶々夫人」第1幕に登場する蝶々さんのデザイン原画 1903年製作 水彩画 JUSSEAUME,(Lucien)THE ORIGINAL DESIGNS FOR THE OPERA 《MADAMA BUTTERFLY》 ON THE FIRST STAGE.Water-colored drawings by Lusien Jusseaume on 1903.

展覧会名:新国立劇場情報センター所蔵品展 オペラ『蝶々夫人』 初演時の衣裳・小道具デザイン原画展 ~百十余年の時を経て、蝶々さんとジャポネズリ~

会期:2021年10月21日(木)~12月26日(日)

会場:新国立劇場5階情報センター閲覧室(東京・初台、京王新線「初台駅」中央口直結)

開場時間:11:00~17:00

休室日:月・火曜日、特別休室日

入場無料、問合せは新国立劇場(03-5351-3011)

オペラ「蝶々夫人」(※1)を1904年にミラノ・スカラ座で初演するにあたり、作曲者のプッチーニ(※2)がデザイナーに描かせた衣裳と小道具の水彩画の原画、57点を展示している。当時のジャポニズムの深まりや、プッチーニの日本文化への傾倒ぶりを伺わせる貴重な資料だ。

主役の蝶々さんをはじめ、女中のスズキ、蝶々さんと結婚する米軍人ピンカートンら演者25人の衣裳デザインや衣裳の文様、髪形、舞台の小道具や所作などが細かく書かれている。描いたのはルシアン・ジャスウムという当時、随一の人気デザイナーといい、役柄をしっかり踏まえた人物造形が印象的だ。一流アーティストにデザイン画を依頼するほど、プッチーニが「蝶々夫人」の上演に注力した様子がうかがえる。

例えば蝶々さんのデザイン画には「クレープ織の生地でできたセイバン(=襦袢)、あるいは肌着には、青い線の柄が縦に細かく入っている」「刺繍が施された絹の着物」「幅広の帯、長さは3メートル」「金、蒔絵、緑の絹を用いた光沢のある刺繍入り」などと材質やサイズまで指示。「親指だけが分かれている平織りの布でできた白い靴下」と足袋の着用まで指定していた。

蝶々さんと密接に絡むスズキも「赤い縮緬のセイバン(=襦袢)」「仕事着のような柄の木綿の着物」「帯は細く、縮緬にくすんだ色の柄が入っている」「サンダル(この場合は下駄)は灰色」と詳細に指定している。

男性の衣裳もリアル。蝶々さんにピンカートンを紹介する結婚斡旋人のゴローは、「白い麻の襦袢」「絹の色柄ものの着物」「黒い絹製の首巻き」「着物の半分の丈の上着(羽織)」など。

小道具や髪形などもディテールにこだわって正確に描かれており、日本の家屋やインテリア、生活習慣などを詳しく取材していたことが分かる。

新国立劇場情報センターの細川かほりマネージャーは「この衣装や小道具の制作には、プッチーニと貞奴の出会いが影響している」という。

日本の開国前から浮世絵や陶器などを通じて欧州の日本趣味は広がっていた。1862年のロンドン万博、1867年と78年のパリ万博では、多くの日本の文物が広く紹介され、フランス美術などに大きな影響を与えた。着物や染織物も多くの人をとりこにした。

さらに拍車をかけたのが演劇。1900年のパリ万博で公演した川上音二郎一座の川上貞奴は、その美貌とともに巧みな着物の着こなしでヨーロッパの人たちの魅了した。万博後に欧州各地で公演した貞奴の舞台をプッチーニは見ており、細川マネージャーは「プッチーニは貞奴から日本女性の声域や声色を学ぶとともに、自殺する女性を演じた『芸者と武士』の舞台からも多くの材料を得たと考えられる」という。プッチーニは当時の在イタリア日本大使夫人からも日本のことを取材。日本の音楽の楽譜や風俗習慣まで調べて、「蝶々夫人」を完成させた。

情報センターでは展示に合わせて、「蝶々夫人」に関する書籍を、海外のものも含めて広く紹介しており、歴史的舞台の写真なども楽しめる

「蝶々夫人」の舞台資料は、欧州の異国趣味を示す言葉としての「ジャポネズリ」から、日本を正確に理解し、描こうと試みる本格的な「ジャポニズム」への移行をわかりやすくみせてくれる。「蝶々夫人」はその象徴的な作品といえるだろう。

新国立劇場では12月5、7、10、12日と「蝶々夫人」の公演がある。鑑賞の前にこちらに立ち寄ると、作品を一層深く理解できそうだ。

新国立劇場情報センターの同展紹介記事はこちらから↓(https://www.nntt.jac.go.jp/centre/news/detail/211026_021461.html

 

(読売新聞美術展ナビ編集班 岡部匡志)

(※1)「蝶々夫人」 世界各地のオペラハウスで上演される屈指の人気オペラ。長崎を舞台に、没落士族の娘である蝶々さんと、アメリカ海軍士官ピンカートンの恋愛とその悲しい結末を描いた。

(※2)ジャコモ・プッチーニ(1858~1924)イタリアを代表するオペラ作曲家。「ラ・ボエーム」「トスカ」「トゥーランドット」などの名作で知られる。

 

 

 

 

 

 

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