鳥の目で見た鉄道風景に驚きと感動 吉永陽―写真展「空鉄」 31日まで、ふげん社2階Papyrusギャラリーで

博多総合車両所(B737-800、N700S系ほか)

全国各地の鉄道を空撮しているプロカメラマン吉永陽一さん(44)の写真展「空鉄(そらてつ)」が、ふげん社2階のPapyrusギャラリー(東京都目黒区)で開かれています。山中のローカル列車、新幹線の真上を飛ぶ旅客機、姿を変える都会の駅――。会場に並ぶ新作23点はどれも見る者に驚きや感動を与えます。「どうやってこの瞬間をとらえたの」と撮影方法にも興味をそそられます。

展覧会名:吉永陽一写真展「空鉄」
会場:ふげん社2Papyrusギャラリー(東京都目黒区下目黒5-3-12、電話03-6264-3665)
会期:2021年1017日(日)~1031日(日)
休館日:毎週月曜日
開館時間:火~金曜正午~午後7時 土・日曜正午~午後6時
入場料:無料
詳しくは公式サイト
個展の会場。空撮の雰囲気を味わってもらおうと、一部の作品はテーブルの上に置いて展示している

「いつか空から鉄道を」

吉永さんは東京・渋谷生まれの渋谷育ち。大阪芸術大写真学科を卒業し、建築模型の製作会社に勤めましたが、15年ほど前、憧れの空撮を目指そうと、フリーランスの写真家に転身。「鉄道風景を誰もが見たことのない視点で描こう」と、カメラを手に小型飛行機やヘリコプターに乗り込み、大空を飛びまわるようになりました。

子どもの頃から鉄道と飛行機が大好き。雑誌の連載で鉄道空撮写真を見ているうちに「いつか自分も空から鉄道を撮ってみたい」という希望が芽生え、独立を機に夢を実現させたのです。

カメラを手に客車に乗り込んだ吉永陽一さん(写真は本人提供)

2011年の初個展から「空鉄(そらてつ)」のタイトルを用いています。あれから10年。節目にあたる今回の個展では今年上半期の優品をメインに並べました。

そのいくつかを吉永さんと一緒に見て回りましょう。

「こんな難所に」 鉄道マンに敬意

陸羽東線・鳴子温泉-中山平温泉(キハ110系「快速湯けむり」)

最初に紹介する作品はこれ。撮影場所は宮城県の山中、JR陸羽東線の鳴子温泉中山平温泉駅間の上空です。「快速湯けむり」の先頭がトンネルを抜け出た瞬間を撮りました。深い森の木の巣穴からリスがひょいと顔を出したようにも見えます。

屋根、道路、飛行機がX交差

東海道山陽新幹線・新大阪駅(B737-800、N770系)

続いては新大阪駅上空で撮った写真です。新幹線のホームを覆う屋根の上に、伊丹空港へ向かうジェット旅客機がさしかかったところです。道路と新幹線、旅客機がX字に重なりあう絵になりました。

両手に飛行機の模型を持ち、空撮の方法を説明する吉永さん。「撮影のない普段の日は中性的なかっこうで過ごしています」と話す(換気と距離に注意し、数秒間だけマスクを外して撮影)

時刻表、地図とにらめっこ

どちらも偶然撮れたものではありません。「空鉄」は綿密な事前調査や必要な手続きを踏んで初めて可能なのです。

流れをごく簡単に説明します。まず飛び立つ空港と撮影ポイントを決め、航空図や地図、列車の時刻表を見ながら、「どこをどういうルートで飛び、どんな場面を撮るか。機体はどの高さでどちらの方角を向かせるか」など、詳細なプランを練ります。チャーターする小型飛行機やヘリの飛行可能時間も加味しなければなりませんし、旅客機を上空から撮る場合は航空管制官の許可も必要です。

天気にやきもき 2日前に決断

撮影日が近づくと天気予報とにらめっこです。決行するかしないかの最終判断はだいたい2日前(当日直前の時もある)。雨が確実なら迷わず中止にします。「どんなに準備してもすべて天気次第。でも、まあこればかりは」と吉永さんは苦笑いしました。

狭い小型飛行機の座席から空撮中の吉永さん(左)。「パイロットと息も合わないといい写真は撮れません」とも(写真は吉永さん提供)

撮るか逃すか 操縦士との息が肝心

いい撮影のための条件は他にもあります。小型飛行機で飛ぶ場合、後部座席の窓を外し、そこからレンズを眼下の被写体に向けます。自分自身やカメラなど所持品が落下する危険があるので、窓の外に身を乗り出しての撮影はできません。

代わりにシャッターチャンスの瞬間だけ、パイロットに機体を横に倒してもらいます。こうすれば機内から下界が撮れるわけです。吉永さんとパイロットの息があわず、横倒しのタイミングがちょっとでもズレたら、「湯けむり号」の先頭も新大阪駅上空の旅客機も捉えられなかったのです。

博多総合車両所(B737-800、N700S系ほか)

「北風ならこの下を飛ぶ」

そうして生まれた傑作がこれ。JR西日本の新幹線博多総合車両所の上空で撮りました。目的地の福岡空港へと機首を曲げる旅客機を間に挟むことに成功しました。吉永さんは「北風の場合、福岡空港行きの旅客機は福岡市中心部の上空を南下した後、車両所付近の空でUターンし、着陸態勢に入る」と事前調査でつかんでいまいた。

撮影当日は願ってもない天気、そして北風が吹きました。小型飛行機に乗り込み、約1500㍍上空で待っていると、真下に旅客機がやってきてターンを開始しました。「今だ」。吉永さんは横倒しの機体からたった1回シャッターを切りました。

動と静のコントラスト

車両所では働き者の新幹線たちがつかの間の休息を取っています。出入する列車ものんびりしています。ここは彼らに静かな時間を与えてくれる場所です。

一方、旅客機の方は「もうひと踏ん張り」とばかり、機体を左に傾けターンに入りました。車両所とは逆に緊張の時間到来ですが、旅客機のこの姿勢が写真に動感を与え、「静と動」というコントラストを生み出しました。

「きれいな整列、美しい線路」

吉永さんは「互いにスピードを追求するライバル、いや兄弟でしょうか。その両者を一つの画面に収めたい、しかも旅客機に『動いている感』を持たせたいというのが撮影の動機と狙いでした。新幹線のきれいな整列ぶりや線路が織りなす美しさも表現できました。すべてが狙い通りに行きました」と説明してくれました。

コロナの年 五輪の年

写真は歴史の証言者でもあります。2021年はコロナ禍と東京五輪の年。次の1枚も後世にこの年の世相を伝えてくれそうです。

総武線・千駄ヶ谷駅(国立競技場、E231系-500番台)

国立競技場です。東京五輪の開幕2日前に撮影しました。場内も場外も人がまばらです。もちろんコロナのせいです。

総武線・千駄ヶ谷駅(中央線用E233系)

次の写真は競技場最寄りのJR千駄ヶ谷駅の上空から満開の桜を撮ったものです。やはり見物の人を見つけるのは困難です。電車が来ましたが、乗っている人は少ないでしょう。

吉永さんも「賑わいの中にあるはずの東京が一切の活動を止めてしまいました。呼吸をしていない東京です」と、ため息まじりに今年上半期を振り返りました。

緑と暮らしに溶け込む風景

気分転換のため、東北に舞い戻りましょう。

弘南鉄道弘南線・尾上高校前駅

水田の間を2両編成の電車が走っています。青森県の弘南鉄道弘南線です。手前の駅は尾上高校前駅。初夏の匂いがします。なんだか、緑の糸(あぜ)で縫い合わせた青いパッチワーク(水田)の洋服の左右をジッパー(電車と線路)で締めているみたいです。

田沢湖線(秋田新幹線)春木場ー赤渕(E6系)

続いては秋田県のJR田沢湖線(秋田新幹線)春木場—赤渕間上空から。川もカーブなら線路もカーブ。「こまち」も川の流れにあわせてゆっくり走っていることでしょう。それにしても雲の上とはずいぶん高いところを飛んでいるみたいですが、吉永さんは怖くないのでしょうか。

奥羽本線(山形新幹線)・村山-袖崎(E3系「とれいゆつばさ」)

山形県に飛び、奥羽本線(山形新幹線)村山-袖崎駅上空に差し掛かりました。田んぼの真ん中を突っ切る「とれいゆつばさ」の巻き起こす風が左右の稲穂を揺らします。列車と線路右側のあぜ、少し離れたところで作業中のコンバインがきっちり平行に走っています。

福島臨海鉄道・小名浜駅

東北の旅の締めくくりは福島県。福島臨海鉄道小名浜駅上空で夕暮れの風景に出くわしました。赤いコンテナがつくる長短さまざまな影を吉永さんは「棒グラフ」にたとえました。摩天楼の超高層ビル群のシルエットにも見えませんか。

変貌する渋谷 変わらぬ鉄道

吉永さんのふる里は渋谷です。今も渋谷に暮らしています。その渋谷は近年、渋谷駅を中心にした再開発事業で大変身を遂げました。最後に工事の様子と新たな街の顔を紹介します。

各線・渋谷駅(E235系)

上の写真は工事中の渋谷駅、下は渋谷の新しいランドマーク「渋谷スクランブルスクエア」です。

渋谷駅・渋谷スクランブルスクエア(E235系)

消える想い出 新たな王者の出現

工事中の駅と周辺では容赦なくどんどんと建物が壊されています。そこに詰まった人々の想い出なんて一切考慮してくれません。ホームの上に重機が乗かり、山手線の電車が居心地悪そうに停車している光景は痛々しさすら覚えます。これも「生みの苦しみ」というやつでしょうか。

スクランブルスクエアの屋上もコロナで人がまばらです。既存のビルがずいぶん低く見えます。そのせいか、スクランブルスクエアというビル自体が渋谷の新たな支配者宣言をしているみたいに感じてしまいます。

電車はここでも肩身を狭くしながら、いつもと同じように健気に走っています。

愛する鉄道と街 「空から撮り続ける」

かつて吉永さんがよく行ったビルも開発の波に飲み込まれ、次々に姿を消しました。「懐かしいものが無くなる寂しさはあります。でも都会は時代と人に合わせて姿を変えていくのが宿命。私は『空鉄』をライフワークにした以上、これからも愛する鉄道と街を鳥になって撮影し続けていこうと思っています」

吉永さんは自分史の一部でもある個展会場の写真を見渡しながら、こう決意を語ってくれました。(ライター・遠藤雅也)

※掲載している吉永さんの作品には盗用防止のため吉永さんのサインが入っています。

 

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