【開幕レビュー】「棟方志功と東北の民藝」日本民藝館で11月23日まで 東北が育んだ豊かな創造性

棟方志功「不来方板画柵」

「棟方志功と東北の民藝」が日本民藝館(東京都目黒区)で10月1日から11月23日まで開かれています。
青森出身の版画家、棟方志功(1903〜1975年)が東北や故郷への思いを込めた作品とともに東北の多彩な民藝の品々が並ぶ本展。東日本大震災から10年の時を経て、棟方作品を通して東北への復興と鎮魂の祈りを捧げるとともに、東北が育んできた民藝の豊かな創造性を紹介しています。

120枚の板木を使った圧巻の大作

圧巻なのは、同館で10年ぶりの展示となる棟方の大作「東北経鬼門譜」(1937年)。戦前の版画作品の中でも最大級の一作で、10メートル近い六曲一双の屏風は120枚もの板木を使って制作されています。

棟方志功「東北経鬼門譜」
棟方志功「東北経鬼門譜」

間近で見ると、何枚もの紙が合わさって一つの作品になっていることがよく分かるので必見です。

「東北経鬼門譜」(部分)

屏風の中心にいるのは、身を二つに割った鬼門仏(阿弥陀如来)。その左右には菩薩、羅漢、行者、人間、水子が並び、鬼門仏によって極楽浄土へと導かれていく様が描かれています。
日本の「鬼門(邪気が出入りする方角)」にあたる東北に降りかかる禍いの数々が、身を割った仏の間を通すことで鎮まるようにという、棟方の東北への祈りが込められた作品です。

「東北経鬼門譜」(部分)

棟方は、故郷・青森について次のような言葉を残しています。

「東北も一番はじの、冬が長くて夏が短い、苦難の多い土地に育ちました。そこでは、百姓は苦労して仕事をしてもわずかの収穫しか得られず、夏あたりから寒い風が吹いて、いつも凶作ばかり、豊作という言葉は聞いたことのない土地に生まれました。易のほうでも東北をさして鬼門と言います。その土地に生をうけた、ということは何という宿命であったか。こういう宿命は自分ひとりのものでなく、土地のうけた宿命です」(『板画の道』より)

寒く長い冬が続き、豊穣な土地とは言い難い、厳しい自然環境におかれた土地の宿命と向き合い、創作を続けた棟方。仏の力でその悲しみを解き、東北の地に幸せをもたらしたいという強い思いが本作の画面からも感じられます。

影絵のようなコントラスト

すぐ近くには、能の演目「善知鳥」を題材にした「善知鳥うとう版画巻」(1938年)も。

棟方志功「善知鳥版画巻 上巻」

棟方は幽玄な能の舞を見て駆り立てられるように寝食も忘れて制作したそうです。善知鳥という海鳥の親子の愛情と別れの悲しみ、生業とはいえ善知鳥を殺す立場にあった猟師の死後の苦しみを深く描き出した作品になっています。白と黒のみで影絵のようにコントラストを際立たせているのが印象的です。

棟方志功「善知鳥版画巻 下巻」

棟方の生家のほど近くには善知鳥神社があり、幼少期にはよく境内で遊び、ここで結婚式も挙げたとのこと。善知鳥は棟方にとって故郷を思い起こさせるものであり、きっと故郷への思いを抱きながら板を彫り進めていったのではないでしょうか。

宮沢賢治「雨ニモ負ケズ」もテーマに

この他にも、宮沢賢治の詩「雨ニモ負ケズ」をテーマにした「不来方こずかた板画柵」(1952年)や親交のあった草野心平の詩を板画にした「雪しんしんの柵」(1958年)など、「東北」を彷彿とさせる作品が、日本民藝館初代館長の柳宗悦やなぎむねよしらが蒐集した民藝の品々とともに並んでいます。

棟方志功「不来方板画柵」

美が細部に宿る東北の民藝

厚くぽってりとかかった釉薬や丸みのある造形に温かみが感じられる民窯の器たち、丁寧に編み込んで作られた蓑や背中当、籠などの編組品、東北の人々のおしゃれ心が感じられるこぎん刺しや菱刺し等の染織品など、「東北」という土地の暮らしに根ざした手仕事の数々を間近で見ていると、そこに宿る力強さを感じずにはいられません。

「『東北』というと厳しい寒さや不毛な土地のイメージがありますが、手仕事の時間は日常のうれしいひと時だったのではないかと思います。東北が生んだ、創造性豊かな民藝をぜひ楽しんでほしいです」と、同館の学芸員の古屋真弓さんは話します。

中でも目を見張ったのは、編組品と刺し子の細やかさ。まさに、美は細部に宿っていました。

長い農閑期があったことも丁寧な手仕事につながったと考えられるものの、実用性だけを見ればここまで緻密に作り込む必要はなさそうです。けれども、そこに東北の人々が小さな幸せや美を見つけたことによって、多様で豊かな東北の民藝が生まれてきたのかもしれません。

棟方が「土地の宿命」と語った厳しい環境の中でも、楽しみを見出してきた東北の人々の生きる力や暮らしぶり。日々を大切に生きることの尊さ、そしてそこから生まれる健やかで力強い創造力には、現代を生きる私たちも見習うべきものがあるはずです。(ライター・岩本恵美)*会場の写真は許可を得て筆者が撮影

棟方志功と東北の民藝
会期:2021年10月1日(金)~11月23日(火・祝)
会場:日本民藝館(東京都目黒区駒場)
開館時間:午前10時~午後5時 (入館は30分前まで)
入館料:一般1,200円、大高生700円、中小生200円など
休館日:月曜日
京王井の頭線「駒場東大前駅」西口から徒歩7分
小田急線「東北沢駅」東口から徒歩15分
詳しくは同館公式サイト

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