【開幕レビュー】「あぁ、あれだ」「えっ、これも」 納得と驚きの連続で、膨大で多岐にわたる仕事の全体像が理解できる「和田誠展」

展覧会名:和田誠展
会場:東京オペラシティ アートギャラリー(東京都新宿区西新宿3-20-2)京王新線初台駅東口(直結)徒歩5分
会期:2021年10月9日(土)~12月19日(日)
休館日:月曜日
開館時間:午前11時~午後7時(入場は午後6時半まで)
入場料:一般1200円、大・高生800円、中学生以下無料
詳しくは展覧会HP

会場をゆっくりと進んでいくと、「あぁ、あれだ」という納得と、「えっ、これも」という驚きに次々と出会い、楽しみながら和田誠さんが残した仕事の幅広さと、膨大な作品量を感じられます。

似顔絵コーナー

私にとって「あぁ、これだ」は、会場に入ってすぐ左側の壁一面を埋める似顔絵。中央に置かれた大きなビートルズを始め、マイケル・ジャクソン、黒柳徹子、薬師丸ひろ子ら内外の著名人が、和田さんらしい、はっきりとした優しい輪郭と、ベタ塗りのパステル調のきれいな色で描かれています。名シーンの作品を目にすると、描かれたスターたちの当時の輝きがよみがえります。

星新一さんの本

個人的には、中高生時代に読みふけった星新一さんの本の表紙や挿絵も懐かしかったです。星さんのショートショートの挿絵といえば、和田さんか真鍋博さんが有名です。解説には、多くの画家が大事なオチを絵に描いてしまうなか、和田さんはオチを描かずに読者の興味をそそる挿絵を描いていたとありました。言われてみれば、その通りで、星さんのショートショートの名脇役に徹して作品を盛り上げていたことを改めて知りました。

ハイライト(撮影:清水奈緒)
和田さんの独特な手書き「フォント」

一方、「えっ、これも」と思ったのは、たばこのパッケージです。愛煙家でないこともありますが、ハイライトをデザインしたのは知りませんでした。多摩美大を卒業後に入社した広告制作会社で手がけたそうです。後に「和田文字」と呼ばれる独特の手書きのフォントで、自らのポスターや装丁を彩ってきました。改めて見るハイライトのパッケージからは、その「原型」を感じました。

週刊文春の表紙コーナーのほんの一部

見る人を圧倒するのは、長い壁一面を埋める「週刊文春」の表紙です。担当した2000号分のほぼすべてを、犬、猫や星座などのテーマごとに飾っています。「そういえばこの表紙の号は買ったな」「あの事件の頃だったかも」などと、昔を思い出します。

4歳の時に描いた作品
先生たちの似顔絵で作った高校の時間割

これまで、和田さんの展覧会といえば、絵本やポスターなどテーマを絞ったものだったといいます。しかし、今回は201910月7日に83歳で亡くなられてから2年後に開かれる回顧展ということで、和田誠というクリエイターの全体像を提示しようとしています。

今回の展示資料数は約2800点。4歳の時の絵や、高校時代に先生たちの似顔絵で作った時間割など世に出る前の貴重な資料も目を引きます。担当したキュレーターの福島直さんは「こんな多くの点数を展示するのは人生で初めてです」と笑います。「和田さんのイメージを聞くと、みなさん、イラストレーターだ、映画だ、音楽だ、グラフィックデザイナーだと、人それぞれです。この展示を見て、自分の持っているイメージと違うものを発見していただけたら」と話します。

高く険しい山を知るには、たくさんの登山ルートが必要でしょう。2800点という膨大な資料を提示することで、「和田誠」という類いまれなクリエイターの多彩で大量な仕事を知って欲しいという福島さんの情熱も、ひしひしと伝わってきます。

(読売新聞美術展ナビ編集班 若水浩)