「ハリー・ポッターと魔法の歴史」 直筆原稿やメモでJ.K. ローリングの創造の秘密にせまる

兵庫県立美術館で開かれている特別展「ハリー・ポッターと魔法の歴史」(11月7日まで)では、直筆原稿やスケッチなど「ハリー・ポッター」シリーズの作者であるJ.K. ローリングの創作の秘密がわかる資料が惜しみなく披露されています。前回「【レビュー】「ハリー・ポッターと魔法の歴史」 ホグワーツの生徒になった気分で魔法界の源を学ぶ(前編)」に続く今回は、世界中を魅了するベストセラーが生み出されたプロセスに着目して、展示の見どころを紹介します。

原稿にある書き込みやマーク

J.K. ローリングは物語を創りあげる過程で、どのような修正や選択をしたのでしょうか。

今展では、大英図書館が所蔵する貴重な書籍や資料などが多数展示され、「ハリー・ポッター」の物語の根底には、実際の歴史や伝説などが流れていることがわかります。
そうした中で、会場のあちこちにJ.K. ローリングの直筆原稿やメモ、スケッチなどが並び、創作のプロセスを知ることができるのです。

第2章の展示風景

第2章「魔法薬学」には、『ハリー・ポッターと謎のプリンス』の原稿が展示。原稿にはJ.K. ローリングと編集者の添削がなされ、編集作業の痕跡が残っています。
描写されている場面は、スラグホーン教授の授業です。
教授が魔法薬を次々に見せて、なんという薬かと聞くと、ハーマイオニーが「真実薬」「ポリジュース薬」「魅惑万能薬」と次々に答える、あのシーンです。

ここで注目したいのは、星印がついた書き込みです。
ハーマイオニーの好きな匂いが書き加えられています。
魅惑万能薬は、その人が何に惹かれるかによって異なる匂いがしますが、ハーマイオニーが嗅ぐと、刈ったばかりの芝生や新しい羊皮紙などの匂いがします。五感に訴えることで、ハーマイオニーの個性が際立ち、人物描写に深みが増したわけです。

入学後にどの寮を選択するか

ホグワーツ魔法魔術学校に入学した生徒の運命を分けるのが「組分け」の儀式です。グリフィンドール、レイブンクロー、ハッフルパフ、スリザリンの4つの寮のうち、どの寮に振り分けられるのか?

第5章の展示風景

第5章「呪文学」では、振り分けの方法を構想したメモが展示されています。
メモを見ると、振り分け方法には、候補がいくつかあったことがわかります。「創始者の4つの像が動き出して、生徒たちを選ぶ」「監督生が選ぶ」など。
ご存知の通り、原作では「組分け帽子」が生徒の寮を決めます。
しかし、もし他の候補が選択されていたら、どのような描写になったのか、想像するだけで面白い。

第9章の展示風景

展覧会図録に載っているJ.K. ローリングの言葉です。
「計画を練っているときは、いろいろなアイディアが同時に湧いてくることが多い。だから、アイディアが飛んできてそばを通り過ぎるときに、一番いいものを捕まえて、紙の上に残しておくようにしている」

第9章の「魔法生物飼育学」で展示されている『ハリー・ポッターと死の秘宝』の手書き原稿からは、創作のスピード感が感じられます。
ハリーたちがドラゴンの背中に乗ってグリンゴッツ銀行から脱出する場面を初めて描いた時のものです。
原稿には、インクの青い文字が流れるように、びっしりと書き込まれています。隅に記された矢印は、前ページに続くことを示します。線を引いて削除したり、余白に文を追加したりした形跡もはっきり。

第10章の展示風景

今展の最後の第10章「過去、現在、未来」では、『ハリー・ポッターと不死鳥の騎士団』の構想を記したメモが展示されています。
時系列が表で表わされ、その時点での登場人物の居場所が細かく記されています。
ちなみに、この構想では秘密の闇魔術防衛組織が「不死鳥の騎士団」と呼ばれ、正式な抵抗組織が「ダンブルドア軍団」と呼ばれているが、原作では名称が入れ替わっていることがわかりました。

J.K. ローリングが描いた魔法界のスケッチも

展示順が前後しますが、J.K. ローリングが魔法界をどのような具体的なイメージで描いていたのかがうかがえる数々の直筆スケッチも注目です。

第1章の展示風景

第1章「旅」では、ホグワーツの全体像を示すスケッチに目をひかれました。これがJ.K. ローリングが空想したホグワーツの舞台です!スケッチには、ホグワーツ城や暴れ柳、クィディッチ競技場も描かれ、湖の中には、大イカのイラストも。

J.K.ローリング《ダイアゴン横丁の入り口のスケッチ》 1990年 J.K.ローリング蔵
©J.K.Rowling

第4章「呪文学」で展示されている、ダイアゴン横丁の入り口が現れる過程を示したスケッチは必見です。
このスケッチには、『ハリーポッターと賢者の石』の第5章「ダイアゴン横丁」で、ハグリットがハリーをはじめて魔法界へ連れて行く際、レンガを傘で3度叩く場面が描かれているのです。

細部まで描きこまれたスケッチから、J.K. ローリングがいかにリアリティを追求しながら、空想の世界を描いたかが伝わってきました。

「ハリー・ポッター」の物語の魅力は、そのリアリティにあると言えます。
魔法界は、私たちが住む世界のすぐ隣に存在しているのかもしれない。身近なところに、魔法界への入り口が秘められているのかもしれない。そう思わずにはいられない現実感が、多くの読者を夢中にさせ、魔法界へと引き込んでいったのでしょう。

多くの人を勇気づけた魔法の物語には、作家の創作意欲と工夫の数々がありました。「ハリー・ポッター」シリーズの愛読者のひとりとして、改めて尊敬と感謝の念を抱きました。
(ライター・三間有紗)

特別展「ハリー・ポッターと魔法の歴史」
会場:兵庫県立美術館(神戸市中央区脇浜海岸通1-1-1)、阪神岩屋駅(兵庫県立美術館前)から徒歩約8分、JR神戸線灘駅南口から徒歩約10分
会期:2021年9月11日(土)~11月7日(日)。月曜休館
開館時間:午前10時~午後6時(入場は閉館の30分前まで)
観覧料(日時指定制):一般1,800円(当日2,000円)、大学生1,300円(当日1,500円)、高校生以下無料、70歳以上1,000円など
各時間帯とも予約不要の「当日券」を会場にて若干数販売。数量限定で、なくなり次第終了
2021年12月18日(土)~2022年3月27日(日)に東京ステーションギャラリーにも巡回する
詳しくは展覧会公式サイト(https://historyofmagic.jp/)を参照

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