【カラフルな魔女】角野栄子さんインタビュー 「自由な心が豊かなコミュニケーションを生み出す」 10月18日のEテレ「カラフルな魔女」は得意の料理を披露

番組内で、得意のトマトソーススパゲティを披露する角野さん(写真はNHK提供)

「魔女の宅急便」で知られる児童文学作家の角野栄子さんが、Eテレ「カラフルな魔女」の新作が放送されるのを前に、リモートで「美術展ナビ」などのインタビューに応じました。角野さんは「心を自由にすることが豊かな言葉のコミュニケーションを生み出す」と話し、自身の創作や生き方の核心に「自由な心」があることを強調しました。「魔女の宅急便」のスピンオフ新作が年明けに発刊され、別の新作も執筆中と、86歳にしてその意欲は衰えを知りません。10月18日(月)夜放送の「カラフルな魔女」では得意の料理を披露します。(聞き手・読売新聞美術展ナビ編集班 岡部匡志)

作れないものは書かない

Q 「カラフルな魔女」について教えてください。今度の放送は得意の料理がテーマですね。

A 料理が得意なのは過去形です(笑)。今はちゃちゃっと、ひと皿ふた皿作るぐらい。自作の物語によく料理を書くのですが、食べられない、あるいは作れないものを書いたことはありません。ビー玉でご飯を作るとか。そういうのは無しです。子供が読んで、親に「これ作ってくれる?」とか「一緒に作ってみようよ」という形になるのがいいですね。これまでに作品に出てきた料理で一番好評だったのは、「おばけのアッチ」に登場した「いもむしグラタン」です。ネーミングにインパクトあるでしょ!本当にいもむし入ってるのかな・・・?作り方は本を読んでください。(笑)

番組、本に触れるきっかけになれば

Q 昨年以来、「カラフルな魔女」はこれまでに4作が放送されました。ご自身の感想や周囲の反応はいかがですか。

A わたしの毎日の暮らしは単調なので、番組になるのかなあ、と思っていました。朝起きて仕事して、午後になったら(自宅のある鎌倉の)海を散歩し、コーヒーを飲んで、という日々の繰り返し。だから材料が足りないんじゃない?とプロデューサーさんにも言ったのです。「きれいに撮ってね」ぐらいしか注文していません(笑)。

ところが放送が始まると、夜遅くの番組なのに知り合いからドドッと感想のメールが来るし、私が着ていたワンピースの型紙が欲しいという方がいるとか聞きました。立ち寄り先の店なんか、鎌倉の人ですらほとんど知られていないところなのに、わざわざ調べて来てくださった方が何人もいらっしゃったようです。今はなかなか本が読まれない時代なので、この番組をきっかけにして読書に関心を持ってもらえたらいいなって、考えています。

Q カラフルな洋服、小物がステキです。

A 割とうるさい家に育ち、父親は「娘はおしとやかで、お上品でなければ」が口癖。服も紺やグレーを着せたがりました。大人になって働くようになってだんだん変わってきました。赤い服を着てパーティーにいったら「似合うよ!」と言われて。今は少々娘のセンスに助けてもらってますが。唯一のぜいたくはメガネです。シワも隠してくれるし(笑)。ちょっとお値段が張るのでエイヤっと決心して買います。また古くなった縁が金属性のメガネは、メガネ屋さんに頼むと染め直してくれるのです。全然違う色になって、あれはとっても得した気分!

自分の心を自由に動かせないと相手のことも分からない

Q 番組を見た多くの中高年層が、「角野さんみたいに年齢を重ねることができたらいいな」と思っています。何かコツはありますか。

A 誇れるようなコツなんてありませんけど、若いときにブラジルで暮らしたことは大きかったと思います。ブラジルでは、「自分の考えを遠慮せず正直に表さないと、相手に理解されない」ということを学びました。異国ですから「察する」という日本人の感性はあまり通用しないし、「私はこれができます」といえば、その通りに受け止められます。日本では美しいと思われている控えめな表現は理解されないですね。そんなこともありブラジルで自分の表現を磨くことや、心は自由でなければいけないことの大切さを痛感しました。相手の言っていることを理解するためには、自分の心を自由に動かせないと分からないですから。

それに敗戦後の経験も大きいです。わたしが10歳の時に日本は戦争に負けました。それまでは人々の暮らしが、国家によってひとつの言葉に規制されていました。戦争に勝つために、食べ物が足りないのも我慢、疎開するのも我慢、空襲で家が焼けても我慢。他の言葉を持つ自由がありませんでした。それが敗戦とともに海外から映画は来る、ジャズも来る、シャンソンも来る、文学も、すさまじいハジけっぷりで押し寄せてきました。日本人は変わり身が早いなあ、驚きつつもこの自由を手放したくない、自由な心でいろいろなことを考えたいと思いました。世の中にアピールするとか、ある種の運動をするとかいうことではなく、あくまでも一人の人間として自由に生きていこうと思いました。

Q 作品を作ることにも通じますね。

A 言葉には目に見える形がありません。だから言語でコミュニケーションするには、想像力が大事です。ましてブラジルで暮らしている時は、こちらのボキャブラリーが豊富ではないので、想像力がないと伝わらないし、相手が言っていることも分かりません。言葉の持つリズムも大切です。言葉を棒読みしたのでは伝わりませんが、逆に気持ちを込め身体を動かして話せば、日本語だって通じることもあります。これは本を書く時でも同じです。自分の中にイメージを持って、心を自由にして、イマジネーションを豊かにして書けば、相手に伝わる。そのような姿勢で書きたいといつも思っています。

テーマはひとりひとりに。

Q 心の自由、が大切なのですね。

A 特に子供を対象に作品を書くことを考えると、自分の心が自由でないと、ついお説教みたいなことを書いてしまいがちです。自分の考えを押しつけるようには書きたくないのです。よく、「角野さんがこの作品で書きたかったテーマは何ですか」と聞かれます。「読んだあとに、あなたの心の中に生まれたもうひとつの物語がテーマです」と答えることにしています。物語を読んで、自分の問題として引きつけない子供はいません。たとえば「すごい」と思ったとします。その「すごい」という短い言葉の中には、その子の中に生まれたいろいろな感情が込められているはずです。その時、同時進行で、その子ども自身の物語が始まっているのです。それはひとりひとり違うでしょう。ひとりひとり違うほうがいいと思います。みんなが同じ考えを持たなければならない時代にはもう戻りたくありません。

Q 子供の時に読んだ「魔女の宅急便」や「おばけのアッチ」を、大人になってからまた読み返すと、読み方が全然違って、二度楽しめた気がします。

A 1982年から始まった「魔女の宅急便」は今やおばあちゃん、おかあさん、お子さん、と3代にわたって読まれています。1979年にスタートした「アッチ」にいたっては小さいお子さんまで含めて4代ぐらい。「親子で読んでいますよ」「もうすぐ4代です」と聞くとすごくうれしいですね。

母の死、「自分が半分」という意識

Q 年明けに出版される「魔女の宅急便」のスピンオフ作品、『ケケと半分魔女 魔女の宅急便 特別編その3』(福音館書店、来年1月中旬発売予定)について教えてください。

A 私は5歳の時に母を亡くしました。以来、「自分が半分だ」という意識がどうしても離れないのです。母の伝統のようなものがないので、自分の心の中で、「どこかが欠けている」という気がしてならないのです。母のことを考えると必ず「死」がついて回ります。

今回の「ケケと半分魔女」も、魔女である母に死なれた女の子の物語です。母親に関する記憶は私と同じようにあまり無いのですが、「私も魔女なのかもしれない」と思いつつ、断片的に聞こえてくる音を探して、旅をする、というストーリーです。

Q 自伝的要素を含んでいるのですね。

A そうですね。入ってますね。この本の作りがちょっと面白いですよ。それは「魔女の宅急便」の3作目に出てくるケケという少女が大人になって小説家になり、この物語を描いているという仕立てになっているところです。それで表紙が二つあるんですよ。面白そうでしょ。出版されるのが楽しみです。

新作は戦後を生きる少女

Q さらにもう一編、新作を執筆中と。こちらも自伝的な小説だそうですね。

A 「イコ・トラベリング(仮題)」というタイトルです。戦後を生きる少女を描いています。6年前に出版した「トンネルの森 1945」という作品では、戦中の「イコ」を描いており、その続きになります。

戦争が終わると、瞬く間に、私たちの暮らしは自由になっていきました。もちろん、食料は不足、家もまだまだ十分ではありませんでした。でもこれから何か新しい事が始まるという気持ちを、誰もが持っていました。みんないきいきして、目がキラキラしていました。

そういう時代に飛び出していった少女の中学、高校、大学時代を描いています。怒濤のごとく入ってきた、欧米の文化、映画や、音楽、文学に、すっかり魅了され、ここではない何処かにこころを奪われる少女の物語です。

(おわり)

「カラフルな魔女~角野栄子の物語が生まれる暮らし~」放送予定

10月18日(月)Eテレ22:50~23:15

番組ホームページ(https://www.nhk.jp/p/ts/GX1J391X7M/

<再放送>

10月 4日(月)22:50~ 「海と旅」

10月11日(月)22:50~ 「見えないものを見るメガネ」

角野栄子(かどの・えいこ)さん

東京・深川生まれ。大学卒業後、出版社勤務を経て24歳からブラジルに2年滞在。その体験をもとに描いた『ルイジンニョ少年 ブラジルをたずねて』で、1970年作家デビュー。代表作『魔女の宅急便』は舞台化、アニメーション・実写映画化された。産経児童出版文化賞、野間児童文芸賞、小学館文学賞等受賞多数。その他、「アッチ、コッチ、ソッチのちいさなおばけ」シリーズ、「リンゴちゃん」「ズボン船長さんの話」。紫綬褒章、旭日小綬章を受章。2016年『トンネルの森 1945』で産経児童出版文化賞ニッポン放送賞、183月に児童文学の「小さなノーベル賞」といわれる国際アンデルセン賞作家賞を、日本人3人目として受賞。

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(読売新聞美術展ナビ編集班)

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