【レビュー】「キューガーデン展」英国王室が愛した花や植物の絵画や陶器 東京都庭園美術館で11月28日まで

「キューガーデン 英国王室が愛した花々 シャーロット王妃とボタニカルアート」が東京都庭園美術館(東京・目黒)で9月18日から11月28日まで開かれています。
「キューガーデン」の愛称で親しまれている英国のキュー王立植物園所蔵のボタニカルアートを中心に、18〜19世紀に制作されたおよそ100点を展示。キューガーデンの発展に貢献したシャーロット王妃をキーパーソンに、英国における植物画や自然科学の発展の歴史をたどります。


会場には植物画だけでなく、王妃が愛したウェッジウッド社の陶器や当時の複写機なども並び、英国で植物画や自然科学が栄えた背景に啓蒙思想や産業革命による近代化という側面があったことがうかがえる展示構成になっています。
旧朝香宮邸の空間を生かした展示
山梨、静岡、山口と巡回してきた本展ですが、東京都庭園美術館ならではの鑑賞の楽しみは何と言ってもその展示空間です。
アール・デコ様式の旧朝香宮邸を活用した本館では、各部屋に合わせて作品が展示されています。

例えば、ウェッジウッド社の皿やポットなどの器は大食堂や小食堂を中心に集結。
壁面には植物文様の銀色のレリーフ、暖炉上にはアンリ・ラパンの彩り豊かな壁画など邸内でも色鮮やかな印象がある会食用の大食堂には、その室内装飾とは対照的に、シャーロット王妃が「クイーンズウェア(女王の陶器)」の名称を与えた乳白色を基調としたシンプルな陶器の数々が主に並びます。

一方、朝香宮家が日常的に使っていた小食堂には床の間もあり、どこか和の雰囲気が漂う空間。落ち着いた空間の中で、金や朱色などで草花があしらわれた「ジャパン文様」の皿とカップ&ソーサーの華やかさがより一層際立ちます。
圧巻の『フローラの神殿』


旧朝香宮邸の空間を生かした展示の中でも圧巻だったのが、西欧の博物図鑑愛好家の間でも人気が高い植物図鑑『フローラの神殿』の図版の数々。
一般的な植物画が無地の背景なのに対し、本書に収載されている植物画にはどこか物語を感じさせる背景がしっかりと描き込まれています。

作品一つひとつの個性が強いだけに、展示空間も室内装飾に存在感のある場所が多いです。薄暗い照明が印象的な書庫や、アール・デコ調の放物線デザインの壁紙とカーテンにインパクトがある朝香宮殿下の居間などは、作品との相乗効果で、独特な雰囲気が漂う特別な空間になっています。

本展を担当した吉田奈緒子学芸員は「どこかあやしげな魅力がある作品の雰囲気に合わせて展示空間を選びました」と話しています。
植物図鑑に入りこんだような
一方、ホワイトキューブの現代的な展示空間が広がる新館のギャラリー1には、1787年にロンドンで創刊された学術誌『カーティス・ボタニカル・マガジン』に掲載された図版がずらり。まるで図鑑の世界に入り込んだかのような気分が味わえます。
ギャラリー1の一角には、18世紀のイギリスの邸宅にあった「ドローイング・ルーム」を再現したコーナーも。
「ドローイング・ルーム」とは、訪問客をもてなす応接間で女性を中心とした社交の場。読書や絵画制作に使われることもあり、当時の英国女性たちの教養の一つでもあった植物画の制作現場でもあったといいます。
お気に入りの椅子やティーテーブルを置いて、植物画や水彩画の制作に没頭できるとは、何とも優雅な時間が流れる空間です。この華やかな再現コーナーも、無機質な展示空間だからこそ映えて見えます。
実際に見られる植物にはマークも
こうした展示空間を楽しみながらも、一つひとつの作品鑑賞の際にぜひ注目してほしいのが、展示キャプションについているマーク。
美術館の庭園や隣接する国立科学博物館附属自然教育園で見られる植物にはマークがついており、見頃の季節ごとに色分けされています。
会期中の9月〜11月に見頃となるのはオレンジのマーク。実物写真もあわせて展示されているので、それらを頼りに植物画として見た草花を探してみるのも一興です。美しい花々をアートでもリアルでもじっくりと楽しんでみてください。
(ライター 岩本恵美)
キューガーデン 英国王室が愛した花々 シャーロット王妃とボタニカルアート |
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会場:東京都庭園美術館(東京都港区白金台5-21-9) |
会期:2021年9月18日(土)~11月28日(日) |
開館時間:午前10時~午後6時 (入館は30分前まで) |
入館料:一般1,400円、大学生・専門学校生1,120円、中高生・65歳以上700円など オンラインによる日時指定制 |
休館日:月曜日 |
問い合わせ:050-5541-8600(ハローダイヤル) |
詳しくは同館公式サイトへ |